不死鳥の魔導騎士 ~魔王を倒した途端仲間に裏切られました。加護により、復活したので、復讐に生きることにします。前世の剣技も魔法も引き継いでいるので、問題はありません。謝るから許してくれ?ふざけるな!~

色川ルノ

第1話 開戦

 俺は今、勇者セイランとその仲間と共に魔王城前の荒野で魔王軍と対峙している。その周りには王国軍が一〇万が展開しており、魔王軍二〇万と睨み合いを続けている。もう一週間ほど散発的な小競り合いが起こっていた。いつ本格的な戦闘になってもおかしくはない。


「ジーク様、今日の内に戦いが起きると聞きました。王国軍が足止めをしている間に魔王城へ突入する。これが作戦ですよね」


 長い金髪を風にたなびかせて勇者セイランが王国軍の本陣へやって来た。


「セイラン、もっと肩の荷を下ろせ。勇者の君が張り詰めていたら、士気にも関わる」

「でも……少し怖くて……勇者の紋章が疼くんです」


 俺はセイランの右手にある勇者の紋章が黄金色に光っているのを捉えた。今回の第七次魔王大戦は異例尽くしだ。勇者も魔王も女性だった。王都の信託の姫巫女様もそれは見抜けなかったらしい。


「手が震えて……怖くてたまりません。私なんかが魔王と戦うなんて……」

「セイラン、何かあったら、俺が全力で助ける。これでも魔導騎士団団長だからな」


 俺も昔王国魔導騎士団に入りたての頃は、戦場でちびりそうになったものだ。相手は魔王軍ではなく、ただの盗賊団相手だったが。人は誰だって死ぬのは怖い。死ぬ運命からは逃れられない。


「そうですよね。剣魔両刀のジークフェルデ様がいる限り、勇者パーティーは最強であり続けますよね」

「セイラン、確かに俺は剣も魔法もそこそこできるが剣技は君に劣るし、魔法はヨルンに劣る。一日の長があるが、君たち若い者には敵わないさ」


 セイランは、長い髪を揺らしながら顔を横に何度かブンブンと振った。どうやら納得してくれないらしい。納得させるだけの理由があればいいが、あいにく持ち合わせはなかった。


「このパーティーの楔はジーク様です。勇者である私がここまで来れたのも、ヨルンやガルドを仲間に入れてくれたからです。でなければ、きっと魔王軍の息のかかった者に暗殺されていました」


 セイランの青い瞳が、黒い癖っ毛に緋色の瞳をした俺を捉える。薄々勘づいていたが、セイラン・オーゼンナイトは俺に惚れているらしい。ついこの間の酒の席で剣士のガルドに言われてようやく気が付いた。それを知った時は麦酒を噴き出して、潔癖な魔導士のヨルンを汚し、キレられたものだ。


「私は、お飾りの勇者だって、分かってはいるんです」

「セイラン……――そんなことはない。君は、立派に務めを果たしている。魔王軍の幹部の息の根を止めてきたのは君じゃないか」

「いつもジーク様が庇ってくれました」

「それは王国魔導騎士団の長として当然の責務だ」


 セイランは突然涙を一筋二筋ととめどなく垂らした。俺は、熱いそれを優しく拭ってやる。すると決壊した堤防のように大粒の涙となって溢れ出てきた。真に愛する人がいなければ抱きしめてやりたい。だがそれは無理な話だ。報われない恋だと知りながら、第一王女プリシラ様のことを生涯を賭して想い続けようと決めている。


「ジーク様……ごめんなさい。私、少し風に当たってきます。突入用の飛竜の様子も見ないと……」


 そんなことは勇者がする仕事じゃないと言いかけてやめることにした。今は戦いのことや恋煩いのことを忘れるに越したことはない。一刻もしないうちに戦闘が始まる可能性だって充分にあるのだから。


「ジークさん、今さっきセイランが泣きながら飛竜のところへ行ったんですが何したんですか?」

「軽い思いのすれ違いさ。それより人見知りの激しいヨルンが本陣に顔を出すのは珍しいな」

「そろそろ、戦いが始まりそうなので、顔だけでも出すべきかなと」

「ガルドはまた酒でも飲んでるのか? それとも女の尻をおいかけているのか?」

「残念ながら、どっちもです。女性の騎士を追いかけ回して、金的を蹴られて寝込んでいますよ」


 少し場が和やかになったところで、パーティーの最年長じゃとしてヨルンに簡単な指示を出す。一触即発の不気味に静かな空気がビリついている。イヤな感じだ。


「もうそろそろで戦いが始まる空気を感じる。ガルドを飛竜のところへ連れて来てくれ」

「ジークさん分かりましたよ」

「お互い生きて帰ろう」

「生きて帰ったら王都の魔法学院の教授ですからね」


 そう言うとヨルンは身を翻して本陣からいなくなり、俺はセイランの様子を見に行く。開戦ギリギリで、落ち込ませてしまった。勇者の力は魔王を倒すうえで不可欠だ。その勇者が落ち込んでいたら勝てる戦も勝てない。


「あ、ジーク団長……もう発たれる準備をなさっているんですか?」

「ああ……――そろそろ、敵に動きが見られたからな」


 彼女の名はラナ・ポートリヤ。魔導騎士団では腕は大したことはないが秘書としては優秀だ。


「ルルの様子はどうだ? 同じ魔族を相手にするんだ。心の支えになってやれよ」

「ルルは大丈夫です。魔導騎士団序列三位ですからね」

「まあ……そうだったな」


 前々から気になっていたことが解決して、少し気持ちが解れた。この調子で勇者パーティーを盛り上げていきたいところだ。

 飛竜の止まり木の付近にセイランがうずくまっているのが見えた。光の聖剣レア・クローネを横に置き、ボーッと放心している。俺が足音を立てて近づくのにも気付かない。少々どころではなく、元気づけなければならないな。


「セイラン……――そろそろ準備だ」

「でもまだ戦いの音は聞こえませんよ」

「魔王軍の右翼が王国軍の左翼に広がってきた」


 ハッと勇者セイランは息を飲んだ。間違いなく始まるのは最終決戦。思えば十数年がかりでようやく決着がつく。国王陛下も今では昔のように戦に立たず剣王と言われなくなった。時代が変わろうとしているのをヒシヒシと感じる。俺もこの戦いが終わったら、剣と魔法を教える道場でも開いて余生を送ろう。


「おう‼ ジークそろそろだってな?」

「ガルド……女に蹴られた金的は大丈夫なのか?」

「俺のは特別丈夫だからな。セイラン……魔王をぶっ殺したら一緒に……」

「ガルドさんは剣の腕を除いたら、ただの最低な男性です」


 そろそろ行くぞというサインを送るとセイランもヨルンもガルドも飛竜の止まり木で各々が飼い慣らした飛竜の背に乗る。魔王城の赤く光る結界が消えた。王国軍の決死隊が魔王城の結界を作っていた魔族を倒したのだろう。それを機に両軍の入り乱れる戦いが始まる。


「行くぞ……三人共‼」

「はい、ジーク様」

「分かったよ、ジークさん」

「ジーク……お互い死なないようにしような」


 飛竜は魔王軍からの弓矢や魔法を躱しながら、魔王城の庭へと降り立つ。

 そこに空気が石に変わったかのような、明らかに次元が違う実力者がいた。魔将軍アイゼン――神速の居合抜きの達人。高速詠唱を駆使する魔導士でもある。戦闘スタイルは俺の上位互換だ。それもそのはず、魔族は人のように老いないし、殺されなければ長く生き続ける。俺など赤子の手を捻るくらいで倒せるだろう。


「三人共ここは俺がどうにかする」

「ジーク様、相手は魔将軍……ダメですよ‼」

「ガルド……勇者様のお守りを頼む」

「お……おお、分かったぜ」


 勇者セイランは、ヨルンとガルドに無理矢理引きずられる形で、魔王城の庭を後にした。


https://kakuyomu.jp/works/16817330649705309002

カクヨムコン参戦作品になります。完結&ハッピーエンド保証です。

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