第7話 新しい生活が始まった!

 そう思っていた時が私にもありました。


「へっくしょんっ」


 ここの朝は寒い。ボロボロだからすきま風が入り放題。鼻水だって出ちゃう。ずずっとすって鼻を押さえる。

 もう一度言おう。寒い。


「エマ、おはよう。冷えるねー」

「ルニア、その格好の人に言われるとは思わないのだけど」


 ルニアは朝から稽古でもしていたのだろうか。汗が流れる体にまとっているのはノースリーブの布服と膝までしかない短いズボン。見ただけで寒そうなんですが。

 対して私は着てきた服の上にルニアから奪ったマントを羽織り二枚重ね。もう一枚くらい毛布が欲しいかも。

 まだ本格的な冬でなくてこれだと、いったい冬ではどうなってしまうの?


「おはようございます。エマ様。すみません、さすがに洗濯がすんでいないものばかりなので、今日中に用意しますから」


 シルが大量の布を持ってどこかに走っていく。


「あぁ、大丈夫です。私、いっぱい服を着てますから」


 人に戻ってからシルはずっと動きっぱなしみたい。きちんと休んでるのか心配だったのでそう声をかけた。

 皮膚の下にもいっぱい着込んで……、と自分で考えて朝からブルーになってしまう。ダメよ、前向きに考えなきゃ!!


「そういえば、ルニアは何をしてたの?」

「ん、筋トレ。なまるとすぐ動けなくなるからな。誰か剣の稽古に付き合ってくれる相手がいれば嬉しいんだけどな」

「そっか」


 剣の稽古なんて、私には無理だし。そもそもこの体の運動能力、ルニアの運動能力の足の指一本分あるかどうかだし。


「痩せるんだろ。ほら」


 って、あーれー。待って私(とルニア)のマントぉぉ。

 するりとルニアにマントを奪われる。寒いってば!!


「動けばあったまるし一石二鳥だろ」

「やだ、寒いー」


 必死に取り返そうとするがルニアが華麗に逃げる。わかってる。だって、さっきも言ったけど私の運動能力はルニアが100としてきっと小数点以下だもの!!

 ぱたりと倒れる。もう無理、動けません。


「あっはっは。バテるのはやいはやい。もうちょっと頑張らないと」

「うぅ、ルニア騎士の中でけっこう鬼教官だったりしたんじゃ」


 どうやらビンゴだったようだ。彼女はにやぁと笑いマントを羽織った。


「さ、朝ごはんにしようぜ」

「朝ごはん!!」


 そうそう、朝から動いたからお腹ぐーぐーよ。朝ごはんは何かなー。何かなー。きっとシルが作ってくれたものよね。あれ、でもシルはさっき洗濯に……。一緒に食べないのかな?

 ウキウキとルニアに連れられて食堂だという場所へ向かう。どこまでもすきま風が寒い。

 って、えぇぇぇぇぇぇ!?

 そこにあるのは昨日の果物。それだけ。

 うぅ、お城のごはんかむばぁぁぁっく。なんて、無理な話だとはわかってるのだけど。


「おはよう、エマ、ルニア」


 ブレイドは何か別の物を食べてる。ん、王子様もここで一緒に食べるものなの? 私と元婚約者は一度だって同じ席でごはんを食べたことはなかった。まあ、違う国だし。風習もちがうのかな? それともここが王族の食べる場所だったりするのかなぁ。気になるけど、もっと気になったのはいい匂いのソレ。


「あのぉ、ブレイドは何を食べてるんですか」

「ん?」


 あ、やっぱり聞かなければ良かった。焼いた塊肉だ。美味しそうな匂いだけど、何の肉なのか……。真っ黒!?


「これは――今日ボクが獲ってきた……」

「さぁー、痩せるわよー!!」


 いい匂いの獲りたてお肉。食べたいけど、食べたいけど!

 太りたくないのよ! 私!!

 ……ちょっと待って? 今自分で獲ってきたって言いました?

 王子が自ら? まさか、ここで生活するなら自給自足!?

 用意される美味しいごはんは!? きれいなお部屋、ゆっくり眠れるあったかいお布団は!? どこぉぉぉぉぉ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る