第2話 歓迎会

「えー、ではこれより桜庭風太の歓迎会を始める!」

 側近君の一言で、俺の歓迎会が幕を開けた。

「では部長」

「うん」

 側近君に促され、部長がコップを前に突き出す。

「それじゃ……乾杯!」

「「「乾杯!」」」

こうして、ゆるっと俺の歓迎会なるものが始まった。各々が紙コップに注がれたジュースを口に含む。部屋が部屋なだけに、紙コップが不相応な気もするが、そこは気にしないほうがいいんだろう。

「改めて自己紹介させてもらうねー」

 コホン、と咳払いをした部長に視線が集まる。

 どれだけ小さくて可愛くてもそこはやはり部長なのだろう。取り仕切るさまは変わらず可愛いけれど。

「わたしが部長の夢原ゆめはらまくら。こう見えても三年生だ」

「ふぇ!?」

 なんだって? 上級生? おいおい、これが合法ロリってやつか。マジかよ実在してたのかよ。都市伝説だと思ってた。

「何さ」

「い、いや……てっきり年下かと」

「失礼だなー、こう見えても二十歳だぞ!」

「……もう一回言ってくれません?」

「貴様は馬鹿か? 部長は二十歳だとおっしゃったんだ」

 いやそういうことを聞いているのではないんだ。案外、側近君の方がバカなのかもしれない。

 とにかくこの超絶ロリ美少女は成人してもなお留年し続けるおバカちゃんという認識でいいのだろう……いいのか?

「ま、わたしはこれくらいだよ。んじゃ次、間宮まみや君ね」

「はい!」

 甘ったるい声に促され、側近君が立ち上がる。

 直立した彼は、俺をまっすぐに見つめていた。

間宮英二まみやえいじ、二年! 副部長をしている! 以上!」

「はぁ、よろしく……」

「む」

 なんだ、また何か気に障ったのかこいつは。

 いやに鋭い視線が、またしても俺を刺す。

「貴様はまともに挨拶もできんのかぁ!」

 ずっと思っていたが、なんなんだこいつは。情緒が不安定にも程があるだろ。それかあれか? カルシウム不足なのか?

「なんでそんなに突っかかるんだよ?」

「貴様が腑抜けておるからだろ!」

「なんだとぉ!」

「ほーら、すぐにケンカしない」

 どうどう、と部長がなだめる。派手にキレ散らかしているものの、俺に危害を加えようとはしない。忠実な下僕のようだし、部長の前で手荒な姿は見せないつもりか。息はめっちゃ荒いけど。

「まー、間宮君はこれくらいでいっか。んじゃつぎー」

「ほーい」

 この子はたぶん知っている。てか俺を羽交い絞めにしたやつだろ! 顔は見てなかったけど、声に聞き覚えがありすぎる。

「えっと……この部唯一の一般部員、夢原ネムです!」

 ん? 夢原? ってことは、部長とは……。

「姉妹なのか? って思ってない?」

「へ、まぁ……そりゃ」

「ごめいとー、ネムはわたしの妹だ」

 まぁ、そうだろう。こんな珍しい苗字ほかにいないだろうし。それにしても姉妹かぁ。どうりで雰囲気が似てるというか……ロリよりかはショタっぽい? 部長とは正反対のイメージだ。背丈は俺と変わらないみたいだけど、顔がどう見ても幼い。部長よりも髪色は暗いみたいだけど、きれいな琥珀色の瞳はそっくりだ。

「というわけで、一般部員第二号君! よろしくっす!」

「はい?」

 ものすごく歓迎されているようだけど、なんか勘違いされていないか? 俺は別に入部する気なんてさらさらない。そもそもここには無理やり連れてこられたんだ。俺は被害者だぞ!? しかも実行犯Bだし。

それにこの妹ちゃん、妙にバカっぽくないか? なんか表情が垢ぬけているというか。何も考えてなさそうというか。具体的には言葉にできないけど。

「よーし、それじゃ君の番だ。風太君」

「俺の名前知ってるんですか?」

「まぁ、細かいことは気にしない。ほら」

 部長にうながされ、側近君に立たされる。この時点で、俺は全員の視線を一点に集めることになった。これまた断ったら殺されかけるんだろうなぁ。今日だけで一生分の理不尽を食らっている気がする。

「えー、桜庭風太。二年でーす」

「先輩だ!」

 妹ちゃんがクソでかい声で合いの手を入れる。いや、これは合いの手とかいうレベルじゃないな。割り込みだ。

 子犬のようなつぶらな瞳で、彼女は俺のことをずっと見ている。先輩というだけでこうまで慕われるのも中々ないぞ。

 今にもじゃれついてきそうな妹ちゃんを、側近君が制した。

「えー、このバカは放っておいて。とにかく入部してくれてうれしいよ」

「いやいやいや。俺入部する気ないですよ?」

「「「は!?」」」

 やーっぱり誤解されてたか。

 それにしても全員が全員そう思い込むなんてことあるか? こいつら本当はみんな揃ってバカなんじゃないだろうか。ここにいたら俺までバカになってしまう。いや、もう手遅れか。

 とにかく、ここから逃げないとまずい。

「そ、そういうことでー……さいなら!」

「どこへ行く?」

 俺は出口へと走るため、全力で振り返る。しかし、軸にしていた左足首を思いきりつかまれ、気が付いた時には俺は地面とキスをしていた。

「いってー……」

 顔面も痛いが、足首はもっと痛い! どうせあの側近君の仕業だろうが、バカみたいに痛い。骨折れてないよなこれ。めちゃくちゃズキズキ痛むんだけど!?

 痛みで動けないでいると、頭上が影で覆われた。うん、もうこれは逃げられん。だが考えろ。万が一、いや億が一でもこの状況を打破することができるかもしれない。何事も動いた人間に勝利はやってくるものだろう。なら、俺がとるべき行動は一つ。

 さぁ、立ち向かうために立ち上がるん

「観念しなさいな」

「次は本気でやるぞ」

「そうだそうだー!」

「は、はい……」

 すみません俺が間違ってました、やっぱ長いものには巻かれるべきだよね、うん。権力サイコー。

ってか部長の手にある何か武器のようなものはなんだ。いかにも「お前の体に風穴を開けてやるぜ!」と言わんばかりのドリルは俺に使うために持ってるんじゃないよね……ね?

 こうして俺は(百パーセント強制的に)睡眠同好会とやらに所属することになった。

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