29話。エルザに勝利し、すべてを奪う

「カイ! 降りてきて、私と戦え!」


 エルザが剣を振りかざして、俺を挑発した。

 ヤツはすでに肩で息をして、疲労困憊だった。


 俺がエルザに仕掛けたのは、1週目の俺では魔力量不足で使うことができなかった地形操作魔法【毒沼(ポイズン・レイク)】だ。


 スキル【MPアップLv20】を修得し、最大魔力量が大幅にアップしたことで使用可能になった。

 その効果は絶大だった。

 この毒沼は身体を痺れさせるだけでなく、どんどん体力を奪っていく。


「勘違いしてもらっては困る。俺はお前がぶざまに這いつくばるところを見たいんだ。なぜ、わざわざそんなことをしなくちゃならない?」

「なっ、なんだと……!? 」


 エルザは絶望に顔を歪ませた。

 おおかた、俺と一対一で戦えば勝算があると踏んでいたんだろう。


「ヒギャアアア! お、俺は助かりたいんだぁ!」


 エルザの背中に、ヤツの手下のひとりが弓矢を放った。

 勘の鋭いエルザは、身を屈めて不意打ちを避ける。


「お、お前、この私を裏切ったなぁ……!?」

「ひっ!?」

「偉いぞ。約束通り、お前の命は助けてやる」


 怒りに燃えたエルザは、ファイアーボールを投げつけて、裏切り者を処刑しようとする。

 だか、上空から急降下してきた俺のアークデーモンが壁となって、火球を跳ね返した。


「なっ!? 上位悪魔!?」


 アークデーモンは、裏切り者を掴んで空へと離脱する。

 エルザたちは目を丸くしていた。


「あひゃあああ! た、助かった……!?」

「どうだ? 俺に従えば、死の運命から解放してやるぞ。エルザを攻撃しろ」

 

 無論、これは嘘八百だ。

 こいつらは、ひとり残らずアンデッド化させて、聖王都攻めの戦力に使うつもりだった。


「うっ、うぉおおおお! 俺は魔王に……いや、魔王カイ様に付くぞぉお!」

「お、俺もだぁ! くたばれエルザ!」

「小娘の癖に、いつもいつも偉そうにしやがって、ブチ殺してやるぜぇええ!」


 ヤツラの結束は、一気に崩壊した。

 しょせんは、欲得で繋がっていた連中だ。絆など、あってないようなモノだった。

 エルザは手下どもから、一斉に攻撃を受ける。


「お、お前ら!? くぅうううッ【リミッター解除】!」


 追い詰められたエルザは奥手を使った。その身から大地を震撼させる程の強大な魔力が、ほど走った。

 鬼神のごとき立ち回りで、エルザは群がる手下どもを蹴散らしていく。


「どうだエルザ。裏切られるのは結構、堪えるだろう?」

「くぅっ! 待ってろ! すぐにコイツらを全員、ぶっ倒してお前の首を刈り取ってやるからな!」


 エルザは強気で怒鳴る。

 最後に頼みにするのは、自分自身の力だという強烈な自負を感じた。

 仲間など、この娘は最初から信じてはいないのだろう。

 ならコレで心を折ってやるか。


「スキル【リミッター解除】。全ステータスを5分間3倍にするが、効果が切れると反動で丸一日、ステータスが半分に激減する、だろう?」

「な、なぜソレを……!?」


 俺がヤツのスキルの詳細を告げると、エルザは目に見えて狼狽した。

 奥の手について、誰にも教えていなかったのだろう。

 だが、俺は前世で何度か、エルザが【リミッター解除】を使うところを見ていた。


「お前の負けは確定した。俺は5分間、逃げ回っていれば良いんだからな」

「ち、ちくしょうおおおおッ! バカにしやがって、勝ったつもりかぁああ!?」


 エルザは火炎の魔法剣を大きく振るって、手下を薙ぎ払う。

 次の瞬間、ヤツは俺に向かって跳躍してきた。

 毒沼が爆散して、飛沫が盛大に飛び散る。風の魔法で爆風を噴射して、驚異的なスピードを得たのだ。


「死ねぇええ! 【紅炎斬(こうえんざん)】!」


 すべての力を使ってのエルザの究極の一撃だ。

 もっとも、そう来ることは読めていた。

 【紅炎斬(こうえんざん)】についても、俺は知り尽くしている。


「【瞬間移動】!」


 俺はすでに詠唱していた【瞬間移動】の魔法で、エルザの奥義をかわす。


「なにぃいいいッ!?」


 俺が出現したのは、エルザの完全な死角となる上空だった。

 エルザは俺を必死に探すも、もう間に合わない。


「【ヘルファイア】!」


 続けて俺の放った無数の黒い火球が、エルザに降り注いだ。


「おぐぅうううう!?」


 エルザは身体にいくつもの穴を穿たれて、毒沼に倒れる。

 着地した俺は、容赦無く魔法を撃ち続けた。エルザは防御に徹して亀のように固るしかない。

 そろそろ頃合いか……

 なんとか立ち上がろうとしたエルザの頭を、俺は瞬間移動して踏みつけた。


「ぶはッ!?」


 もう【リミッター解除】の効果は切れており、エルザに俺を跳ね除ける力は無かった。

 エルザは毒沼に顔を沈められ、息ができなくなって、もがく。必死にもがく。もがく。


「俺の勝ちだ。お前が、生き残れる道はたったひとつだ。俺に絶対の忠誠を誓え。【従魔の契約】を受け入れて、俺の下僕となるんだ」


 コレットを奪い返すための捨て駒として、俺はエルザを下僕にするつもりだった。

 【リミッター解除】は、聖女の大結界を破壊するためのキーとなる。


「エルザ、お前には、四天王のクラスを与える。受け入れるなら、俺の右足に触れろ」


 もがくエルザは、一にも二にもなく俺の右足を掴んだ。

 

「よし。これで、契約は成立した。エルザ、お前は俺に逆らうと生命を奪われる俺の下僕となったんだ。生まれ変わった気分はどうだ?」

「うぁあああああーッッッ!?」


 足をどかしてやると、跳ね起きたエルザは屈辱に絶叫した。頭を抱えて、涙さえ見せている。


「お、お前ぇ……! この私をぉおおお!?」

「喚くな。最初の命令だ。お前の貯め込んだ財産を、聖王都攻めの軍資金としてすべて差し出せ」

「な、ななななんだって……!?」 


 守銭奴のエルザは、顔を真っ青にした。この女にとっては、これ以上ない苦痛だろう。


「嫌か? 嫌なら死ね。俺の命令に逆らった瞬間、【従魔の契約】により、お前は死ぬ」

「おっ、おぐぅうううう! 私がお前の下僕……!?」

 

 俺の言葉が嘘偽りではないことを、エルザも感じ取ったのだろう。

 エルザは身体を見下ろして呻いた。


「さあ、どうする? 死か従属か?」

「わ、わわわかった! お前……じゃなくて、カイ様に従う! よ、よく見れば、カ、カイ様は、す、すごくかっこいいし……!」


 エルザは屈辱に顔を引きつらせながらも、媚びへつらうような声を出した。


「わ、私は強い男が好きなんだ。カ、カイ様の女にしてもらえれば……」


 エルザは胸元をはだけようとする。

 ……おいおい、負けた途端、今度は色仕掛で俺に取り入るつもりか?

 俺は呆れ果てた。

 俺の女になって、金と権力を握ろうとでも考えているのかも知れない。


「俺にはコレットがいる。2度と、同じことを口にするな。殺すぞ」

「は、はぃいいい!」


 俺の殺意に当てられて、エルザは縮み上がった。


「やったのじゃ! カイ様が勝ったのじゃ!」

「あのエルザ一党を手玉に取って、一兵も減らすことなく勝利するとは! さすがは魔王様! 我らが英雄!」

「グリゼルダ様! 私たちの領地が、ついに取り戻せましたよ!」


 収容所に待機していたグリゼルダたちが、大喝采を上げて押し寄せてきた。

 俺は地形操作魔法【毒沼(ポイズン・レイク)】を解除し、元の地面に戻す。

 これで、本当の勝利の宴ができるな。


『エルザ一党を倒して、エルザを服従させました。おめでとうございます。【イヴィル・ポイント】2000を獲得しました!』


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名前 :カイ=オースティン

クラス:黒魔術師(ダーク・スター)

レベル:999

スキル:【魔剣召喚】。【従魔の契約】。【アイテム鑑定】。【闇属性強化Lv10】【MPドレインLv5】【死神の手】【MPアップLv20】

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