20 謎解き
イベント当日、学園の生徒たちは朝早くから班ごとに集合していた。これからそれぞれのスタート地点に向かうのだ。
今日は、レオナルドの肩に乗っているミールちゃんは見ないように我慢しないとならない。至近距離なので目線でバレてしまわないようにするためだ。
まずは、班のメンバーで自己紹介だ。クラスと名前と趣味など簡単なアピールをするのだが、リリアーヌは違っていた。
「レオ様ぁ~、同じ班になりましたわね。これこそ運命のお導きですわ」
「……」
レオナルドの冷たい視線もものともせず、ぐいぐい近づいていく。
「あの態度は何でしょう? アレ、一応ダミアン殿下の恋人? なんですよね?」
「あの子は愛称呼びの許可を得ているのでしょうか?」
「不敬だな。下手したら国際問題になりかねない」
ほかのメンバーが、怪訝な表情を隠しきれないでいる。
リリアーヌとレオナルドをなるべく引き離した方がいいだろう。
ソフィアは提案することにした。
「では、スタート地点まで移動しましょうか? レオナルド殿下、せっかくですのでまずは男子生徒同士で交流を持たれてはいかがでしょう?」
「そうだな。下の学年とはなかなか接点がないからいい案だ」
「では、リリアーヌさんは私たちと一緒に行きましょう」
「は? わたしはレオ様と二人で歩きたいのよ」
「今日は班行動なので、班のメンバーと交流を持つことが目的なのよ。せっかくのイベントがもったいないわ」
「そんなのどうでもいいわ。今日はレオ様とだけ、話したいの」
「その愛称呼びも許可をもらってから……」
「あなた、いちいちうるさいわね。ダミアン殿下の婚約者から外されたことを未だに根に持っているのね。ほんと地味なうえに性格まで暗いのね」
そう言うと、リリアーヌは男子3人が歩いているところに加わってしまった。
「困りましたね。では、ジェシカさん、私でよければ一緒に行きましょう」
「はい。ソフィア様、私ずっとあこがれていたんです。今日はご一緒できてうれしいです」
「こちらこそ、今日は色々話しましょうね」
「はい!」
結局、リリアーヌは終始レオナルドの隣を独占した。
イーサンとジャスティンも居心地が悪くなってしまい、ソフィアとジェシカのところに合流して2:4に分かれてしまった。
「レオナルド殿下に申し訳ないですわ」
「仕方ありませんよ。あの人、聞く耳をもっていないのですから」
イーサンも同調する。
「それより、ソフィア様、この間の音楽祭、3年Aクラスのお三方の演奏、素晴らしかったです。僕、一緒に演奏したくなったくらいです」
「イーサン君にそう言ってもらえるなんて、こちらこそ光栄ですわ」
「そ、その、ソフィア様にお願いがありまして。今度僕を加えた4人で四重奏しませんか?」
「まあ、うれしいですが、私たちでは力不足なのでは?」
「そんなことありません。お三方の卒業までのこり数カ月しかないのです。これを逃したら実現は難しくなります。僕に学園時代の思い出をください!」
「では、ほかの二人にも聞いてみますね。おそらく嫌とは言わないと思いますわ」
「本当ですか? うれしいです」
「どこで演奏しましょうか?」
「昼休みに庭園でゲリラライブみたいなのも面白いですね」
「建国祭の時もいいかもしれないわね」
「ゆ、夢のコラボですわ。私、絶対聞きに行きます!」
「すごい企画を聞いてしまいました。僕も聞きたいです」
ジェシカとジャスティンの目はキラキラしていた。
その時、レオナルドは、ほかの4人が楽しそうにしているのを少し羨ましく思っていた。
「レオ様ぁ~、好みの女性を側におけるチャンスを逃したら損ですよ。私、王子妃教育も受けたこともあってぇ、すごく前向きに頑張っているんですぅ~。レオ様が私を妃に迎えたいと言ってくれれば、ダミアン殿下も私のこと諦めると思いますよ~。遠慮しなくていいのにぃ」
「すまないが、君に愛称呼びを許した覚えはないし、君が何を言いたいのか全然わからない。もう話しかけないでくれないか? そして、少し離れてくれ」
「レオ様ってぇ、照れ屋さんなんですね」
レオナルドは、無になるしかなかった。
ミールもリリアーヌが近づいて来た時に、逃げるようにいなくなってしまった。
主が苦手なものは精霊も苦手なのだった。
7班に渡されたミッションカードには、行き先の神殿と3つの謎が書かれていた。
「謎だけ見ても何のことだかまったくわからないな」
「あ、それならカードの裏を見てください」
ジェシカが細かいルールを説明する。
「カードの裏の地図に×印が6個ありますが、その×印のあたりを捜索する必要があります。それぞれの場所にはキーカード、つまりヒントカードが隠されているのでそれを集めることで、3つの謎が解けるのです」
「なるほど、説明ありがとう」
レオナルドは、キーカード探しに集中しようと思った。いや集中できるものがあってよかった。
地図を読むのは当然だが得意だ。ポイントに近づくと、班のメンバーにこのあたりだと伝える。
すると、不自然な場所に小さい箱のようなものがあることに、ジェシカが気づく。
「あ、あの箱、なんか怪しくないですか?」
「本当だ。僕、中を見てきます」
ジャスティンが走って行って箱の中からカードを持ってくる。
「ありました!」
カードをみんなで覗き込むが意味不明な模様が描かれているだけだった。
「もう一枚見つけないと答えは導き出せないかもしれませんね」
「次に行きましょう」
この調子で班のみんなで協力していく。
「2枚目ありました!」
イーサンがカードを上に掲げながら走って戻ってきた。
みんなで覗き込む。
「「うーん……」」
「1枚目と2枚目のカードを重ねて透かしてみたらどうだ」レオナルドがつぶやく。
「あっ……」
「何か文字が浮かび上がっています」
「それだ」
「えっと、『タ・イ・ル』?」
「そして、謎1は『樽を排除したら現れるものは何か』ですわね」
「答えは『イ』だな」
「なるほど!」
「素晴らしいですわ」
「ふん」
リリアーヌは溶け込めないでいた。
みんなが何をやっているのかちんぷんかんぷんだったのだ。
レオナルドが地図ばかり見ていてリリアーヌの顔をチラリとも見ないのも不満だった。
「つまらない」
7班のメンバーは、協力して謎を解いていった。
「2つ目の謎の音符が書かれたキーカードは、イーサン君が瞬殺でしたわね」
「いえいえ、それを言うなら2つ目の謎は、ソフィア様のひらめきがなければ解けませんでしたよ」
「3つ目の謎の絵画のキーカードは、ジェシカ嬢の知識と、ジャスティン君のパズル力が役に立ったな」
「一番の功労者は、レオナルド殿下ですわね。最後の問題もあっという間に答えを導き出してしまいましたもの」
ソフィアはそう言いながら、みんなに指示を出して司令塔の役割を果たしたレオナルドがかっこよかったなと思っていた。
「導き出された答えは『イシス』ですね。私たちが行く神殿にゆかりのある女神さまの名前ですわ」
みんなで拍手して喜ぶ。
「じゃあ、みんなで神殿に向かおう」
「あれ? リリアーヌ嬢は?」
「いないぞ」
「やっぱりこうなったか。……探すしかないな」
7班のメンバーは来た道を戻ることにした。
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