23日目(火曜日 仮)薪ストーブの部屋の午前「常緑樹」

 



 今朝の朝食でも餃子とご飯を食べた。朝からそんなに量を食べられないので餃子は5個だけにした。まだ、作り置きが10個残っていることになる。


 降雪はないが、だいぶ冷え込んでいたので小屋に置いてあるヤッケを着てから、南側の庭に出て、庭の終わりにある常緑樹帯まで雪を踏みながら歩いてみた。

 常緑樹は、一片の葉が毛糸くらいの太さで、その集合体がモサモサと厚みを作って茂っていた。


 そのモサモサとした葉を見ていたら、私が子どもの頃に住んでいた県営住宅のようなアパートにも常緑樹が植えられていた、という記憶がおぼろげに甦った。

 私は、四畳半かなんかの小さな自室を与えられていたが、部屋に一つしかない窓は南向きで、その窓の障子窓を開けると、此処と同じモサモサと生えた常緑樹が見えた。外から見たアパートの外観と共に目隠しの要素もあったのかもしれないが、部屋の内部に居る私からすれば景色を見渡せなくしている障害物に映った。


 朝、自室の襖が開けられ、母の声で目覚めていたことも思い出した。母は、私の名前を呼んで起こしたはずだが、残念ながら自分の名前も母の顔も記憶にない。「〇〇、もう、〇時だよ。早く起きなさい」そういう感じだったと思う。

 自室の隣に襖一枚で隔てられた狭いダイニングキッチンがあって、朝はラジオの音がしていた。母が朝食や弁当を作りながら時計代わりに聞いていたと思われる。確か、ラジオCMは流れていなかったからおそらく、NHK第一放送だったのではないかと思う。


 ダイニングキッチンを温めていたのが、ガスファンヒーターだった。確か、ガスのホースと電源コードが床を這っていた記憶がある。私の自室にストーブは無かったから、そのファンヒーターの前で制服に着替えた。すると、朝から喧嘩になることが多かった気がしてきた。喧嘩の相手は、顔は思い出せないが女の子だ。そう、ファンヒーターの温風の取り合いになってその女の子と喧嘩になり、それで、また母から怒られてさらに気分が悪くなる、そんな冬の朝が結構あった。女の子は姉ではなくて、おそらく歳が離れた妹だったと推測する。いくらなんでも、制服を着る年齢の私の姉が弟の前で着替えはしないだろう。


 その頃の私も朝はあまり食欲が無く、ご飯を少しだけ盛ってもらっていた覚えがある。すると、背後から手が伸びてきてご飯茶碗に納豆が無理やり投入された。投入したのは母だったはずだ。「栄養があるんだから食べなさい」という台詞と共にだったと思う。アスリートじゃあるまいし、子どもの頃に栄養なんて考えるはずがない。しかも、母が声に出して勧める栄養のあるものは美味しくないものばかりだったような気がする。

 納豆と共に、背後から投入された物に焼きたらもあった。硬くなるまで焼いた食感も、肌色がたらこの基本の色のはずなのにところどころに緑色掛かった部分があったのも嫌だった。

 しかし、残したことはなかった記憶がある。それだけ、家計が苦しかったのか、母の食育があったからなのかはわからない。


 ただ、今では、納豆も焼きたらこも大好き、という事実。

 

 そういえば、しばらく食べていない。

 黒井さんに、また、頼んでみようか… 

 


 それとも、あまりにリクエストが多くなるのはマズイか…






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