第5話 女王蜂様 いよいよ働き方改革を開始する

「でも、先生。働き蜂たちを連れて来られなかったことは、先生はこっちの世界で『交尾』して『産卵』するってことですか?」


 やっ、やめろお、三俣。蜂野先生が「交尾」とか「産卵」とか言うんじゃないっ!


 見ろっ! 男子生徒はみんな背中を丸めて下を見て何かに耐えているじゃないかっ!


 鬼熊先生なんか見ろっ! 豪快に鼻血を吹き出してって、先生、32歳だよね。若いなぁ、おいっ。


「ほほほ。やぁねぇ、眼鏡っ娘ちゃん。わざわざこっちの世界に来てまで、そんな手間かかることしないわよ」


「どういうことです?」


「ここにいるみーんなが、あたしの働き蜂になるってことっ!」


 一斉にどよめきが上がる。そりゃそうだ。そんな話聞いてないよ~である。


 先生、僕たち、ハチミツ集めなんか出来ませんっ!」


「な~に言ってんの。そんなもの集めさせないわよ。集めてもらうのはこれよ。これっ」


 蜂野先生は満面の笑顔で右手の人差し指と親指で丸を作って見せた。


「私たちに先生の奴隷になれってことですか? そんなの嫌です。家に帰らせてもらいます」

 三俣のもっともな意見にも、蜂野先生は笑顔のままだ。


「心配しなくても、定時になればきっちり帰らせるわよ。貴方たちの家族もみんな働き蜂になってるけどね」


「えっ? 家族まで奴隷にするって言うんですか? ひどいっ!」


「奴隷奴隷って、そっちの趣味でもあるの? 眼鏡っ娘ちゃん。奴隷じゃないわよ。正社員っ!」


「私たちまだ学生です。会社員じゃありません」


「ふふふ。そんなこと言ってていいのかな? 学校の勉強なんかよりよーっぽどいい思いさせちゃうよ。あたしの『働き方改革』はっ!」


「『働き方改革』-っ?」


「そうそう。そうねえ。論より証拠。中川は翔子。さっきからここでお休みになっている粕川先生で実証

実験してみましょうか」


 お休みにって、蜂野先生が倒したんでしょう? 粕川先生は。


 それにしても粕川先生のピンチなのに誰も止めないのね。三俣なんか「実証実験」と聞いて前のめりになっているし。まあ、僕も止めないけど。


「それではーっ、『働き方改革』始めまーすっ!」

 蜂野先生は倒れている粕川先生に向かって、両手のひらを突き出した。


「あたしの~、『働き方改革』はね~、その人間が一番やってみたいこと~、その願望を引き出して~、その仕事で~、あたしに~、貢献させること~」


「えいっ」

 蜂野先生は粕川先生に念を放った。


 たちまち、粕川先生は白い光に包まれ、立ち上がると、変身したっ!

 


 

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