恋は誰でもふられてから

堅乃雪乃

プロローグ

恋の終幕

 ※


 明日は、今日を生きた証だ。

 明日は、過去を乗り越えて、初めて迎えられるのだ。


 なら――恋も。


 過去を生きなければ明日未来はない。


 ※


「つ、付き合ってくださいっ!」


 その瞬間、妙に心地よい空気が俺の背中をグッと押して走り去っていく。

 春を彩る甘い香りが、辺りをふんわりと包み込んでいた。

 ふと、ぐっとつぶっていた目を開ける。

 ひどく寂れた足元には、何処からか風に乗ってきた桜の淡い花びらがひらり。


 ここは屋上。時刻は午後五時頃――夕暮れ時。

 琥珀に染まる雲から、微かに温かみのある陽柱(ひばしら)が降り注ぐ。

 もう空はふんわりとまぶたを閉じて、今日におやすみをしている。

 明日へ向かおうとしているのだろうか。


 そう。今、俺は目の前にいる女子に告白している。

 

 一秒――想いを告げられたという幸福感に満たされて。

 二秒――あー……やってしまったという後悔の波が押し寄せて。

 三秒――やっぱふられるかな、と自信を無くして。

 四……五……六

 七秒――返事が来なくて、不安になる。

 八秒――淡い希望が打ち砕かれていく。

 

 分かっていた。分かっていたのだ。

 こうなることくらい、いくらでも想像していた、覚悟していた。

 それなのに。

 これからのことを考えると、どうしても心がズキズキと痛んでしまう。

 もう明日からは、昨日までみたいに笑顔で会話することなんて出来やしない。


 そっか。俺の恋はここで終わりなんだ。これからどうしようかな。

 いや、今はそんなこと考えられない。この失恋は心の深くに響いてしまった。


 俺は涙が零れ落ちないよう、精一杯、目を大きく見開きながら。弱く差し出していた手をぽんと落として、ゆっくりと顔を上げた。


 そこには――俺の新しい物語の始まりが転がっていた。

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