お前がエイリアンのママになるんだよ!

かも

プロローグ その①

 あかい、あかい、血の海が部屋一面に広がっている。


 赤、赤、赤。一面真っ赤。


 腹を抱えて笑ってしまうくらい赤く、けれどその抱える為の自分のお腹には、これまた面白いほど綺麗な穴がポッカリと開いていた。

 お腹の穴からは、思ったよりサラサラした綺麗な自分の血とか、肥え太ったミミズみたいな内臓とか、さっき食べたラーメンとか、それからそれから、有り得ないモノが流れ出てきていた。

 それは今自分のお腹がパックリ開いている事より有り得ないと断言できる。


 だってそれは…………どう見たって生きていた。


 必死に身体をくねらせ、はじめて触れる空気とか、自分という存在とか、そんな当たり前だけどソイツにとってははじめての未知のものたちに一々感動していた。

 ……たぶん、感動していたんだと思う。


 だってソイツの産声は、これ以上ないくらい自分の心を震わせやがるから。


 ああ、だからさっきの言葉は間違っている。さっき俺はソイツの事をどう見たって生きていると言ったが、正確には“生きている”じゃなくて“産まれてきた”だ。

 産まれたてほやほやの命に生きているなんて進行形は少し違うと俺はなんとなく思う。生きていると呼べるようになるのは、少なくともソイツがてめえの命というモノを実感して、消費しだしてからだ。

 とまぁしかしそんな命の産まれるという感動的な場面に相応しいのか相応しくないのかわからないが、俺はその真逆の絶賛死に真っ最中。

 なんせお腹に穴が開いているのだ。それで死にかけない方がおかしいって話なワケで。

 薄れよく意識の中、まあ最後に見る景色がこのあかい海と命の誕生ならそう悪くないと、自分を慰めながら俺は眠るように死を迎え入れた。 


 ────意識が途切れる最後のその一瞬まで、産声子守唄がやむ事はなかった。

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