11話「任務の概要と先輩の幼馴染」

「そして名前は【古本京一こもときょういち】と言う。二人は気楽に先輩呼びか京ちゃんと呼んでくれ。趣味は週末に大盛りラーメンを食べる事だ! まあ最近は幼馴染のせいで制限されてるんだけどな……ははっ。あ、ちなみに使う除霊具については小銃タイプだ」


 先輩は自らの名前を名乗ったあと笑顔で趣味の話をしていたが、幼馴染が居ることを安易に明かすと同時に表情が段々と苦い笑へと変わっていった。だが恐らく京一の幼馴染は彼の体を労わろうとして制限を掛けているのだろうと話を聞いていて優司は思う。


「なるほど……。あのし――」


 彼が放った言葉に幾つか気になる点が生まれると優司は質問しようと声を出すが、


「あ、質問とか色々とあると思うけど今は自己紹介が先ねっ! 質問はあとでまとめてね!」


 それに覆い被せる形で京一がさらに声を出してくると質問は後に回される事となった。


「は、はい。わかりました。……んんっ、では俺からで。名前は既に知っていると思いますが一応、犬鳴優司と言います。趣味は村正らい――じゃなくて、読書を少々嗜みます。除霊具については拳銃タイプのものを二丁使うスタイルです」


 京一の言葉に否応なしに返事をすると優司は大人しく自身の名前と趣味を続けて言ったが、途中で村正ライフの名前を出すのは危険を伴う事に気が付くと急いで方向を転換させた。


 そして最後に除霊具について大まかにだが伝え終えると、幽香がコンビニの店員からおまけで貰ってきた缶コーヒーの蓋を開けて一口飲んでいた。


「おお、優司君も俺と一緒の銃タイプなんだね! それは何かと話が合いそうで嬉しいよ。じゃあ最後はコーヒーの苦味をなんとか耐えながら飲んでいる幽香君どうぞ!」


 京一は優司の自己紹介を聞いて同じく銃を扱う者という事で何処か嬉しそうであったが、自己紹介を続けるべく顔を幽香の元へと向けると声が若干笑いながらとなっていた。


 優司は彼の言葉を聞いて幽香の状態が少し気になると顔を向けて隣を確認する。

 するとそこには確かに京一の言う通りにコーヒーの苦味に耐えているのかやられているのか、うっすらと涙目になりながら手を震わせて必死に完飲しようとしている幽香の姿があった。


「はぁはぁ……やっと飲み終わった。……え、えっと僕は優司と同じクラスで相部屋の御巫幽香と申します! 趣味は優司が寝ている間に――じゃなくて料理を作る事で、除霊具については日本刀を使っています!」


 幽香は顔を上にぐいっと向けて缶コーヒーを飲み干すと口の端から黒い液体を流していたが直ぐに自己紹介の方へと意識を切り替えているようで、趣味の部分に関しては後で個人的に色々と聞きたい優司であった。


「ほうほう、日本刀を使うと言う事は前衛で戦うスタイルなんだね。良いね、これで作戦が色々と考えられるよ。……さて、じゃあ今から少しだけ質問タイムとしようか。そのあとに今回の任務概要を大雑把にだけど伝えるよ」


 京一は二人の自己紹介を聞いて何度か頷く仕草を見せると今度は顔を交互に二人へと向けて質問の時間を取る事にしたようで、それが終わると任務の説明となるらしい。

 だが優司としては質問よりも先に任務の説明の方が早く知りたかった。


「りょ、了解です」


 しかし京一は仮にも先輩であり意見を主張するにはまだ色々と歴が浅い事を自覚している望六はそれに応じる。


「右に同じく承知致しました」


 隣の席では幽香が口の中に残るコーヒーの苦味を消そうとしているのかお茶を数口飲んでから返事をしていた。


「よし、ばんばん質問してくれ! 答えられる範囲で何でも答えてあげよう!」


 京一が自身の胸を思いっきり叩いて自信気に言ってくる。


「じゃ、じゃあ……先輩の幼馴染ってどんな人なんですか?」


 優司は一瞬だけ本当に聞くべきかどうか悩んだが”幼馴染”という言葉に惹かれて訊ねることにした。


「おぅ!? い、いきなりプライベートの質問かい!? やはり優司君は変わってるなぁ。キミならてっきり真面目な事を聞いてくると思ったが……うむ、いいだろう答えよう!」


 彼にとってそれは思いがけない質問だったらしく目を丸くさせて驚愕していた様子だが、間に溜が入ると京一は両手を自身の膝に乗せて身を前のめりにしてから答えると言い切った。


「あ、ありがとうございます……?」


 優司は彼の言動を見て余り聞くべき事ではなかったかも知れない刹那に思ったが、隣では幽香がそわそわした様子で京一が話すのを待っているようであった。


「えーっとね。俺の幼馴染……名前は【矢矧千春やはぎちはる】って言うんだけど、二人なら分かるかな? 守護者と言われる者達がいることを」


 幼馴染の名前を口にするべきか京一は悩んだのか僅かに間が空いていてが、それでも幼馴染の名を言うとそれは女性の名前であることが何となくだが優司には分かった。

 だがそれと同時に彼の言葉の中に守護者と言う単語が出てきた事に、


「は、はい! 分かります!」


 逸早く幽香が反応を示して手を上げながら激しく主張していた。

 多分だが彼は”幼馴染”であり”守護者”という共通する部分に何か思う事があったのだろう。


「うむうむ、やっぱり分かるよねぇ。……それで千春はずっと俺の守護者を担当しているんだ。だから幼稚園の頃から一緒に過ごしていて、常に笑顔を絶やさないアイツは俺にとって向日葵のような存在さ」


 彼の勢いのある返事を聞いて京一は微笑みながら幼馴染の千春について優しそうな声色で語りだして、それを聞いていくうちに優司の隣では幽香が何故か瞳を輝かせて話を聞いているようだった。


「向日葵……。ふむ、意外と先輩はロマンチストなんですね」


 優司は幽香から視線を外して彼へと向けると正直に思ったことを言う。


「なっ!? ふ、普通に笑顔が良いという比喩表現だぞ!」


 だが意外にも京一は純粋な反応を見せて慌てふためいている様子であった。

 ――それからも暫く質問は続いて十五分ほどが経過すると、話は任務の説明へと変わっていった。


「それでは質問は以上にして、今からは任務の説明を行っていくぞ! ……だけど現地に着いたら依頼主から、もっと詳しい内容とか聞けるから余りここで話しても意味ないんだよねぇ。まあざっと頭に入れといてくれるだけで良いよ」


 京一が手を数回叩いて場を仕切り直すとバッグから一枚の紙を取り出して、それを右手で持ちながらひらひらと揺らして肩を竦めて目を細めていた。


「了解です」

「承知しました」


 そして二人も先程の質問の時のような軽い口調ではなく真面目な声色で返事をすると、いよいよ任務という本題に移ったことを優司は実感した。


「えーっとまず俺達が向かっている場所は豊橋市の嵩山町という場所だ。そこにはとある神社が建っていてネット上では”首狩神社”と言われているんだ」


 京一は右手に持っていた紙に顔を向けて目を通しながら話していく。


「首狩神社……?」


 その中には不穏な言葉が大胆にも登場していて優司は思わずオウム返しをしていた。


「ああ、色々と諸説はあるみたいだが本坂峠を通る旅人が首を切り落とされて放置されていたり、元々そこが処刑場だったという噂もあるみたいなんだ。……まあ、どちらにせよ良い場所ではなさそうだけどね」


 任務の概要が書かれている紙から視線を外して優司の方へと向けると、京一は次にその首狩神社にまつわる噂について淡々とした口調で語り始めていた。

 すると先程まで黙って話を聞いていた幽香が、


「つまり……曰く付きの場所という事ですね?」


 と重たい雰囲気を纏いながら京一に聞いていた。


「そうだ。キミ達も知っての通り悪霊はそういった噂や伝承、人々の恐怖の感情が引き金となって誕生する。無論その中にも例外はあるが概ねそうだ。そしてその神社こそが今回俺達が任務を行う場所となっている。……まあ今はこれぐらいだけ伝えておくよ。あとは現地について直接依頼主から聞いた方が早いからね」


 幽香の言葉に京一は大きく頷くと今回の任務地はその首狩神社だという事をはっきりと言ったが、その内容についてまでは話さなかった。恐らく彼の考えでは依頼人に直接聞いた方が色々と詳しい事が分かる上に手っ取り早いと思ったのだろう。


 そう優司は考えるとこれ以上は任務についての質問はすることが出来ず、あとはこの電車が豊橋駅に到着するのを待つのみで、窓辺から外の景色をみつつ幽香が買ってきた朝食を食べて時間を潰す事にするのだった。

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