5 来襲動機とお名前をどうぞ

「あの、もう一回良いか? 一応念の為……聞き間違えかもしれないし」


「世界侵略じゃ! 滅茶苦茶無双して完全勝利なのじゃぁ」


 目的を達成した姿を想像するように、ご満悦な表情でそう言う剣の女の子(仮称)。


(コイツ……やっぱあの時点でウィザードに突き出さないといけない奴だったんじゃ……)


 そう考える鉄平に対し剣の少女は言う。


「まあもう出来んがの」


「できない?」


「お主と契約して今のワシは大幅に弱体化しておる。その上お主の体を乗っ取れんという事はまともに戦う事すら出来んわけじゃ。そんな訳で完全敗北じゃよ今のワシ。残念じゃのう……うん、残念じゃ」


「……?」


 契約がどうのとか色々と聞きたい事は山積みだが、一つ感じた違和感を先に処理しておきたい。


「お前……本当に残念だと思っているか?」


 直感でしかないが、表情や声音からそこまで現状に不満を感じていないように思える。

 そしてその問いに彼女は悩むように難しい表情を浮かべて腕を組んで言う。


「…………その辺ワシも今自分で言っておいて疑問に思ってたところじゃ」


「疑問?」


「いや、世界征服してやるぞー、おーって感じは頭の中であるのじゃが、改めて考えてみるとそれ本当にやりたいか? ってなってての。できないって事実に対してそっかぁ無理かぁ、的な軽い感想しか湧いて来ん。なにこれ」


「いや知らんけども……お前自分で世界征服しようとしてこの世界に来たんじゃないのかよ」


「いや……世界征服やったるぞーって感じの気分というか使命感を持ってあの場に居たというか、それ事態は今もあるのじゃが……うん、そう思うに至った経緯というか、この世界に来る前の事は思い出せん」


「記憶喪失って事か?」


「そんな感じになるとは思うのじゃが、名前は覚えてるんじゃよ不思議な事に」


「そんな器用な記憶喪失ある?」


「事実なっとるじゃろが」


「確かに……あ、名前聞いといて良いか折角だし」


「ユイじゃ。お主は?」


「俺は杉浦鉄平だ。えーっと、よろしく? で良いのか俺達」


「良いのではないか? とりあえずよろしくじゃ鉄平」


 そう言って再び笑みを浮かべるユイ。


(……これ結構ありがたい状況なんじゃねえか?)


 此処までの短い時間だけで大体理解できる。

 ……目の前のユイという剣の少女、根は悪い奴ではない。

 普通のいい子に、物騒な目的や使命感だけが乗っかってるような、そんな印象だ。

 ……つまり、捻じ曲げられるかもしれない。


(今後力を取り戻したり俺を乗っ取ったりできるようになった時に、ヤバい事をやらかさないように軌道修正できるかもしれねえ)


 まだ完全に安全とは言えない目の前の少女を、ウィザードによるおそらく物騒になるであろう解決方に頼らずに止められるかもしれない。


(……通報せずにコイツを復活させたのは俺だ。責任もってそこはやらねえと)


 具体的にこの先どうするかは何も決められていないが、その方向性だけは定めた。

 

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