3.店主

3.店主

翌日、3人は都内のバーに向かっていた。


 ところでメライ、入国前の空港からGPSはずっと無効化しているだろうね。

 

 ええ。かわいい娘はちゃんとパパの言いつけを守っているわよ。でもほんとにこのままで大丈夫なの?


 ふふ。いい子だ。あいつが何とかすると言っているなら大丈夫だろう。その点だけは信用できるからね。先生には迷惑をかけたくないから、もう少し通信は切っておくことにするよ。


店の前でタクシーを降りた。街の様子は変わっているものの、この建物は当時の装いのままであった。ノスタルジックな気分に浸りながら階段を下りドアを開けると、昔馴染みの人物が目に入り、思わず声が大きくなった。


 マスター、久しぶり!


 おお、ロンド!先生から来るとは聞いていたけど本当に来たな。


 ふふ、相変わらずだね。紹介するよ、僕の娘メライとバルカだ。


 初めまして。メライです。父がお世話になっています。


 …。


 かわいいお嬢さん達だね。今日は貸切にしたから、狭いところだけどゆっくりしていってくれ。


扉を開く音が聞こえた。


 マスター、邪魔するよ。


 お久しぶりです、先生。相変わらずお忙しそうで。


 まずまずだよ。奥さんは元気かい?


 ええ、お陰様で。


 それは良かった。

 ロンド、今夜はゆっくり話したかったのだが、そうもいかなくなってね。伝えたいことだけ言いに来たんだ。


 そうでしたか。久しぶりにお話をとことんお聞きしたかったのですが。あ、先生とマスターに一応これを。改めて自己紹介です。


胸ポケットからカードケースを取り出した。彼らは差し出されたそれを受け取り、まじまじと眺めた。


 話には聞いていたが、"事件コンサルタント"なんて本当に君にピッタリの職業だな。なあ、マスター。


 ええ。もしなんかあったらロンドにお願いしちゃおうかな!


 もちろんいいけど、僕の仕事は高いよ〜。


時には冗談を言い合い、3人は再会を噛み締めた。腰をかけてしばらくすると、飲み物と軽食が運ばれ、会食が始まった。そして雑談も程々に、早速本題に入った。


 あの時は驚きましたよ。先生自ら私たちに話しかけてくるなんて。


 ワシを使うやつなんて、あいつくらいのもんだよ。


 "あの人"…ね。


 ああ。きちんと説明してなくて悪かった。ソナタに頼まれた先生は僕らと接触した。日本語で話しかけてもらうことで違和感を演出し、僕が万が一声色だけで気づかないときの保険をかけた。きっと目的は、僕らをこの国へ誘導することだ。


 つまり、"上"にバレないよう私たちを誘き寄せるため、先生を使ってこんな手の込んだことをしたってことね。でも、なぜこの国ななかしら。


 ああ。それは今日先生に聞きたかったことの一つだよ。


 ほう。これはすごい。まだ小さいが、君に似て、頭の回転が驚くほど早いな。ロンドとメライの予想どおりだよ。ワシは彼女から頼まれて、君たちに話しかけた。


 …それで、なぜこの日本へ?彼女について何か聞いてますか?


 ワシは彼女の言うとおりにしただけで、何も聞かされてないんだよ。力になれなくてすまんな。


 やはり、そうですか。話してしまっては先生に迷惑がかかますからね。彼女らしいです。


 そうだな…。じゃあ、ワシからもいいかい?


 ええ。もちろん。

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