第23話 試合開始!

 ついにきちまった……。試合会場である総合体育館の控室で、俺は天井を見上げていた。もう間もなく、試合が始まる。考えているよりも体は正直で、胸の鼓動がはっきりと聞こえてくるようだ。

「準備はできてるか?」

「副部長……」

 目の前に来ると、側近君は白湯を口に含む。こんなときにもいつも通りなのだからすごい。それだけは素直に認めざるを得ない。

「ほかのどんなやつに負けても、あいつらにだけは勝たなきゃならん」

「そうだな」

「何としても寝ろよ。お前にはそれができる」

「あぁ……」

 あれ以来、寝ることだけはやたらと信用されてるんだよな……。まぁ、少しでも距離が縮まったと思えばいいか。

「さて、そろそろいくぞ」

「あれ、妹ちゃんは……」

「ネムか。彼女なら先に会場へ行ってるぞ」

 なるほど、妹ちゃんも気合十分らしい。気合入れちゃ睡魔が飛んでいきそうだけど、入ってしまう気持ちもわかる。

 とりあえず、俺が最初に寝なきゃ始まらないんだ。邪魔が入らないようにスマホの準備もできている。ASMRと妹ちゃんのなでなでが組み合わされば負けるわけがない。そうだ、俺はできるんだ。

「よし!」

 気合を適度に抜きながら、俺たちはスタジアムへと向かった。



「あ、おーい」

 スタジアムに着くと、妹ちゃんが元気よく手を振った。それで寝れるのかってくらい元気にあふれてるんだけど……大丈夫か?

「どうだ、準備は」

「はい、バッチリです!」

「って、なんで脱いでんの!?」

 いやいやいや、何の準備ができたんだ。試合前だってのに寝るって意味をはき違えてないだろうな!?

「……へ?」

「何を慌ててるんだ」

「せんぱーい、ダメっすよ。やらしい考えは」

 パジャマの中から、部長の発明品がじゃらじゃらと出てきた。どうやら武器庫の役も担っているらしい。まぁ、動くことが多いかもしれない側近君が持っているよりはいいか。

「おーっほっほ、ごきげんよう!」

「げ、この声は……」

 現れた。朝比奈高校のメンバーだ。今日も腹が立つくらいの高飛車ぶりだ。

 それに反して、ほかの二人はすでに戦闘態勢だった。いや、この場合は就寝態勢ってとこか。

「今日が睡眠部の命日ですもの。心行くまで楽しんでいきなさい」

「勝手に言っていろ。俺たちは必ず勝つ」

「ま、そうだといいわね」

 始まる前からバチバチだよ。まぁ、そりゃそうか。因縁の相手だしなこいつらは。出会ったばかりの俺だってそう思う。

「では、そろそろ試合を開始したいと思います」

 声が割り込んできた。大会の審査員だ。いよいよ試合が始まる。

「直前ですが、ドーピングの検査に入りたいと思います」

 検査だと? 何も聞いてないぞ。ってか教えてくれなかったよな部長たち!

(なぁ、これって何の検査なんだ?)

(あぁ、そういえば話してなかったな。睡眠薬を飲んでいないかの検査だ)

 なるほど……思ったより本格的だな。息を吹きかける。こんなので分かるのか? あれか、テレビでよく見るアルコール検査と一緒か。そう思うようにしとこう。今は極力頭を使いたくない。

「……オッケーです! では始めたいと思います。一同布団へ」

 審査員の指示で、各々の布団に入る。まぁ、すぐ動くだろうけど、一応の礼儀らしい。

「チーム全員が就寝できたと判断した時点で勝利とします。直接攻撃は失格。それ以外は不問! では……はじめ!」

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