SS とある国の伝承2

こちらはプロローグの続きになります。

――――――――――

「お母様!三日間のおやつ抜き、耐え切りました!」

 

 そう言う少年は、純白紅瞳の容姿のアルヴ王国王子である。

 その王子は王妃の寝室から鍵を盗み、書庫の金庫を勝手に開けた罪でおやつ抜きの刑を食らっていた。

 

「この本のこと、教えてください!」

 

 王子が大切そうに抱きかかえる本には〈無限の魔女トワの伝承〉と書かれている。

 

「そうねぇー……しっかりおやつ抜きも守ったみたいだし、いいでしょう。こっちへいらっしゃい」

 

 王子へ優しく言葉をかける女性は、アルヴ王国王妃である。

 

「それで、何が聞きたいのかしら?」

「全部教えてください!

 まずは無限の魔女トワ。お母様と同じ名前です!

 これは、お母様のことなのですか?」

 

 アルヴ王国王妃の名前はトワ。

 トワ・アルヴロットという。

 

「そうとも言えるし、そうでないとも言えるわね」

「……?それはどういう意味ですか?」

「言葉通りの意味よ。

 私ではあるけれど、私のことでは無いのよ」

 

 王子は母の言葉の意味が分からず何度も問うが、それ以上はうふふと笑って誤魔化されるだけだった。

 

「なら、次です!

 一つ目の龍としっぽの生えた悪魔。

 お母様はこれらに変身できるのですか?」

「無理よ」

「え?でも本には……」

「さっきも言ったでしょう。

 私ではあるけれど、私のことでは無いと」

「……難しいです」

「そうね。私も、あれは夢だったのかと思う時があるもの。

 だから、忘れないようにその本に記したのよ」

 

 母は遠い目をする。

 その表情はとても優しいもので、きっと大切な何かを写しているのだろう。

 

「では、最後です。

 魔女暦、これは無限の魔女トワが起こした偉業を称えて始まった暦だと書かれています。

 でも今は756年です。だとしたら、お母様は……」

「ええ、そうね。それは確かに私のことだわ。

 年齢も今は、772歳ね」

「人間の寿命ではそんなに長く生きられません。

 お母様は何者なんですか?」

「魔女、とされているけれど、本当は少し違うのよね。

 そのことについては、またいずれね」

 

 納得できないといった表情の王子だったが、それ以降は何を聞いても母の口は開かれない。

 母が怒ると怖いというのは身に染みてわかっているため渋々諦めた。

 

「また今度教えてくださいね。お母様!」

 

 王子はメイドに勉強の時間だと告げられ、母の部屋を後にする。

 その後の勉強時間は本のことが気になりすぎて身が入らなかったそうだ。

 

 

 

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