無責任吸血鬼少女

第4話

「ようし、お前らしっかり起きてるな」

　アニキ、お疲れ様っす！

「……もしかして、今日か？」

「ああ、そうだ。今からオークション会場へと向かう」

　アニキがそう言いながらシドの牢屋の鍵に手をかざすと、音もなく鍵が外れて扉があいた。

「シド、お前はもう何回も行ってるから分かるだろ、白い馬の方だぞ」

「うっせぇな、分かってるよ。へっ、どーせ俺なんて売れねぇのに毎度毎度、よくもまあ飽きねぇな」

「いいからさっさと行け！」

　シドはあくびをしながら出口の方へと歩いて行った。

「おい、ガキ！　……ほら、お前も出ろ。……よし、ついてこい」

　もう私が首輪を持っていることについては何にも言わなくなったな。いや、いいんだけどさ。　

　アニキの後をついて地下から地上への階段を上り、そのまま外に出るかと思ったら、アニキは玄関口を通り過ぎて別の部屋に向かった。

「お前は愛玩目的で買われるだろう。ここで体を綺麗にしてこい」

　今遠回しに私のこと美少女って言った？　えへへ、でも愛玩目的って絶対性的な意味だよね？　そっかそっか、奴隷って労働力もそうだけど、そういう方面もあるのすっかり忘れてたわ。どうしよ。

　言われた通りに部屋に入ると大きな桶があって、中に水がたまっている。その近くには小さなタオルと小さなバケツがある。体を拭けということだろう。

　さて、首輪どうしよかな。体を拭くには手を使わないといけない。その瞬間にアニキが入ってきたらさあ大変。キャー！　エッチ！　とか言ってる場合じゃない。……私の体汚れてないし、別にフリでいいか。

　適当に足で水をパシャパシャやって、言われた通り体を綺麗にしたフリをして、アニキのもとへ戻る。

「ようし、そうしたらこの服に……」

　やったあああああ！　ようやく服が手に入る！　てか一生全裸なのおかしいだろ！　……いや待て、手を使わないと服は着れないぞ。どうしよどうしよ……。

「いや待て……」

　アニキはそう言って手に持っていた真っ白なワンピースと私を交互に見て、ワンピースを私にあてがう。私の視界が白に染まる。

「よし、お前は全裸だ。白い馬の馬車に乗れ」

　結果、全裸続行。助かった。まあ私の身長よりワンピースの方が大きかったからね仕方ないね。

　外に出ると三つの馬車があった。

　一つは白い馬の引く、超豪華な馬車だ。全体的に白いカラーリング。車輪だったり荷台だったりに金色が入っていて、格式高い感じがする。

　残りの二つは茶色い馬が引く、普通の馬車。私がここに連れてこられた時に乗ってたやつよりは上等なやつっぽいけどね。

　言われた通り馬車の荷台に乗ると、中ではシドが待っていた。

「よお、待ってたぜ。……お前結局全裸かよ」

「むしろ助かる」

「は？　……ああ、そうだな」

　いや、ほんとピンチだったのよ？

「よし、乗ったな」

　アニキが荷台を覗き込んで私とシドの顔を確認すると、間もなくして馬車は動き始めた。

「お前、これからどこへ向かうか分かってんのか？」

「オークション」

「そうだけどよ、普通のオークションじゃねぇ」

　……まあこの馬車の豪華さを見るに、VIP専用とかそういう話だろうか。

「俺たちみたいな希少種は、すげぇ偉い人たちに売られるんだ」

「エロい？」

「『偉い』な？　それ貴族連中に行ったらお前死ぬぞ」

「いやん」

「は？」

　シドこわーい♡……でも勝手なイメージだけど貴族って変態が多いイメージ。確か前世地球の貴族もそんな話がたくさんあったはず。同性愛とかも聞いたことあるし……シドにもそういう需要はあるのだろうか？　気の強い犬耳青年、ふむむ、そっち方面は前世であんま触れなかったジャンルだからなぁ。分からん。でも、否定はしない。癖なんてみんな違ってみんないいだからね。

「私、理解はある方」

「なんだよ急に？　ああ、俺のことか？　まあ嫌う奴は多いけどよ、これでも気に入られて、貴族様にこの身を捧げていたこともあるんだぜ？」

「大変？」

「別に大変ってことはねぇよ。ごちゃごちゃうるせえ口を無視して強引に突っ込んで、アイツを黙らせてやった時の快感はなかなかのもんだったぜ」

「……大変態」

「……おい待て分かった、黙れ！」

　シドからガチ説教を受けた。どうやらシドにその気はないし、シドに求められる役割もソレではないらしい。じゃあ、今のはなんの話？

「……今話したのは昔、盗賊団のアジトを潰した時の話だ。危険だってうるせえアイツを無視してアジトに突っ込んで、敵を全部殺してやったんだ」

　野蛮だなぁ。でも、今ので何となく分かった。アニキがたびたび口にする黒狼族というシドの種族は、戦闘力に特化した希少種ってことだろう。だから愛玩ではなく戦闘力的なところを目的として買われる。まあ、性格に難ありってことでシドは売れ残っているようだが。

「小耳に挟んだが、お前吸血鬼なんだって？　……信憑性は微妙なところだな」

「えへへ」

「褒めてはねぇよ」

　まあ、シドは私の不思議パワーを目の当たりにしているからね。伝承とはかけ離れていたとしても、何とも言えないだろう。

「お別れ」

「は？　ああ、いや、お前は多分売れねぇよ」

「は？」

「自己評価たけぇなおい」

　いやいや、我美少女ぞ？　こんなん会場の端から端まで、全員がこぞって欲しがるに決まっとるやろがい！

「その体じゃなあ……好きな変態野郎もいるにはいるだろうが……」

　シドはそう言って、起伏ゼロの私の体を見る。

　マジ？　私だったら絶対買うけどな。

　そんなこんなでとりとめのない話をしていたら馬車が止まる。着いたか？

「よし、お前ら降りろ！」

　そう言って下ろされたのは、これまた立派なお屋敷の前だった。屋敷を囲う外壁はピカピカで、かつ等間隔に兵士が置かれて警備は万全。外壁を超えると庭があって、美しい噴水や綺麗な花壇で彩られている。

　私がキョロキョロしながらついていくと、アニキとシドはそのまま屋敷の裏手に向かい、裏口から中へ入った。

　中もすっごい豪華だ。目が痛い。

　広い廊下を何度か曲がると一つの部屋の前に到着。アニキが扉を開けると中には数人の人が椅子に座っていた。みんな奴隷だろう。首輪ついてるし。

　シドは勝手知ったる顔で椅子を乱暴に引くと、ドカッと足を机の上に乗せて、腕を頭の後ろで組んでリラックス。流石、何度も来ては売れ残っているだけのことはあるな。

　私も流石にシドほどはリラックスできないが、椅子に座ろうと机に近づく。……あ、シド？　椅子引いてくれない？　私、首輪抑えてて、手が使えないからさ。

「おい、ガキ。待て。お前はここじゃねぇ」

　はえ？　男女別？　いやでもあそこに鳥の羽が生えたお姉さんいるけど？

「……お前は魔獣だろ」

　シドから爆弾発言。え？　私って魔獣なの？　獣人とか亜人とか、人間に近い種族じゃなくて魔獣なの？　モンスターってこと？

「そういうこった。……ああ、そういやガキは来るの初めてだったな。こっちだ」

　アニキが部屋の外に出てしまったので、仕方なくついていく。

　広い廊下をまた歩くと、やがて地下への階段。また地下かよ。

　そこにはまたまた牢屋があって、牢屋の中にはたくさんの動物が繋がれていた。

　三つの頭を持つ犬や、羽の生えたライオン。体が燃えている鳥なんかもいる。

「魔獣はここで待機だ。……っとそうだ、魔獣は首輪以外にも、できるだけ拘束を強くする決まりなんだ。手枷と足枷もはめるぞ。おいガキ、首から手を放せ」

　ピンチ。え、これもう詰んでない？　

「どうした、早くしろ。すぐ終わる」

　えーい、もうどうにでもなーれ☆

　私が手を首輪から話すと首輪は地面にゴトンと落ちた。

「は？　……てめぇ、何をした」

　そんな怒らんでくださいよアニキ！　私だってね？　まさかこんな風になるとは思わなかった。

「いつからだ？　……やけにシドが騒いだあの時か」

　やっべこれ黙ってたシドも同罪？　巻き込むのは申し訳ないな。ただまあ、申し訳ないけど、どうしようもないんだけどさ。

「……で、お前はなぜ逃げない？」

　はい？　ああ、まあ逃げられるけど、逃げ出したところでなぁ。どうせ野生動物の餌エンドだし、奴隷の方がいい生活を送れる可能性が高い。

「……ほんとに気持ちわりぃ奴だな。お前には枷なんかいらねぇ気がするが、まあルールだ。貴族連中がビビるからな。……どうやったか知らねぇが、外すんじゃねぇぞ。売れちまえば好きにしろ。俺の知ったこっちゃねぇ」

　……とりあえず、穏便に終わったとみていいのか？

　アニキが言ってた通り、首と手足に枷がはめられ、首から伸びた鎖が牢屋の中にある金属棒と繋がれる。ガチで動物扱いじゃん。

「頼むからおとなしくしててくれよ。面倒ごとだけは起こすな」

　アニキは頭を抱えて、溜息をつきながら去っていた。

　さて、……私って魔獣なの？

　え、え？　ちょっとそれショックなんだけど！　もっと人間寄りじゃないの？　だって見た目はこんなにも人間よ！？　羽が生えてるくらいで、そんなの獣人と変わらないじゃん！　なんで魔獣扱いなの！？

　答えてくれる声はない。……ダレカタスケテ。