第二ヒロインはすぐ出るもの

 で、その後。

 魔獣が侵入してきたことについては調査をするが、それはそれとして生徒共は授業受けてな! と、雑に要約すればそんなことを言われた俺達は、素直に教室に戻っていた。


 もちろん、俺と立華くんの関係は最悪なままである。

 本当、どうしてこうなったかな……。


「そりゃそうだよ~。立華くんはあれでいて、プライド高いもん~」


 頭を抱えていた俺の真横に座り、ニコニコとしながら「やっほ~」と小さく手を振ってきたのは、ヒロイン№02、葛籠織つづらおり日鞠ひまり


 ふわふわセミロングな金髪と、ふわふわとした言動がチャームポイントな、同級生の美少女である。

 かなり人懐っこく見える性格で、誰とでも近い距離で接し、思わせぶりなことを言う彼女は、しかし主人公以外に興味を持たない、言わば勘違い男子メーカーだ。


 しかも、その主人公でさえ中々親密度が上がらないほどであり、根本的に他人に強く惹かれないところがある女子である。

 まあ、その反面、気に入った相手には執着や独占欲といった面を曝け出す、厄介なヒロインでもあるのだが。


 そんな日鞠は、全ヒロイン中トップの才能を誇る、これまた天才少女である──他キャラと比べて、こいつだけ得られる経験値が二倍である、と言えばその凄まじさが分かるだろうか。


 分かりやすく言ったところの、万能の天才と言うやつであり、凡そあらゆる物事に対し、少し触れただけで「あ~、うん。もう分かっちゃった~」が出来る女だった。

 まあ、それがゆえに気分屋かつ飽き性という、実に扱いに困る性格をしているのだが。


 パーティに編成してんのに、いざ出撃したらいないんだけど! ということがまあまあ頻発するヒロインである。ふざけとんのか。

 彼女の気まぐれで、何度全滅したか分かったものではないプレイヤーも大勢いるだろう。そんな感じの日鞠は、主人公の……要するに、立華くんの幼馴染だった。


 主人公がやたらと努力家であるのも、日鞠の横に並ぶためであった──という裏設定が開示された時は、やっぱ正ヒロインは日鞠なんじゃん! と絶叫したものである。

 

 さて、そんな日鞠であるが、ここで目についた問題が、既に二つある。

 まず一つ目。主人公のことを、立華くんと呼んでいること──幼馴染ゆえか、日鞠の親密度は最初から20(上限が100なので、既に20%もある!)存在しているため、呼び名は「リッくん」なのだ。


 彼女は気に入った人にだけ、あだ名を付けるタイプの女の子だった。まあ、個別ルート入ったら名前呼び捨てになるのだが。


 そして二つ目。立華くんの隣が空いているにも関わらず、俺の横に自らやってきたこと──上記の設定から分かる通り、主人公とその他を比べた場合、迷うことなく主人公を選ぶのが"葛籠織日鞠"という少女だ。


 この二つから推測するに──全く、こんなこと考えたくも無いのだが──あの立華くん、日鞠と全然親密度を上げてない!!

 ありえないんですけど! どうなってんだ馬鹿!


「別に、プライドをツンツンしたかった訳じゃないんだけどな……」

「あは~、どの口でそんなこと言ってるの~?」

「ぐう……」


 思わずぐうの音が出るくらい、正論パンチしてくる日鞠であった。

 昨日から立て続けに立華くんの見せ場を奪い、醜態を晒させている俺である。


 バッドコミュニケーションしか連発していないことは、百も承知であった。


「でもでも~、かっこよくはあったよ~?」

「そりゃどうも……えっと、葛籠織、だったよな」

「ふふ、知ってくれてたんだ~」

「まあ、クラスメイトだし──それで、何の用だ?」


 言って、頬杖を突く。

 親密度云々を抜きにしても、わざわざ端っこに座っていた俺の横に来る理由は、日鞠には無いはずである。


 そもそも初対面だし。

 甘楽おれも俺も、基本的に女子と関わるのが苦手な陰キャ気質である。

 であれば、そう。


 近づいてきたのには、必ず理由があるはずだった。

 あは、と小さく日鞠が笑う。


「ん~、本当はね~、あの魔獣、きみが召喚したのかと思ったんだ~」

「思ってたよりエグイ疑い掛けられてたな」

「でもその感じだと、多分違うな? って思ったから、協力してもらおうかなって~」


 ──あの魔獣を呼び込んだ、犯人の捜索~、と。日鞠は笑ってそう言った。

 まあ、そうなるよな……と思う。


 好奇心旺盛な彼女が、突然虚空から現れたとしか言えないあの竜型魔獣ドラグーンに、興味を持たない訳がない。

 しかも日鞠からすれば珍しいことに、終始見ていたのに訳が分からなかった、という事件であるのだ。


 誰かが企んだことであるのは間違いない。けれども、誰が何故、どのようにして行ったのかが、全くの謎なのだ。

 一応、調べないとだよな……と、俺の頭を悩ませている要因の一つでもある。


「う~ん、正確に言うなら"協力させて欲しい"になるのかな?」

「……鋭いな」

「え~、誰だって分かると思うな~。それより~、ダメ?」


 これでもかってくらい、可愛く上目遣いしてくる日鞠だった。

 うっかり即答でOKしそうになったところを、力づくで押し込み、数秒思案する。


 正直なところ、断りたい──というのも、出来れば彼女には、立華くんとの親密度を上げて欲しいのだ。

 とはいえここで断ったとしても、この天才少女のことである。


 ゴリゴリに単独捜査とかするだろう。その結果、見知らぬところで殺されてたら嫌だしな……。

 うーん……。

 まあ、良いか……。


 日鞠の親密度、序盤から必須って訳じゃあ無いし……。

 必要なのは後半からである。何なら三年くらい放置していても大丈夫なヒロインだ、彼女は。


 立華くんのことが嫌いって訳でもなさそうだしな。

 それに、普通に助かるし……。


 俺は俺で単独で動いたら、あっさりと死ぬ可能性が全然あるのだった。

 このゲーム、最強格の校長がサクッと暗殺されたりするからね。

 学校モノに相応しくない殺伐さである。


「ん、まあ、それじゃあ、よろしく頼む」

「やった~! よろしくね、かんかん~!」

「は? かんかんってなに? てか手握るのやめてね、勘違いしちゃうから」

「あは~、かんかんってば、童貞さん過ぎ~」

「言葉の切れ味を急に上げるのやめろ!」











ご神託チャット▼

☆転生主人公 は!!!? 惚れちゃうんだが!!?

◇名無しの神様 ワロタ

◇名無しの神様 何ドキドキしてんねんお前

◇名無しの神様 嫌いです(ドンッ!)とか言ってたやつとは思えねぇな

◇名無しの神様 これだからTS主人公様はよ

◇名無しの神様 男のツンデレとか需要ないんで……

◇名無しの神様 立華×甘楽、か。

◇名無しの神様 アツくなってきたな

◇名無しの神様 まあ、元が女だし実質ノマカプよ

◇イカした神様 お前TSものを精神的BLとか言うタイプのオタクか? 殺すぞ

◇名無しの神様 なになになになに

◇名無しの神様 沸騰するのが早すぎるんよ

◇名無しの神様 マジで際どいラインの発言やめろ

◇名無しの神様 ごめんって

☆転生主人公  僕の配信チャット欄で喧嘩すんのやめろ! てか、別にまだ惚れた訳じゃ無いし。ちょっとかっこいいと思ったくらいだし?

◇名無しの神様 お前はまずRTAしてることを思い出せ

◇名無しの神様 人生勝ち組なサードライフの為だろ、気合入れていけ

◇名無しの神様 金と権力と才能マシマシな人生をゲットするんだろ。がんばれ

◇名無しの神様 てかさっきのドラグーン、マジで何? アレもバグ?

◇名無しの神様 いや、あれは主人公のレベルが5以下かつ、ヒロインの親密度が5以下の場合発生する、いわゆるお助けイベント

◇名無しの神様 はぇ~、そんなのあるんや

◇名無しの神様 隠しイベントみたいなもんやね

◇名無しの神様 まあ、日之守とかいうやつに奪われたんですけどね……。

◇名無しの神様 ここまで完璧だったのに、日之守とかいうやつのせいでドンドン壊れてくんだが?

◇名無しの神様 マジで出禁にしろあの踏み台

◇名無しの神様 いやでも、ぶっちゃけカッコよかったよな、日之守……。

◇名無しの神様 うん……

◇名無しの神様 それな……

◇名無しの神様 これ本当に世界滅亡まで持っていけるんですかね……


【まさかの】蒼天に咲く徒花 ヒロイン全滅世界滅亡ルートRTA【バグった】





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