第7話 閑話ー1

 フィィィィィィ・・・・


 大きなFANが音を立てて熱風を出している。

 ヒートシンクに設置した温度センサーからつながっている液晶にされる温度は見る見る間に上がっていく。

 120度・・130度・・150度・・


 英治はため息をついてスマホの電源を落とした。


「ようやく3分が限度かぁ・・・」

 

 ヒートシンクをさらに大型にした。冷却用のファンを取り付けた。

 温度センサも付けた。

 次はペルチェ素子を導入するしかないか。



 ただ・・・問題は・・・


「そろそろおこずかいがなぁ・・・」



 英治は、一人暮らしである。

 父親からキャッシュカードを渡されてはいるが、月に使用できるお金は決められている。あまり無駄使いする余裕はないのだ。

 

「はぁ・・・」


 恨めし気に、かつてスマホと呼んでいたものを見下ろす。

(巨大なヒートシンクやファンが取り付けられていて、もはやスマホの原型をとどめていない)


「せっかく、未来がわかるのになぁ・・」


 時田英治は、清廉潔白というわけではない。

 未来が見える・・・ということで、最初に考えたのは金儲けであった。


 真っ先に考えたのは宝くじ。番号を選ぶタイプのくじであった。


 が・・・

 調べてすぐに、英治は愕然とした。


 未成年である英治には、宝くじを買うことができないようであった。

 もちろん、競馬や競輪などのギャンブルもダメ。

 何とかしてごまかして買ったとしても換金することはおそらくできない。

 だれか大人の協力者がいれば別であるが。


「あ・・・」


 ふと、英治は一人の人物を思い出した。

 慌てて、リビングのクロゼットの書類入れをひっかきまわして、その人物の連絡先を探し回った。




「よお!英治君大きくなったなぁ」

「淳さん、お久しぶりです」

「いやあ、連絡があったときはびっくりしたよ。たまたまこっち日本に帰って来ていてよかった」

「今は、向こうA国で働いているんですか?」

「あぁ、個人輸入業みたいなことをやっているよ」


 淳は、英治の母方の叔父である。おそらく30くらいになっているはずである。

 淳は定職にはつかず海外をふらふらとしているため親戚から距離を置かれている。ただ、英治は子供のころ淳にずいぶんかわいがられ遊んでもらっていた。


「で、相談って何なんだい?」

「それが、最近プログラミングにはまっていてAIによる予測ソフトを作ったんですが、その効果を確認するのに協力してもらいたいんです。ほら・・・今、父が海外に行っちゃって・・・淳さんしか頼る相手がいないんです」


 そう、淳に向かって上目遣いに手を合わせる。

 普段、誰かに頼られたことのない淳は嬉しくなった。


「そりゃあすごいなぁ、俺にできることは何でも言ってくれ。明日には向こうに戻んなきゃいけないから今日だけになっちまうが、それでいいのか?」

「はい、大丈夫です」

「それで、何をすればいいんだ?」


 英治は、にっこりと無邪気な笑顔を見せて指をさした。


「それじゃあ、一緒にあそこに行ってもらえますか?」


 指をさした先。

 競馬の場外馬券場があった。



「うおおおおお・・・英治すげえじゃないか!また当たったよ」

 興奮して、淳が英治に・・・小声で言う。

 興奮のあまり、口調が変わっていた。こちらが素なのであろう

 一方の英治は、逆に冷静になっていっていた。


 これで、3レース連続で的中していた。

 すべて単勝ねらい。

 英治が淳に渡した一万円はすでに100万円弱になっていた。


「次は、3連単にしますね。全額をこれで買ってきてもらえますか?」

「おう、分かった。任せておけ」


 馬券売り場に行った淳。

 だが、やがて首を振りながら不安げに戻ってきた。


「おい、英治・・・さすがにこれは無理があるんじゃないのか?倍率がすごいことになってんぞ」

「まぁ、プログラムの出した結果ですから。外れてもしょうがないです」

「そかあ・・・」

「どうしました」

「・・・実は・・途中から俺も金出して買ってたんだけど・・・まぁ外れてもしょうがないか・・・」

「淳さん、そろそろレースが始まるようですよ」


 モニターに映し出されたレース場。

 ゲートに馬が入っていく。


 そして・・・ゲートが開き、一斉に競走馬が飛び出してくる。


 立ち上がり固唾を飲んで見上げる淳。



 やがて

 レース結果が表示されると、大声をあげて飛び上がる淳。

 なぜか、英治はベンチに座って冷静に淳の様子を見つめていたのであった。




「ほんとうに全部もらっていいんですか?協力してもらったお礼に半分ずつにしてよかったんですけど」

「いやあ、英治。おれも自分で賭けて大儲けさせてもらったからいいんだよ」


 上機嫌で気前の良いことを淳は言う。

 もともと、淳は金銭に執着しないところがある。そのせいで定職にもついていないわけではあるのだが。


「ほんとなら、これから一緒に祝杯をあげたいんだけどな」

「僕は未成年だから飲めませんよ」

「そりゃそうだ。おれもそろそろ向こうに戻る準備もしなきゃならんしな」

「今日はありがとうございました」

「今日は、ほっんとーに楽しかった!!また、こっちに来たら連絡するからよ」


 にかっと笑って、手を握ってぶんぶんと上下させたあと、じゃ!と手を挙げて改札に淳が消えていく。

 苦笑しながら、英治は手を振って見送った。


「さて・・・帰ろ」


 英治は、リュックを背負いなおして歩き出した。

 リュックの中には、高校生が持つには分不相応なほどの大金が収められている。


 英治は大金を手にしてもなぜか冷静であった。

 なにか・・・この金は、自分のものになった気にならなかった。罪悪感というわけでもない。なにか、まるで他人事のような感覚。


 英治は、家に持ち帰ったその大金を使うこともなく。リックに入れたままクローゼットに置きっぱなしにしたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る