第6話 お別れ
それから数日は特に進展のない日々が続いた。
午前中はちょっとした検診と霧島先生との勉強会。男性に関する法律とか世界的な常識とか多種多様なことについて教えてもらった。
例えば、この世界は大小さまざまな形の島々で全ての国が構成されており、大陸と呼ばれるような広大な陸地は無いんだそう。
かなり昔には今の島々が繋がって幾つかの大陸として存在していたらしいんだけど地盤変動とか大規模な地割れなどの自然災害が積み重なって今の形になったらしい。
さらに詳しく見ていくと大まかに5つに区分される。
まず北を占める島々はまとめてジマーと呼ばれている。島の一つ一つがかなり大きく世界の陸地の約半分はジマーが占めているらしい。
一年を通して平均気温がかなり低く年中雪が降るのだとか。
次に東のチウティエン。とにかく人が多い、その一言に尽きるのだそうだ。
区分ごとの総人口では常に1位であまりの人口密度の過密さに政府が他地域への移住を支援しているほど。
ただ人が多い分、技術の発展や文化の流行り廃りなども凄いらしく世界的な流行の最先端という見方もされているらしい。
南のセロスは北のジマーと正反対といった感じだ。一年を通してかなり暑く島の面積も小さな島が多い。
地域柄なのか身体能力に優れた人たちが多く性格は情熱的な人が多いらしい。男性も(比較的)情熱的なんだとか(大事だからと3回も言われた)
西のプリテンポは宗教を重視している地域らしく熱心な信者さんが多いとのこと。
とはいえ、一神教ということではなく個人個人で信仰する宗教を決めるのだそうだ。だから姉妹間でも信仰している宗教が違うという例も珍しくないらしい。
中には危険な思想のものもあるらしいので注意して欲しいと言われた。
そして最後に僕が目を覚ましたカンナギだ。
ジマー、チウティエン、セロス、プリテンポに四方を囲まれるようにして存在するこの地域は君主国家:
説明を聞きながら思ったけど全くと言っていい程に聞き覚えが無くて流石に驚いた。少しぐらい「あーなんとなくそんな名前だったかも」って感覚すらなくて、むしろ「あれそんな名前だっけ?」とか「世界地図ってそんな形だっけ?」と記憶もないのに違和感を感じる始末だ。
思えば最初に男が少ないと聞いたときにもすぐには納得できない違和感を感じたんだ。...本当に僕は$%’&(”#$&%?
「事実は小説よりも奇なりって?」
一人の病室でぽつりと呟いてみる。当然返事なんてあるはずもなく答えが僕に与えられることはなかった。
話を戻して、その他にも大事なことと言えばやっぱり男性関連の変な法律のことかな。
毎年数回の献精とそれに伴う各種税金などの免除とか、公共機関の完全差別化とか高校や大学などでは男子生徒の枠をわざわざ別で用意していたりするらしい。
もうよく分かんなかったけどやっぱり変な世界だと思ったよ。
その間僕の家族を名乗り出る人はいなかった。僕としてはすっかり忘れてたし、もうすでに見切りをつけていることではあったんだけどそうなると次の問題が浮上してくる。養親を探さないといけないのだ。なんとこの国では男性の一人暮らしは基本的に認められていないみたいで教えてもらった法律の中にもそんなことがあった。「んな馬鹿な」と思ったけど残念大真面目だった。
そんなこんなで当面の問題は養親探しになってるんだけど、今日はもう一つイベントがあった。
なんと西園寺さんが今日で退院することになったのだ。いや、少し違うか。元々もっと早く退院する予定だったらしい。
というのも、西園寺さんの足の障害というのは生まれつきのもので定期的に検診に通っているだけだったのだそうだ。だから入院といっても経過観察に精々1日程度泊まるだけで良かったらしいんだ...本来は。
先生からこっそり聞いたんだけど、わざわざ僕が寂しくないようにとぎりぎりまで入院を伸ばしてくれていたらしい。粋だなぁ。
この数日ボードゲームをしながら僕たちはかなり仲良くなった。会話から敬語は消えたし、軽口だって多少は言えるようになった。
彼女も最初に比べて随分感情豊かに話してくれるようになった。多分、こっちが素なんだろうなぁ。
意外にも彼女は負けず嫌いで少しわがままで一緒に遊んでいる時の彼女には年相応の可愛らしさがあった。
そんな彼女とも今日でお別れ。寂しくないと言えば...嘘、だなぁ。
今はそんな彼女とのお別れの挨拶の時間だ。彼女の病室を訪ねて二人で横に並んで座ってる。
「...」
「...」
「ねぇ」
「うん?」
なんというべきかなぁと悩んでいるうちに先に話を切り出された。
「その、この数日とっても楽しかった。えっと柄にもなくはしゃいじゃうくらい...」
「うん、僕も」
「そ、そう...」
返事をすると俯いてしまった。けどそれが単なる照れ隠しであるとなんとなく今の僕には分かる。
「だから、ね?その、私と...友達になってください!」
それはまるで一世一代の告白のように真摯で真っ直ぐで。だから僕は――
「え?僕はとっくにそうだと思ってたけど?」
素直にそう返答した。
「っ!......」
バシバシと非力な力で肩を叩かれる。なんだかその距離感が凄く嬉しくなって思わず笑ってしまった。
すると、こちらを叩く力が少しだけ強まったように感じた。
「まったくもう!私がどれだけ...っ!もう!」
「あはは、ごめんごめん」
笑ってそう言うと、彼女は呆れたようにため息を吐いた。
「はぁ...じゃあ、さ。名前で呼びなさいよ、私のこと」
「...ゆきっぺ?」
「怒るわよ」
「冗談だよ、
「っ...もう」
「あ、そうだ」
いいことを閃いた。うん、きっとそれがいい。
「なによ」
少し拗ねたような礼ちゃんを見て提案する。
「名前、決めてよ」
「へ?」
流石に突然すぎたかな?でも今思いついたんだからしょうがないよね。
「だから名前、僕の名前まだ思い出せてないし多分もう思い出せないと思うからさ」
「でも...」
「礼ちゃんだって僕のこと呼ぶとき困ってたじゃんか」
「それはそうだけど...ホントにいいの?」
「礼ちゃんに決めて欲しいんだよ」
「...また、あなたはそういうこと平気で言うんだから」
そう呆れたように言うと礼ちゃんは少しだけ悩んだ後にぽつりと呟くように言った。
「
「いいね」
うん、しっくりくる。
「ほんと?実は、ちょっとだけ考えてたの」
どうやら元々考えてくれていたらしい。
「じゃあ呼んでよ」
「え?」
「礼ちゃんが付けた名前、呼んでよ」
そう言うと、礼ちゃんはその長く綺麗な銀髪で熟れたリンゴのような顔を隠すようにしてボソリと呼んでくれた。
「...ましろ」
「名前じゃないの?自分は名前で呼ばせたのに」
「しょうがないじゃない!...恥ずかしいんだから」
「...」
「...」
静寂が二人だけの病室を包む。シンとした空気感だけどそんなに嫌いじゃないよ。
ずっとこのままでも構わないけれどそういうわけにもいかないからね。そろそろかな。
「...やっぱりあなた変よ」
「そうかなぁ」
「絶対そう」
「そっかぁ」
礼ちゃんも別れを惜しんでくれてるんだろうな。中々切り出してはこない。だから...このお別れは僕から切り出そうか。
「ボードゲーム」
「え?」
「結局負け越してるからさ、またやろっか」
何でもないことのようにそう言った。
「えぇそうね」
柔らかいほほえみと短い返答の後、僕は病室を後にした。
#####
「久しぶりね、ましろ」
僕が目覚めて一か月と少し、久しぶりに見た彼女の顔は初めて会ったときのような憂いた表情ではなく再会の喜びに満ちた笑顔だった。
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