アソコに白い粉

龍玄

第1話 夢の終わりの始まり

 「今年度、修学院ミスキャンパスグランプリは…」ダラダラダラダラ、パン。真行寺鳴海さんに決定致しました。学生時代、これと言って目立つことをしてこなかった鳴海は、就職の際のアピールポイントになればと周囲のひやかしも手伝い、ダメもとで参戦したミスコン。周囲の協力も得て思いがけない栄冠を手にした。それからというもの周囲の見る目が変わり、ちやほやされる快感に酔いしれていた。

 今までとは生活が一変した。招かれて出向くと芸能人を見るように接してくる者たち。特に、男性は自らのプライドを掛け、限定品をネットオークションで競り落とすように鳴海に群がってきた。

 豪華な食事、裕福な家庭のご子息、将来ある有望なイケメン。交わる事が少なかった別世界が広がりを見せていた。

 鳴海には、中学時代非行歴があった。親の強力な進めで私学に合格。押し付けられた生活への不満と思春期が重なり、中二病を悪化させ、自暴自棄になり、短絡的に行動することで鬱憤を晴らしていた結果だった。幸いにもその病は軽度で、中等科から高等科に上がる弊害になると諭され、受験受験の毎日から逃れるためにも克服し、人生行路の修復が行えたことだった。平凡な高校生活を経て大学に進学。

 自由な時間を手に入れた鳴海は、学生生活を謳歌し、恋人も出来た。学生と言う安定した身分と自由を手に入れた鳴海は、将来の夢より、性欲がその日の生き甲斐と感じ、大学二年になると同じテニスサークルの柳沢賢人と同棲生活を送るようになっていた。良くある話だ。でも、それが幸せだった。

 何不自由のない性欲の趣くまま過ごす学生生活。それが三回生になると賢人は就職活動に重きを置き、当初はパンツを履く暇もない程、鳴海に入れ込んでいた賢人も飽きてきたのか目標ができたのか鳴海との関係より、先輩との交流に時間を割くようになっていた。一方、鳴海にはこれといった目標がなく、次第に価値観にズレが生じ始めていた。バラ色の同棲生活は、ドライフラワーのように枯れ果てセックスもストレスの捌け口と化していた。就職活動を行わない鳴海に賢人は苛立ちからか見下げるような態度を取り始め、いや、そう感じ始めていた頃にミスキャンパスの話が舞い込んできた。刺激というものに程遠い日々を送っていた鳴海に中学時代の無鉄砲でも日々を感じられる欲求が芽生えた。

 票取り合戦の日々。自分を中心に動く仲間意識。これが堪らなく鳴海には嬉しかった。ミスキャンパスになった後も暫くの間は、特権階級を得た至福感を味わえていた。鳴海は大きな失態をおかしていた。ミスコンの実行員会を通じてミスコンのクライアントとの接触や就活に優位に働く人的つながりの構築を怠っていた事だ。歴代のミスのその後を参考にしなかった。蟻とキリギリスのキリギリスを演じていた。

 就活に勤しんでいた賢人は落ち着きを取り戻し時間に余裕が出来始めていた。反比例するようにちやほやされ夜に出かける鳴海。嫉妬から一時期は苦言を呈していた賢人も将来の話を鳴海にするようになっていた。鳴海に群がる男たちは、勝ち組の席に就いているか予約されている者たち。内定に漕ぎつけ入社してもその後の将来はわからない賢人とは、見えている世界が違っていた。現実の世界を見る賢人。虚構の世界にどっぷりつかる鳴海。ふたりの関係は、倦怠期を迎えた夫婦みたいだった。






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