中年中太り成金アロハシャツおじさんを地獄の底へ叩き落とす所から始まる異世界転移物語

@Tomboy4649

第一章 礼服の男・ジョン

第1話 復讐の先

其処等一面に広がる瓦礫そして血、死体、あらゆる物がひれ伏している状況で立っているのは二人、一人は礼服を着た黒髪の男、一人は赤いアロハシャツを着た男アロハシャツは全身ボロボロで足から血を流している


「もう、逃げるのは止せよ、何したって無駄さ」


 礼服の男が言う、それに刃向かう様にアロハシャツが


「ふざけんな! てめぇ、てめぇ!! よくも!」


 アロハシャツは錯乱しており罵詈雑言を投げつける


「おいおい、止めろよ丸腰でそんな事言われたって怖くないぞ?」


 アロハが礼服の男から離れようと足を引きずって逃げようとする、が足を挫き倒れてしまう


「無様だなぁ、前に見せたあの威勢のいい姿を見せてくれよ、そんなんじゃ張り合いが無いぜ?」

「ク、クソ!! 何なんだよお前は! こんな所まで追って来やがって!」


 ここは孤島、無数に転がる肉塊を除けばこの二人しか存在せず誰の声も届かない


「こんな所にこんなデッカイ別荘建てて警護隊を雇いのんびり暮らしていた様だがどうだよ? 転落した気持ちは?」

「なぁ、許してくれよ、もう満足だろ?」


 この男に何を言っても無駄だと察したアロハシャツはさっきまでの剣幕から一転し弱々しい声で許しを乞い始める


「何言ってんだ、何故こいつらが頭をカチ割られ身体を穴だらけにし、黒焦げになったか分からないのか? 全てはお前を殺す為だよ」

「金ならやる」

「月並みな台詞だな、それを言うのが遅すぎるそれはあの時に言うべきだった、お前はあの時金を出し渋り、俺を殺そうとした、間抜けがあんな事さえしなきゃもっと長く生きられたのに、残念だったな」


 礼服が懐から拳銃を取り出す


「おい止せ、止めろ!」


 拳銃のマガジン部分でアロハシャツの頭を殴りアロハシャツは気絶し床に伏せる


「ただでは殺さねぇよ」


 アロハシャツが目を覚ますと椅子に座らされて、両手両足を椅子に縛られ身動きを取れなくされていた。そして目の前は崖、下は岩落ちたら命は無い


「起きたか?」

「お、おいなんだよこれ」

「お前にチャンスをやる、生きるか死ぬかだ」


 礼服の男がアロハの肩を揉み始める


「お、俺はどうすればいいんだ?」


 礼服の男がアロハの首元に手を伸ばしその首に掛けられている十字架のネックレスの十字架をアロハの口元に近付ける


「キスだ、キスをしろ」

「は?」

「キスをして祈れ」


 アロハは言われるまま十字架にキスをする


「祈れ」


 アロハは目を閉じ祈り始める


「いい天気だな、晴天だ。これは祈るにはいい日なんじゃないか? 神様もよく見えるだろうよ、この迷える子羊がな! さぁ懇願しろ!」


 礼服がそう言うとアロハが縛られている椅子を崖のすぐ傍まで持って行く


「止めてくれぇ!!」


 アロハは涙交じりに声を上げる


「もっと大声で叫べ! そんなんじゃ聞こえないぞ!!」

「たすけてくれぇ!! お願いだ」

「懇願しろ泣き叫べ、お前が頼れるのは唯一つ神だけだ、お前は今ここから落ちる、”運”良く助かる事を祈れ頼め懇願しろ!」

「頼むから、おねがいだ」

「叫べ」

「助けてくれ!」

「もっと!」

「止めてくれ!!」

「もっと!!」

「頼む!!!」

「さぁ! ショータイムだ!」


 礼服がアロハを突き落とす、落ちた結果は言わずもがな、そんな結果をしゃがみながら見て礼服が


「あぁ、残念狼に喰われちまったな」


 と言う

 アロハの男の首に飾られた銀の十字架は砕かれジョンは満足げに微笑む


「子羊はあと二人」


 この男の復讐はあと二人の男の命を持って完結するしかしその前に腹ごしらえをする為ボロボロになったアロハの別荘に入ろうと扉を開き入ろうとしたその時だった。礼服が光に包まれる

 何が起こったからまるで分らないまま光は消え辺りはさっきまでの光景も消え、目の前に椅子に座った老婆と暖炉が現れる、何が何だか分からない礼服はただ目を丸くする


「なんだい? お客さんかい?」


 礼服は後ろを見るだが後ろには壁が在るのみ、その煉瓦で作られた壁に凭れ掛かり、頭を整理するその暫く後


「婆さん、ここは……何処だ?」


 と質問する


「ミランダ婆さんの家だよ」

「へぇ、あんたの名前はミランダ?」

「貴方の名前は?」

「ジョン、俺の名前はジョンだ」


 礼服の男の名はジョン


「ジョン? ジョンで良いのかい?」

「あぁ、それで良い、なぁミランダあんたの息子の名前はカルロスか?」


 カルロスはアロハの男の名前、彼の母親か何かだと思いジョンはそう聞く


「いいや、私は残念ながら子宝に恵まれなくてねぇ」

「それは悪い事を聞いたな」

「いいんだよぉ、悪気は無いんだろう?」

「なぁ、婆さん俺がこれを聞くのは可笑しな事かもしれないが聞いていいか?」


 ジョンは部屋をぐるりと見渡しながらミランダに問う


「いいよ、なんだい?」

「俺は……どうやら意図せず人の家に不法侵入しちまった様なんだが、あんたは騒がなくていいのか? 「泥棒だ!」って」

「泥棒なのかい?」

「まぁ違うんだが」

「なら私が騒ぐ必要は無いんじゃないかい?」


 とあっけらかんと言うミランダだがジョンは釈然としない


「あんたがそう言うなら良いだがな」


(何だ? どうなってる? 何だこの婆さん)


 ジョンは表面では平静を装っているが内心穏やかではない


「あぁ、そうだ貴方お花の水やりを手伝って貰えない?」


 あれやこれやと考え混乱しているジョンにミランダがそう問いかけた。


「水遣り? あ、あぁ」


 老婆が椅子から立ち上がり、ジョンに「こっちよ」と言い着いてくる様ジョンに言う、言われた通り大人しくその後を追う、今ジョンの居る所はレンガに囲まれた部屋灯りは暖炉の炎のみ、扉は一つ付いておりそこをまず潜る、潜った先は食器棚や食べ物が置いてある居間の様な場所そこから外に出る事が出来る

 外に出れば何て事の無い小鳥が鳴き、木が生い茂り、小川が流れている景色、だがジョンはこの光景を知らない、少なくともあの島では無い

 家の周りには白い花が咲き誇っていた。


「さぁ、私は左側をやるから、あんたは右側を頼むよ、如雨露はそこにあるよ、水はあそこの川から汲んで来ておくれ」

「これ全部やるの?」


 ジョンの目の前に白い花がびっしりと植えつけられている



(面倒くさ……)


「あぁ、そうだよ」


 老婆はそう言うとさっさと作業に移る


「マジ?」


 水遣りは日が半分になるまで続いた。


「ご苦労様、ジョンご飯にしようか」


(俺は何やってんだ……さっきまで人をぶっ殺しまくってたのに今では生命に息吹きを与えている……)


 人生は何が起こるか分からないと頭を抱えるジョン


「なぁ、婆さん聞き損なってたが此処は何処の国だ。婆さんの見た目と言葉から察するにアメリカとか?」

「あめりか? 何だいそれは? 聞き覚えの無い名前だね」


(呆けてんのか? それとも極度の世間知らず?)


「此処はねエスカルド国さ、あめりかじゃないよ」


 唖然とするジョン


(呆けてるだけじゃなくて妄想癖でも持ってるのか?)


「ご飯にするから居間で待ってておくれ」

「はぁ」


 ジョンはそんな気の抜けた返事をする事しか出来なかった。

 老婆は台所へと向かったようだ。ジョンも言われた通り居間へと向かい老婆の元に行く


「何か手伝う?」

「別に何もないよ、これを火にかけるだけだからそこのテーブルで待ってておくれ」


 ミランダはそう言って鍋を暖炉の火に当てる、そこでジョンは違和感を覚える、この家にはコンロが無いそれに水栓も無い、コンロが無いから暖炉で鍋を暖めているのだ。よく見れば電球も無い、この老婆の拘りなのかそれとも別の理由か今のジョンには分からない

 薄暗い部屋で食事を取る二人、食事の内容はカブや玉葱などを煮込んだ暖かいスープのみ、食事を終えた後ミランダに許可を貰い家にある本を見せて貰う

 本棚を見る、本は全て英語で書いてある、ミランダが使っていた言語も英語、英語で書いてあるその本は見覚えが無い、聞いた事も無い


「カーター・エディソンの苦悩」

「ヨーキ洞窟が憤怒する時」

「ザザリングドーリング」


 知らない本ばかりなのである、これにはジョンは驚愕する、本はミランダの自作のようにも見えない


(これはもしかしてあの婆さん呆けてる訳でも妄想癖を患っている訳でも無いのか? い、いやまさかな……そんなバカな事がある訳がない)


 聞いたことも無い国名、見た事が無い本……

 ジョンが元の世界で読んだ本で同じ様な状況が描かれていた小説を今ジョンは思い出している


(馬鹿言うな、あれは創作だろ……? 此処は現実なんだ。そんな訳ないだろ?)


 そんな時に暖炉の近くで椅子に座りながら本を読んでいたミランダが


「ジョン、悪いけどこの家にはベットが一つしか無いのだけれど……」

「この家に泊めて貰えるなら何でも良い、俺は台所で寝る」

「あそこは冷えるよ、ここで寝なさい」

「婆さんはそこのベットで寝るんだろ? つまり俺がここで寝るとなれば相部屋になる訳だよな、それは困る緊張で寝れなくなる」

「そう言って貰えるのは嬉しいねぇ」


(受け答えにも問題は見られない、これは本当に……? ウッソだろ……?)


 その夜はジョンは言った通り台所で椅子に座り寝る、最悪の予想が現実になる予感を感じながら

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