かくれおにで ビビらされた!

 ――例え裏切られたとしても、仲間を信じることだけは絶対に止めないッ!


 そんな少年漫画の主人公スピリッツ継承系女子、即ち余です。

 こんなピュアな余を騙すとかけーちゃん許せねぇ。許せねぇっーか、流石は賢き者です。

 余、正直脳筋気味なけーちゃんのこと舐めてた。だってあの子、ジャムの蓋が開かなかった時にビンの方を机の角の叩きつけて破壊する様な力の信奉者なんですよ?

 それがこれです。

 子供らしい純粋さの裏で練られる策略。余の完璧な演技に乗っかる演技で油断をさせておいての一刺し。見事。いや、御美事おんみごとと言うべき手管です。

 魔を統べる応、即ち魔王として負けてられねぇぜぇー。


「せんくん、せんくーん」


 そんな訳で廊下で見かけた戦士なボーイにこっちゃ来いと手招き一つ。


「? まおー、どうした?」


 余の参戦を知らないせんくんは、のってのてと素直に寄って来た。その眼は名前を呼ばれて嬉しいのか少し輝いていた。「……」。畜生。心が痛むぜ!

 ……まぁ、心は痛んでも体は痛くないし、余は魔を統べる王であるからして遠慮なく躊躇なく容赦なく――


「はい、タッチ」


 言って右手を伸ばす。余の右手が触れる刹那に咄嗟に身を躱そうとした反射神経は流石は戦場いくさばに生きる者、戦士とでも言うべき速さだったが……悲しいかな、お子さま。反応は早くとも、一歩は小さく余の魔の手の届く範囲から逃れることは出来なかった。

 そうしてけーちゃんに嵌められて押し付けられた鬼役はせんくんへと移り――


「「っ!」」


 驚愕の声は余とせんくん、両方から。

 せんくんに届かんとする余の魔の手を防ぐ一手。はちみつ色の髪を靡かせてゆーちゃんが割り込んでいた。


「そんな! ゆーちゃん? 何時の間に⁉」


 盗賊に迫ろうかと言う隠密スキル。

 戦士に迫ろうかと言う身体能力。

 特化した部位がない代わりの平均的に高水準な能力を仲間の為に使ってこその勇者!

 畜生! これが余を討つ世界の希望と言う訳ですか?

 余は仲間を庇う心意気に涙が出てしまいます!

 でもこれでゆーちゃんが鬼なので余は逃げますね!


「……ところで助けに来た仲間ゆーちゃんを見捨てて良いのですか、せんくん?」

「ししゃをかぞえると――せんじょうではしにゅ」

「……お、ぉぅ?」


 舌足らずの分際で戦場の真理を語らないで頂けないだろうか?

 そんな訳で幼くして戦場に生きる者であるせんくんは全力疾走。助けに入ったゆーちゃんをあっさり見捨て、見つけ難く、それでいて見つかった後に逃げやすい隠れ場所を探して駆けて行ってしまった……が……流石に余はそう言う訳に行かない。

 余は確かに魔王。魔を統べる王ではあるのだが……今は四人のお子さまの保護者でもある。

 だまし討ちまでは許容範囲でも流石に代わりに犠牲になった一人の勇気ある者を放置するのはよろしくない気がする。よろしくない気がするので壁に隠れつつ、戻り様子を見ることに。

 ゆうちゃんの身体能力は四人の中では三番目。せんくんには当たり前の様に負け、何故かけーちゃんにも負ける。森の賢者ゴリラと言うことだろうか? ……違って欲しい

 そして唯一身体能力で勝てるとうくんはかくれんぼ系ではチート。

 なので実は隠れ鬼最弱だったりする。可哀想。

 それなのにゆうちゃんは余の魔の手からせんくんを守る為に自らを犠牲にしたのだ。偉い。

 そしてそんな可哀想偉い勇気ある者の策は――


「廊下の角での待ち伏せですか……」


 身体能力で劣るのならば不意を突けばいい。一方向からの効果しかないとは言え、実に良い作戦です。

 でも残念! 後ろで一纏めにしてる髪、はちみつ色の尻尾が見えていましたとさ。

 ……でもあれ、位置低くない? 何て言うか、ちょうどゆーちゃんがしゃがんで泣いてたりするとあの位置に来そうな気が……。


「……ゆーちゃん?」


 ……。


「ゆ、ゆーちゃぁん? どうかしたのかの?」


 …………。


「あの、ゆーちゃん? もしかして……泣いてる? さ、さっきのは余が悪かった、よね?」


 ………………。


「よ、よし! 余が悪かったです! 余が悪かったので、鬼は余が――」

「いいえ!」

「え? ゆーちゃん? 後ろ⁉ 何で? だってあの尻尾――おぅ、マジですかー……」


 壁には切られた尻尾が貼り付けてあった。嘘でしょ? たかが隠れ鬼に対してこの作戦……これが人類に勝利をもたらす者、勇者の思考回路という訳ですか。

 ……余はその覚悟の決まり方に少しガクブルなのですが?

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