第2話 私達の日常

 私達の前に、歳は同じ位の少女がいる。

 肩に何か蜘蛛型魔物を載せて。


「じゃあ、あれってまさか『刈取の大鎌』?」

「そうだよー」


 『刈取の大鎌』?


「クラリス知らないのか。何でも昔勇者の付き添いでいた錬金術師が薬草採取に使ってたモノらしくって。だから錬金術師が装備したら威力3倍になる超レア物の武具」


 ジオが言うんだから間違いないと思う。

 なら、彼女は本当に錬金術科の受験者なんだ。


「錬金術師なんですか」

「うん、そのつもり。村でこの本読みながら独学でやってたんだけど、村長さんが学校行けって王都に推薦してくれたんだ」


 また分厚い本を取り出して…、って今何処から出したの?

 流石錬金術読本。

 初級って言うか、手習程度のモノしか載ってないヤツなのにやたら分厚い。どうしても魔法陣の生成過程における解説がやたら文章が長くて難解らしいんだけど、ミルキィに言わせると「陣見れば解るのに」って、こんな長々とした文章は要らないんだとか。


 私達にはチンプンカンプン。

 まぁ、ジオ曰く神聖読本や聖書も訳わかんない睡眠本らしい。バチ当たりめ。


 そのまま一緒に王都へ行く事になり、その時に「せっかくのお近付き」ってジオの剣に色々付与したんだ。

 その手際、何処が受験生?

 私達には、工房の熟練技師にしか見えなかった。そして従魔の毒蜘蛛が見事な助手振りを発揮して…。その時も何か言い争いしてたよね。仲が良いのか、悪いのか?


「そんなに生成魔法陣を繰り出して大丈夫?」

「大丈夫、私、魔人族とのMIXだから。大人の大魔導師並の魔力持ちなんだ」


 そう言えば彼女の右目は紅眼だ。

 これは魔族の血を持つ者…魔人族の人間だけ。その上でオッドアイなのが、彼女の血の複雑さを物語ってる。MIXってボヤく所以。


 魔人族と魔族の差は角が在るか無いか。

 高位の魔族程、角は大きくなる。


 その昔、勇者と共に人間へ与した魔族がいて、彼等は魔族の誇りとも言える角を折り、人として暮らしたって。それが魔人族の発端。

 創世女神サンディアの祝福を受け、魔族とは異なる亜人として魔人族は生まれたとか。


 角は誇りもだが魔力の根源でもある。

 だから魔人族は魔族に魔力や寿命は全然及ばない。けど他の人種とは桁違い。

 魔力もだけど、寿命だって数百年続く。


 …高位の魔族は数千年らしいけど。


 なのでミルキィは実は歳上?

 聞いてみたら「見たまんまだよ。受験生だから同い年でしょ?」


 受験、合格、入学…。

 私達は首席トリオとして特Aクラスにいる。

 1年生では、専門課程より一般課程の方が授業も課題も多い。だから科は違うけど私達は同じ教室。


 で、今私とミルキィは実験実習室にいて、ミルキィの錬成を見ていた所にジオがやって来たトコ。


「あー、そうそう。クラリス、カール先生が呼んでたぞ」

「は?何だろ。うーん」

「早く行ったら。あのセンセ、結構セッカチだし」

「でも、ミルキィは」

「クラリスが見てても何も変わんない。終わったらテラスでお茶してるから」

「分かった。じゃ、テラスで待ち合わせね」

 

「だーかーらー!もっと細かく分けて!その素材、一緒くたにしないで‼︎手を抜かないの!」

 シュ!シュシュシュシュー‼︎

「言い訳しない!」


 どんどん錬成していきながらも、ミルキィはタラちゃんが纏めている素材の扱い、纏め方にケチ付けてるみたい。ホント、2人?のやり取りは見てて飽きない。


 カール先生、何の用だろ?


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 ジオと一緒にクラリスは部屋を出た。

 一緒に受験して、気が付けばほぼいつも一緒にいる。いつの間にか『首席トリオ』なんて呼ばれて。


 クラリスは名門ケイン辺境伯家の御息女。

 ジオだって辺境伯家近衛騎士団長の次男って。


 本来なら平民の私がお付き合い出来る相手じゃない。でも校風と彼女達の性格も相俟って、私はタメ口親友の付き合いになってる。


 こんな魔人族MIXって亜人如きに。


 シュシュシュ!

「え?あ、終わった?コッチちょうだい」


 もはや布って言える程に織り込んだ糸に包まれた素材が数セット。私は意識して左手首にあるブレスレットを煌めかせる。


 パッと消える素材。

 そう、これは私の会心作アイテムボックス。私の魔力で容量が決まるから、ほぼ無尽蔵に収納出来る。


 魔人族MIXと言え、そこまで魔力が多いのには訳がある。


 本当の私は魔族。それも遥か昔、勇者によって討たれた大魔王ベルドの娘だった。

 変装変身ではない。この姿も年齢も確かに見たまんまだ。


 創世女神サンディアによって、私は今の時代に転生したのだ。


 

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