第8話 復讐の始まり

 魔法学院の入学式が終わってから、声をかけられた。相手は入学試験で見知ったルディアだ。白と緋色を基調とする同じ制服を着ている。なぜ絡んでくるのか分からないが、耳を傾けた。


「あなた、私を押さえて、首席で入学したのね」

「まあ、簡単な実技試験に誰でも満点が取れる筆記試験だけだったからね」

「その余裕っぷりがムカつくわね」


 ルディアがなぜそんなことを言うのかさっぱり分からない。だがそれが更に彼女の不快を買ったようだ。赤い魔石のついた杖を抜いて、真上にかざし決闘を申し込む姿勢をとった。ここで同じ姿勢をとったら、それを受けることになるが、無視することにする。そのまま、学生寮の方へと立ち去ろうとすると、目の前を塞がれた。

 いい加減ムッとしてしまう。彼女に何か失礼な態度でもとっただろうか。


「本当なら私が首席だったのに、ちびっ子のくせに生意気よ」

「君は大きな間違いをしている。僕と君とでは実力が天と地の差だ」

「はあ? ふざけないで、ちょっと強い魔法が使えるだけで調子に乗って」


 ルディアを無視して学生寮へと向かう。その先の道が爆発し、大穴が開いた。どうやら実力の違いを見せつけなければならないらしい。こういうこともあるだろうと思っていたが、いざ起こるとかなり頭に血が上る。蒼い魔石の付いた杖を真上にかざした。


「じゃあ、今から実技訓練場へ来なさい。観客の前で負ける姿をみるがいいわ」

「負けて恥をかくのは……――君自身だよ」


△▼△▼


 実技訓練場には一年生から教員まで観客が大勢集まった。一年生首席と次席が突然決闘をすることになったのだ。注目を集めるのは当たり前だろう。ルディアは緋色のマントを着ている。それは、魔力耐性がある決闘用の装備品だ。対してこちらは普通の制服のまま。


「よく逃げなかったわね」

「なんで君より強い僕が逃げるような真似をするの?」

「このちびっ子は一々腹が立つことを言うわね」


 仲介人の教師が立ち位置に着くように指示を出す。久しぶりの実戦だ。ルディアには悪いが楽しませてもらおうか。


「それでは決闘開始‼」


 決闘のルールは簡単だ。最後まで立っていた方が勝ち。殺されても文句は言えない。魔法学院は実力至上主義だ。力こそが全てを解決する。


「雷よ、走れ――――――サンダーブラスト‼」

「ふむふむ……――次席だけはある魔術だね」


 地面を走る雷は、目の前で散って消え去った。観客がざわめきだし、ルディアも困惑した表情を作る。一歩ずつルディアに近づく。ルディアは魔術を短文詠唱する。


「風よ、切り裂け――――――ウィンドエッジ‼」


 風の刃も、目の前に届くこともなくスッと消えた。ルディアは何が起こったのか分からない様子だ。せっかくだから教えてやろうと決めた。

 そして、悪い子にはお仕置きが必要だ。


「炎よ、燃えろ――――――ファイアボール‼」

「意味がないってもう分かっているんだろ?」


 炎の球も当たる前に消えてなくなってしまう。一〇歩ほど近づくとルディアは笑った。そして詠唱を開始する。目に魔力を込めて、魔力視をするとルディアの魔力が急激に上がるのが分かった。


「理を紐解く我が命ずる――――――其は死神の持つ炎――――――我が敵を焼き尽くせ――――――ラース・クリメイション」


 炎の溶岩が周りを囲む。脱出は不可能だと判断。だが、この溶岩も魔力で顕現したものならば、話しは早い。先程から魔術を消しているのは、絶対魔術防御だ。僕の周りに力場を発生させて、魔術を魔力に換えて更に強固な絶対魔術防御へと変える。


「えええ? 魔術が消えていく?!」


 観客もルディアも騒ぎ始める。押し寄せる溶岩は周りで赤い煙になって消えていく。それが五分ほど経ったから、ルディアにゆっくりと近づく。


「もう決着はついたよね?」

「……理を紐解く我が命ずる――――――人形となり意のままに動き給え――――――マインドハック‼」


 ぐらりと視界が歪む。なるほど、物理的な魔術は意味がないと悟っての幻惑魔術か。いい判断をしている。だが、それが悪手だということをまだ気が付いていない。

 僕の口が開き、キーンと甲高い声を発する。


「理を紐解く我が命ずる――――――我が魂を覆う盾よ、現れろ――――――マインドプロテクト‼」


 一秒にすらならない高速詠唱で幻惑魔術を跳ね返す。ばたりとルディアは倒れた。仲介人の教師がこちらの勝ちを宣言する。観客は拍手喝采を送った。その中に、ヨルン・リンフォード学院長が見つめていたことを察知する。これからが本番だ。


 ルディアが治癒術師に回復魔術をかけられているのを見て、実技訓練場を後にした。

 学生寮へ向かう森の道で一人の教師が近づいてい来る。


「ミミ・ポートリヤ……学院長がお呼びだ」


 来た……獲物は喰いついた。これをどれほど待ち望んだだろうか。


「(ヨルン……まずはお前から……復讐の始まりだ)」



 ――――――――昏い感情が燃え滾る。


https://kakuyomu.jp/works/16817330649705309002

カクヨムコン参戦作品になります。完結&ハッピーエンド保証です。

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