Phase 06 告発

「どーも!暴露系インフルエンサーのにっしーですっ!今日はあの人気アイドルの裏の顔の続報をお伝えしたいと思います。前に人気アイドル『P』の『J.M』が半グレ集団とコネクションを持っているという事は伝えたと思いますけど、実はもう1人半グレ集団とコネクションを持っているメンバーが『P』の中に存在していました! イニシャルは『Y.I』で、現在公開中の話題の映画にも出演しています。今年の日本映画での興行収入No.1は確実と言われているあのボクシング映画ですよ!」

 アタシは、なんとなくそのボクシング映画に見覚えがあった。というか先日見てきたところだ。東大卒のプロボクサーが、スーパーフェザー級の世界チャンピオンを目指すという話だった気がする。原作の漫画も読んだことがあるけど、現実世界で本当に日本人のスーパーフェザー級の世界チャンピオンが出てしまったから、急遽実写化が決まったのだろう。当然、梅竹映画の夏の話題作として公開。梅竹映画系の作品なので、近辺で見ようと思ったら110シネマズ新宿じゃないと見ることが出来ない。当然、そこが薫くんのバイト先なのは分かっていた。だから、薫くんと一つの生命体になる儀式が終わった後で、アタシは単刀直入に聞くことにした。

「あの、薫くん。『にっしーチャンネル』で『黄金の拳』の主演である猪垣快彦が告発された件があったよね」

「確かに、先日告発されていたな」

「それって、?」

「ビンゴだ」

「矢っ張り。もしかしたら裏でアンタたちが手を回しているんじゃないかって思っていたんだ」

「バレちゃったか」

「バレバレよ。本村准二のみならず猪垣快彦も告発されたら、『プリティ・プリンス』は崩壊寸前じゃないの。夏の長時間音楽番組も出演辞退が相次いでいるわよ」

「そうだな。ヤッている最中にスマホに速報が入ってきたが、ジョニーズ事務所に甘いと言われている4チャンネルの長時間音楽番組ですら出演を辞退している。もしかしたら、『にっしーチャンネル』の告発が後を引いているのかもしれない」

「『プリティ・プリンス』、割と好きだっただけに今回の告発は残念よ。アンチは喜んでいるみたいだけど」

「矢張り、事務所が大きければそれだけ闇も根深いのか」

「そうね。ジョニーズ事務所は国内最大手の芸能事務所よ。福谷雅明ふくたにまさあきが所属しているミューズよりも大きいんだから」

「福谷雅明か。彼が主演を務める『探偵ガリバー』シリーズは確かに面白いな。面白すぎて原作まで買ったぐらいだ」

「まあ、福谷雅明も随分裏で言われているみたいだけど」

「確かに、大御所俳優でかつ大御所ミュージシャンだけあって黒い噂は絶えない。事務所の後輩である四浦冬馬よつうらとうまの自殺報道が盛んだった時に、犯人として疑われていたぐらいだ」

「アレって、陰謀論者のデマでしょ? あまり深入りしないほうが良いと思うわ」

「確かにそうだが、『にっしーチャンネル』はいずれ四浦冬馬の自殺の謎についても追求するかもしれない。その事は視野に入れておいたほうがいいぞ」

「なるほど。でも、アタシたち『歌舞伎町トラブルバスターズ』の出る幕ではないよね」

「もしかしたら、どこかでお世話になるかもしれないな。僕たちが『西谷和義』というコネクションを手に入れたのは事実だからな」

「これで、一気に半グレ集団を追い詰められる事ができるってことね」

「正解だ」

「それはともかく、夜が明けていくわね。いくらなんでも、蒸し暑い時期とはいえ裸のままだと風邪を引くわよ」

「分かっている。今日はもうここで寝ろ」

「はーい」

 結局、アタシは「生命の儀式」が終わった後、そのままアジトで寝ることにした。なんとなく、薫くんのそばにいたかったから、アタシは薫くんの胸に耳を当てる。

「おい、くすぐったいぞ」

「なんとなく、薫くんの心臓の鼓動が聴きたくなった。それだけの話よ」

「そうか。好きにしろ」

 生きている音が、聞こえる。産まれてきて24年間、「生きている」ということを感じたことが無かったアタシにとって、その音は心地よく聞こえた。そういえば、最初に自傷行為リストカットをしたのは中学生の頃だったかな。まだ薫くんと出会う前だったから、誰にも相談できなかった。高校に進学した時に薫くんに出会って、それから度々薫くんに相談する事が多くなった。それでもいじめはエスカレートするばかりで、アタシはどうしようもなかった。だから、あの時に校舎の屋上から飛び降りようとした。まさか、本当に薫くんが止めに来るとは思ってもいなかった。それから、数年経ったかな。薫くんは警官を目指していたんだけど、結局記憶障害を理由に断念。映画館でアルバイトすることになって現在に至るらしい。薫くんの鼓動を聴きながら、自分の胸に手を当ててみる。なんとなく、「生きている」という意味が分かったような気がした。


 翌日。テレビのワイドショーはとあるニュースで一色だった。そのニュースは「ジョニーズ事務所がプリティ・プリンスの本村准二と猪垣快彦を今日付で解雇する」というニュースだった。矢張り、事務所側もこの事態を重く見たのだろうか。恐らく彼らは行き場所を無くして祖露門ソロモンのメンバーとして堕ちていくのだろう。その前に、僕たちがケリを付けなければならない。しかし、どうすれば良いのだろうか。そう思っている時だった。西谷和義から電話がかかってきた。

「もしもし? 鯰尾さん?」

「西谷さんか。一体何の用だ」

「今日、プリティ・プリンスのメンバーが一連の報道に関する謝罪会見を行うらしい。場所は東都電鉄歌舞伎町タワーのホテルだ」

「それって、僕のバイト先じゃないですか。厳密に言えば僕がバイトしているのはホテルじゃなくてその下の映画館ですけど」

「それで、鯰尾さんにお願いがある」

「何だ。簡潔に教えてくれ」

「それって、正気か?」

「僕は至って正気だ。とにかく、記者会見を襲撃するんだ。そして、僕が乗り込む。僕が乗り込んだら、マスコミに対して『事実』を説明する」

「なるほど。しかし、そんな事をしたら僕は110シネマズをクビになるかもしれない」

「あっ、鯰尾君」

「律、丁度良かった」

「一体何ですか?」

「今日、東都電鉄歌舞伎町タワーでプリティ・プリンスのメンバーが謝罪会見を行うらしい。西谷さんから記者会見の襲撃を頼まれたが、僕が襲撃すると都合が悪くなるから君に襲撃をお願いしたい」

「任せてください。僕、こう見えていたずら好きなんで」

「それは分かっているが、万が一しくじったら『歌舞伎町トラブルバスターズ』自体の危機だ」

「大丈夫ですよ」

「じゃあ、骨喰さん、よろしく頼みましたよ!」

「はい!」

 こうして、僕は律に記者会見の襲撃を頼み込んだ。そして僕はいつもどおり110シネマズ新宿のポップコーン売り場のアルバイトにいそしむことになった。


 ――律、幸運を祈る。

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