第35話 なぜ……

なんというか校内で見るときの印象と違うから変に意識してしまう。

彼女は香水をつけているのかほんのり爽やかで甘い香りが漂ってくる。

心臓の鼓動が少しばかり早くなる。

「…………」

しかし隣の宮前はなんだか不機嫌な感じで黙ってしまった。

気まずいぞ……。

隣の天野は僕が困っているのがそんなにおかしいのか、笑い転げている。

僕は沈黙に耐え切れず、彼女に話しかけた。

「な、なぁ。宮前はここで何してるんだ?」

「…………。それを話してアンタに関係あるの?」

「いや、関係ないかな……。ははっ……」

彼女はふてくされた感じで返答してきた。

僕は彼女になんて話しかければいいのか迷ってしまう。

「………………」

「………………」

沈黙。

この感じは言い表しにくく、それにつらいものがある。

精神的にくるというか、プレッシャーのような感覚。

あぁ、話が続かない。

「逆にアンタは何をしてたの?」

話のネタが見つからず、困っていると宮前の方から話かけてきた。

「ぼ、僕……?」

「アンタ以外の誰がいるのよ。 隣の天野に訊けっていうの?」

少し、言葉に棘があるがさっきよりは普段の彼女の状態に戻ってきた。

「僕は別に何もしてないよ。ここで考えごとしていただけだよ。それだけ。本当にそれだけ」

僕がそう言うと彼女はなんともいえない、リアクションがとりにくい感じの顔をしていた。

「アンタって本当に中身が無いのね……」

彼女はポツリと言った。

なんというか中身が無いと言われると悲しくなるな。

へこんでしまう。

「ご、ゴメン。そういう意味で言ったわけじゃないわよ」

宮前は僕の雰囲気を察したのか少し、うろたえる。

「いや、いいよ。僕も自分で自覚していたし。大丈夫」

そう、大丈夫。へこむわけない……。

隣の天野は笑い転げていた。

「ちょっと天野やめてよ。余計に傷を広げるじゃない」

宮前はすこしだけ天野が見えるようになっているため、彼の行動に気がつき、止めにはいるがフォローになっていない気がする。

「別にアンタが傷つかないと思って言ったわけじゃないからね。ちゃんと考えてるからね」

「本当に大丈夫。別に気にしてないから」

僕は今までに出したことが無い声を出したと思う。

まぁ、自分が中身が無いということは前々から気がついていたし、今回もそれに近いことが悩みの種なのかもしれない。

やはり、自分の心の中を完全に読み通すのは単純じゃないらしい。

「でも、アンタがそこまで気にしてるとは思わなかった。もしかして考えごとってそのこと?」

宮前の機嫌が元に戻ってきたらしく、言葉に大分、棘は無くなった。

「うーん。なんとも言えないかな」

僕は少し、はぐらかす。

「僕自身、よくわからないんだ。何をしていいのか、何をしたいのか」

「昔の自分探してますって人みたい」

宮前は呆れたようにいった。

「まぁ、それと変わらないかな。時々、思うんだ。天野と出会わず部活やら何かに励んでいたならこんな気持ちにならなくてすんだのかなって」

「どんな気持ちよ?」

「暗いというか、寂しい気持ちかな?」

宮前は顎に手を当て思案するような表情。

「でもそれってさ。アンタの性格だから治ることは無いんじゃない?」

「なっ?」

僕は落雷を食らったような衝撃が全身に走る。

まぁ本当に食らったことはないが。

自分の考えてきたことがすべて崩された。

「アンタって多分、自分ひとりで何かを解決しようとするのよ。自分の悩みを話そうとしなければ、他人と悩みの苦悩を分かち合おうとしないんじゃなかしら」

「分かち合う?」

「まぁ、簡単に言えば人に悩みを打ち明けるってこと。人間って案外もろいもので自分ひとりの頭で全部解決しようとすると混乱しちゃうのよ。人間の脳にだって限りはあるみたいだしそう考えると合点がいかない?」

「確かに」

宮前の言うとおり悩み事が多すぎると考える頭もショートしてしまう。

「一週間前、アンタとあの橋で話したじゃない。アンタは隠しているつもりは無いけど隠してることになっちゃうって。それはどこかアンタが閉鎖的だからじゃないかな?」

多分、あの橋というのは宮前の事件で餓鬼と対峙した葉恋橋だ。

しかし、そんなことを言っていただろうか?

少し記憶に無いが多分言われたことは間違いないだろう。

僕の記憶力を疑う。

「アンタが仲のいい人を見つければ少しは変わりそうだけど」

宮前は前を見ながら言った。

僕は横目で彼女を見た。

彼女はどこかはかなげな感じで、何か泡になって消えそうな感じだった。

多分、それは彼女が人魚の先祖返りだったということを知っているからだろうか。

連想してしまう部分もある。

でもそうじゃない部分もあるのだと思う。

僕は少し、黙ってしまった。

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