33 星空の下で
次の日の朝、寝落ちするまでおしゃべりしていたものの、しっかり睡眠をとった女性陣に反して、なんだか眠たそうな男性陣と一緒に朝食をとる。
今日は、リゾート地ならではの美術館や博物館を回る予定だ。
護衛の関係から6人で同じ建物に入るが、中ではそれぞれの時間を満喫するため別行動だ。
レオナルドとソフィアは、初めて恋人らしい距離感でのデートとなった。
恋人つなぎというのも初めての経験だ。
レオナルドの満面の笑みを見るたび、ソフィアは照れてしまう。
「フィフィ、幸せだ」
「わ、私もですわ」
ソフィアは恥ずかしそうにうつむく。
レオナルドは、そんなソフィアが可愛すぎて居ても立っても居られず、人目に付かない柱の陰にソフィアを連れていった。
「レ、レオ様、こ、ここは外だからダ……」
レオナルドのその行動は軽くも短くもなかった。
「レオ様! 建物に入って5分でこれではデートになりませんわ」
のっけっからお叱りを受けてしまった。
お化粧も落ちてしまいましたし……などとブツブツ言っているソフィアもかわいいなと思うレオナルドだった。
レオナルドに対し冷ややかな目を向けたエマにお願いして化粧を直してもらい、その後は館内の美術品や絵画を鑑賞する。
レオナルドとソフィアは、芸術品に対する好みも似ていることがわかり、次第にソフィアの機嫌も直ってきた。
そして美術館の中にあるショップまでたどり着いた。
「フィフィ、旅行の記念に何か買わないか?」
「はい」
「これなんかどうだ?」
「ガラスの万年筆! 綺麗だわ」
無意識にお互いの瞳の色のペンを手にとる。
「これは一本一本職人が作った逸品だ。思い出の品にちょうどいいな」
「ええ。これがいいです。レオ様の瞳の色だから」
……無自覚なんだな。
こっちの身にもなってくれ。
レオナルドは口元を手で覆い、崩れてしまう表情を隠すのが精一杯だった。
「フィフィ、このリゾート地は、今の季節は星空が綺麗なことで有名らしいから、今日の夜一緒に見に行こう」
「はい。楽しみです」
キラキラの笑顔で答えるソフィアを見て、またさっきの続きをしたくなるが、流石に我慢するレオナルドだった。
その日の夜、ソフィアは約束の時間になるとレオナルドと一緒に外に出た。
エリザベスとマリアベルも同じ理由で外出だ。
お互い邪魔をするのも悪いので、星空観賞ポイントは離れたところになるよう、話がついているようだ。
ソフィアとレオナルドは事前に準備されていた大きな敷物に並んで座る。ランタンの灯りを最小限に調節して、星空を眺めるのだ。
「本当にきれい」
「今日は雲もなく、満天の星空で最高だな」
「キラキラしていて美しいわ」
「ああ、本当に美しい」
レオナルドの声が近くから聞こえて、そちらを向くとレオナルドと目が合う。
「フィフィが美しすぎて、星さえ霞むようだ」
「!!」
レオ様、星空見ていないわ。
ソフィアは、ランタンの灯りくらいではバレないだろうが、おそらく赤面している。
レオナルドが姿勢を改め、ソフィアの手を取る。
「フィフィ、いや、ソフィア・エトワール侯爵令嬢、学園を卒業したら一緒に帝国に来てほしい。そして、俺の妃になってくれないか?」
「私でよろしいのですか?」
「フィフィ以上にふさわしい女性はいないよ」
「でも……」
「フィフィ、俺の唯一は君だ。君じゃなきゃダメなんだ」
「……」
「フィフィ、一生君を愛することを誓うよ」
レオナルドのすがるような目がソフィアを見つめている。
「はい。……私でよろしければ」
レオナルドはソフィアの手にキスを落とす。
ああ、断られなくてよかった。今日は人生最高の日だ。
レオナルドはソフィアを抱きしめた。
「正式に婚約者として発表する時には、カチューシャをはずしてくれないか? 君の母上のようにならないよう俺が守るから」
「母のことをお調べになったのですか」
「ああ、すまないが結婚するために必要なことはすべて調べることになっていてね」
「傾国の美女と呼ばれていた母に比べたら私に興味を持つ男性はそれほどいないと思うわ」
「フィフィは自覚がなさすぎる。君の素顔は危険なんだ。今日だって、君を見て振り返る男や顔を赤らめる男だらけだったじゃないか。本当はほかの男たちに見せずに閉じ込めておきたいくらいなんだ」
と、閉じ込めって……。
レオ様って独占欲が少しお強いのかしら?
少しどころではないが、それがソフィアに伝わることはない。
「せっかくの星空だ。もう少し堪能しよう。フィフィ、この場所は寝転んで観るのがおススメだそうだ」
広げた敷布に寝ころびながら、レオナルドが言う。
「ほら、フィフィも横になって」
と言って、自分の真横をポンポンとたたく。
ソフィアはレオナルドが示した場所より少しだけ離れて横になる。
「少し隙間があるな。もっと側に行っていいか?」
レオナルドがソフィアのすぐ隣まで近づいてきて、完全に『添い寝』状態だ。
「レ、レオ様、近すぎて星空に集中できませんわ」
「気にするな。ほら、上を見て」
ソフィアは目線を上にあげるものの、星空を堪能する余裕はなくなっていた。
ふと、顔の前が暗くなり、目を凝らすと半身を起こしたレオナルドがソフィアの顔を覗き込んでいた。
「フィフィ、俺が君を守る」
レオナルドの手がソフィアの耳の横から頭の後ろにまわされた。
次の日の朝のエマとルイスの会話はこんな感じだ。
「ルイス様、報告です。レオ様の星空観賞時間は28秒でした」
「短っ! 残り全部の時間をフィフィ様に費やしたということか。恐ろしいな」
「でも、やっとプロポーズはできたみたいです」
「はぁ~ここまで来るのに長かったな」
「この後のレオ様からの指示が読めました」
「僕もだ」
「「婚約の手続きが最優先だ!」」
帰りの馬車では、女性3人のトークタイムだ。こんなにゆっくり3人で過ごせる最後の機会かもしれないため、ここも男子禁制とさせてもらった。
「ソフィー、やっと告白もプロポーズも受けたのね。良かったわ」
「旅行前にどんよりしていたのが嘘みたいね」
「私もやっと自分の気持ちに素直になれたの」
すると、マリアベルが何かを思い出したように言う。
「ルイス様もそうだったけど、ここから先、嵐のようなスケジュールになるかもしれないわよ。ソフィー」
「えっ、どういうこと?」
「家に帰ればわかるわ」
ソフィアはちょっとだけ不安になった。
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