38話。聖者ヨハンの罪を公開し、地獄に突き落とす

 俺は今すぐ、コレットをこの手に抱きたい衝動を懸命に抑える。

 ヨハンがコレットにかけた【聖縛鎖(ホーリーチェイン)】の呪いは、未だに健在。まずは、ヨハンを仕留めることだ。


 それにしても、まさか、ヨハンがアンジェリカ王女を人質に取るという愚行を犯すとは、思わなかった。

 ……これは使えるな。

 ヨハンを破滅させ、俺とコレットが幸せに生きる未来を作る。そのための方策が浮かんだ。


『【イヴィル・ポイント】1000を消費して、スキル【ハッキング】を修得しました!

 敵の魔導具を乗っ取って使えるようになるスキルです。クールタイム24時間。』


 俺は修得したスキル【ハッキング】を使って、城内にある【投影魔法発生装置】にアクセスした。

 複雑な魔法回路の構造が、頭に飛び込んでくるが……黒魔術師を極めた俺には、その使い方が直感的に理解できた。


 魔力を流してやると、王都上空に、先程と同じように聖者ヨハンの映像が映し出される。俺はそれを窓から外をチラッと見ることで確認した。


「2週目の世界に連れて行ってやるとは……? どいう意味ですか、魔王カイ?」


 ヨハンは俺の振った話に興味を惹かれたようだった。

 俺たちの会話は、聖王都中に放送されていたがヨハンはそれに気づかない。


 俺は闇の結界を張って、この周辺に他人が入ってこれないようにした。この結界には、遮音性もある。


「お前がコレットを拉致したのは、魔王から人々を守るためじゃなくて、コレットの能力を私的に利用したかったからだろう? だから一目散にコレットを連れて逃げようとした。違うか?」

「ふんッ、その通りですが……何を今さら」


 ヨハンはいぶかしながらも、致命的な一言を発した。


「そ、それは本当なのですか、聖者ヨハン様! そ、そそそのために、わたくしまで人質に取って……!?」


 アンジェリカ王女が震える声で、問い質した。

 彼女にはナイスアシストと、拍手を送りたい心境だ。


「そんなことはどうでも、よろしい。魔王カイ、あなたは2週目の世界に行くためのアイテムを持っているそうですね? もしや、あなたの狙いは、和平ですか? くくくっ……そのアイテムを私に与えてくれるなら、聖王陛下に掛け合って、和平を実現しようではありませんか?」

「わたくしの質問に答えてくださいませ、ヨハン様! あなたには国家反逆罪の容疑がかかっているのですよ。お父様への目通りなど、今さら許すとお思いですか!?」

「うるさいお方ですね、アンジェリカ王女。女子供の出る幕ではありません。引っ込んでいなさい!」

「なっ……!」


 ヨハンはますます墓穴を掘る。

 王女に対する不遜な物言い。聖王や民たちの反感を買うには十分だ。


「アンジェリカ様、ヨハン殿には何を言っても無駄です。2週目の世界に行ければ他人など、どうなっても良いというのが、彼の考えなのですから……」


 コレットが王女を安心させるように抱きしめた。


「うううっ……では、やはり、カイ様が助けてくれなければ、わたくしは拷問されていたかも知れないのですね」

「クハハハハッ! その通り。ですが、この私に聖者の証たる【光の紋章】がある限り、人々は私を神の代弁者と崇め、ひざまずきます。聖王が信じるのは、あなたの言葉ではなく、私の言葉ですよアンジェリカ王女!」


 おめでたいことに、ヨハンは未だに自分が優位に立っていると思い込んでいるらしい。


「くっ……なんじゃ、この男。勇者アレスも下衆じゃったが、それに輪を掛けて下衆じゃのう」


 グリゼルダが顔をしかめた。


「ヨハン、俺の目的はコレットと平和に暮らすことだ。聖王国と俺との間に、恒久的な平和を結ぶことができるなら、お前の望みの品を与えてやっても良いぞ」

「くくくっ……これは願ったりです。しかし、ご存知でしょうが、私は【アイテム鑑定】のスキルを持っています。もし、偽物など掴まさせれたら、和平など叶わいと知りなさい」


 もちろん、知ってるさ。


『【イヴィル・ポイント】1000を消費して、スキル【鑑定偽装】を修得しました!

 【アイテム鑑定】の結果を一部書き換え、偽装できるスキルです。有効時間1時間。クールタイム3時間』


 俺は新たに【鑑定偽装】のスキルを修得して、コレットの【時のミサンガ】の鑑定テキストの一部を書き換えた。


『【時のミサンガ】。愛する人と再び会いたいという【時の聖女】の願いがこもったミサンガ。2週目に入るために必要なアイテム。握りしめて祈ると、5年前の世界にタイムリープできる』


 実際には、このアイテムの効果はすでに失われており、祈ったところで何も起こらない。


 【時のミサンガ】は、コレットと俺とを繋ぐアイテムだ。

 本来なら、ヨハンになど決して触らせたくないが……俺とコレットが幸せに生きていくために必要なことだと割り切る。


「……これだ。受け取れ」

「こ、これは本物……!? 本物の2週目の世界に入るためのアイテムですか!」


 ヨハンは【時のミサンガ】を手にすると、爆発的な歓喜に打ち震えた。


「ハハハハッ! これさえあれば、これさえあれば……!」

「それじゃ、さっそく魔王軍と聖王国軍の和平の仲介をしてもらおうか?」

「くはッ! そんなことをする訳が無いでしょう!? 愚か者同士で、勝手に殺し合っていなさい。私は2週目の世界に行く! これで世界は我が物だぁ!」


 ヨハンは【時のミサンガ】を恍惚とした表情で握りしめる。

 ……だが、しばらく待っても何も起こらなかった。


「はっ……? な、なぜ?」

「残念だったなヨハン。それは確かに本物だが、もう効果は失われているんだ。それに、お前の本音は

【投影魔法発生装置】をハッキングして、聖王都中に放送させてもらった。みんなが知ったぞ。聖者ヨハンの本性をな」


 俺は闇の結界を解除した。

 それによって、外界の音も聞こえてくるようになる。


「おのれぇえええ! 皆の者、裏切り者の聖者ヨハンを拘束せよ!」

「ハッ!」


 ドヤドヤと大勢の兵士が押し寄せてくる。彼らを率いているのは、聖王だった。

 ヨハンの破滅は、今、この瞬間、決定したのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る