第7話 説明している暇はない

「誰っすか」


 魔法館の中にあって、今ここに主の他、シデとヴラドとノエル以外に一体誰がいるというのか。主の言う『あの男』とやらがやってきたのか身構えたが、そこにいたのは一人の少年だ。


「わひィ!?」


 一目見てそれが誰かはわかったが、だからこそ驚いた。


「そんなまさか」

「クリス」


 凍りついた三人に、主は目元の涙を拭って少年を改めて観察した。


「あなたは。わたくしを召喚してくださった方ですわね」

「そうだよアストレイア。僕の魔法館へようこそ。はじめましてだね」


「くくくクリス様が」

「ああ」


「驚かせてしまったね皆。お姫様があんまりにもアレだから僕も目が覚めてしまった。僕も驚いているんだよ」


 シデなんかは驚きすぎて腰を抜かしてしまった。無理もない。クリスはこの魔法館を創った伝説級の魔法使いであり、自身もまたドールとしてこの館で眠っていた。シデもヴラドもノエルも、ドールから覚めた動くクリスに会うのは初めてだ。


「あなたも。ドールでいらしたのですか? あなたはずっと意識があって、魔法を使っていらしたのに?」

「!?」


 最近までドールだったノエルからすれば、それはありえないことだった。館が主を召喚するのだと思ってきたが、あれはずっと、館を介してクリスが魔法を行使していたということだとすれば、いささか後頭部を鈍器で殴られたような衝撃は不可避。


「君を召喚して正解だったようだね。君が必要とするならその契約には僕が応えよう、僕たちは互いを必要としている」


 主はパッと顔を輝かせた。一秒でもはやく結婚したいからか話が早くて助かる!という感情が垣間見える。いや、結婚って何。


「大好きクリス愛してる」


 マジ助かるサンキュくらいの軽快なノリで繰り出される愛の言葉。ほんと結婚って何。まるで茶番でも見ているような気分だが、クリスが主の手の甲に唇を押し当てた。


「愛してるよ僕の花嫁」


 途端。幾重にも魔法陣が展開する。大掛かりな機械仕掛けの装置が動き出す。


「永久の契約」


 こんな切羽詰った結婚は未だかつて見たことがない。しかしながらこのスピード婚がかろうじてギリギリセーフの滑り込みだった。空を裂く雷鳴が空気を震わせ、何者かの来訪を告げた。


「じゃあ早速。花嫁を死守するための全力戦闘といこうじゃないか」


 この世界には、魔法をもってして抗うべき敵がいる。しかしながら、今これから対峙するのはそれではない。主がいた異世界からの追手。高次元の世界。


「クリス……本気か」


 ノエルはドールから回復しきれていない。ヴラドはもとよりあまり魔法を使わない。ここに戦力を期待するのは間違っている。ここには戦えないドールしかいない。


 高次元などという未知に挑める道理もない。


「本気だよ。そのために僕が来たんじゃないか。アストレイアを失うことは千年の損失だ。そんなわけにはいかない」

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