最初はイマジナリーフレンド、『ユヅキ』

 次に『癒月ゆづき』の話をしよう。


 精神科の初診は中学だったが、ふみが言うには、小さい頃から頭の中に男の子がいたという。


 辛い事や嫌な事があると、その男の子になぐさめてもらっていた。

 本人はイマジナリーフレンドだと思っていたが、次第に意識がとぎれとぎれで、その間の記憶が無いという症状が出てきた。

 そのあたりで、解離性同一性障害という病気の事を知り自覚したという。


 その男の子がユヅキ

 俺はゆづゆづと呼んでいた。

 本人はやや嫌がっていたが(笑)


 彼は、絶対的な文の保護者で、理解者で、代弁者だった。

 ユヅキと文の間はある程度記憶の共有と、頭の中での意思の疎通が可能だった。

 これはイマジナリーフレンド時代の延長なのだろうが、幸運な事だと思う。


 思うに、『自分の中に別の知らない人格がいて、勝手に何かしている』というのは大きな混乱とストレスになるだろう。同じ病気を持つ人物を描いた小説を読むと、得体のしれない恐怖と共に描写されている場合が多い。


 だが、ユヅキが居てくれたおかげで、文はある程度の病識を混乱なく持てたし、辛くなったら自然とユヅキが肩代わりするというルーティンが出来上がっていた。


 ユヅキは文の事を一番に考えていたし、勝手な事はしなかった。スイッチ権も持っていて平常時でも彼に声をかければ人格交代を意図的に行う事が可能だった。


 俺と文のなれそめ以降、彼は俺にとっても大事な仲間となった。


 文が混乱したときユヅキがフォローしてくれ、文がストレスになる場面(結婚した後の親戚づきあいとか!) はこっそりユヅキがやっていた(笑)


 少し口が悪い、斜に構えたヤツだが、基本的にいい奴だった。



 こんなエピソードがある。


 文と知りあって少し後、何回目かのデートをしたとき、待ち合わせの段階からユヅキだった。


 聞けば朝から親と喧嘩をし、文は塞ぎこんでいるらしい。その日はおいしいパンケーキの店に行こうと思っていたのに! 


 しょうがないから、ユヅキな文とデートをした。

 ユヅキは「こんな場所、女々しくて嫌いだ」「俺には合わない」とか言っていた。

 ケーキが来ると「食い物を食うのは数年ぶりだ」「甘すぎる! 味ってのは、こんなのなのかよ!」とか中二病みたいなこと言っていた。側で見ているととても面白かった。


 その日、文はワンピ―スだったのだが、「こんな女の恰好で落ち着かねぇ」とぶつくさいうので、一緒にユニクロに行った。そこで男っぽい服一式を買って着せた。


 ユヅキは、「俺に金使っていいのかよ?」とか言っていたが、ボーナスをもらった後だった俺は気前よくおごった。


 ユヅキは「すまん」とか照れくさそうに言っていたっけ。

 

「今日は、するのか?」「ホテル行くときは本体に変わってやるよ」デートの後半、ニヤリと笑って文に変わっていた。


 気づかいも忘れない、できたやつだった。

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