SSアランストーリー1 白き女神との出会い

トワと共に旅をしている旅商人、アランの視点です。

本編とは性格がだいぶ違って見えます。上手くトワに隠せたみたいですね(*´ 艸`)

――――――――――


俺はアラン、ケルグ村出身だ。

 つい先日15歳になり、夢だった旅商の許しを得た。

 

 ひとまず、今まで貯めたお金で馬と小さな馬車を買い、村の特産品であるケルグの毛織物を詰めるだけ詰め込んで出発した。

 暫く順調に進んだが、助けのない御者はなかなか疲れる。村からまだ三日ほどしか進んでいないが、少し休憩しよう。

 ちょうど目印になりそうな大木があるしあそこで。

 

「うん。先客もいないし、良さそうだな」

 

 そう思い馬車を近づけるのだが……

 

「ん?なんだあれ?白い……ウルフか?」

 

 この辺りに出る魔物はウルフ系くらいだが、確認されているウルフはブラックとレッドのみ。新種だとしたら、きっと報奨金も出るだろう。 

 危険な事は重々承知しているが、旅商の軍資金も多い訳では無いのだ。欲に負け剣を構える。

 音を立てないよう慎重に近づいて行くと、

 

「ッウルフじゃない。人だ!」

 

 木陰に倒れている白い何かはウルフではなく人、後にトワと名乗る美少女だったのだ。

 

「君!大丈夫かい?ッ!?」

 

 アランが驚いて目をそらすのも無理は無い。

 何せ、白い少女はすっぽんぽんだったのだから。

 

「なんで服を着ていないんだ……」

 

 不満なのか感謝なのか分からない言葉をこぼし、ローブをかける。そんな最中も少女の裸体をちらちら見てしまうのは、年頃の男子なら仕方がないことだろう。

 水を用意し、少女が目覚めるのを待つこと数分。

 

「ん……ん?」


 少女は目覚め、真っ赤な瞳が開かれた。 

 キラキラとまるで宝石のように輝くそれに、アランはついつい見とれてしまう。

 

 ――いけないいけない。

「やぁ。起きたんだね。よかった」


できるだけ平静を装い、優しい口調で声をかけた。

 すると、無防備にも少女は起き上がろうとするではないか。

 

「あー、まってまって、起き上がらないで。その……服が」

 

 咄嗟に手で顔を覆うが、隙間から少女の綺麗な体が見えてしまったのは仕方ない。 

 仕方ないったら仕方ない!

 

「うわっ!?ど、どういうこと……?」


 ――あれ?これ俺が服をぬがしたみたいにならないか?まずいッ!

「とりあえず、予備の服渡すから、着てくれるかな?」

 

 少女の裸なんて興味が無いと言わんばかりの、できるだけ冷たい口調で誤魔化す。

 

 ――変に思われなかったかな?

  

 必要以上に警戒されている様子もなく、素直に服を受け取った少女は、残念な事に木の裏で着替え中だ。

 ただ、図らずも自分の趣味全開で選んだ白い毛織の服を身に纏った少女は、まるで女神のようだった。


「綺麗だ……」

 

 思わず口からこぼれた言葉は、少女の言葉と重なって消える。気まずい沈黙が流れるが何とか言葉を捻り出し、取り留めの無い会話を続けた。


 ――女の子と話すのってこんなに難しかったっけ?


 それは、相手に不快な思いをさせないように、気を使って使って、使いまくっているからなのだが、心臓バクバクのアランは気づかない様子。

  

 それから何度か質問をした。が、何故自分があそこで倒れていたのか、どうやら覚えていないようだ。

 しかし自分の名前など、最低限の事は覚えていた。

 トワ、旅人だそうだ。

 

 ――女神トワ。いい響きだ。

 

 そんな呑気なことを考えていたら、トワがボロボロと泣き出してしまう。

 まだ小さいのに旅人だなんて、きっと何か辛いことがあったのだろう。しばらくの間、優しく合法的に背中をトワにさすり触り、泣き止むのを待つ。

 

「これから、トワちゃんはどうするんだい?」

 

 出来ればグレイス王国ぐらいまで送っていきたいと考えていると、トワもついて行きたいと言ってきた。

 それも、破壊力抜群の上目遣いと共に、だ。。

 

 ――まてっ、それはまずい!俺に効果抜群だ!!

 

 村のおばあさんを思い浮かべながら、押し殺した声で「いいよ」と伝える。 他にも何か言った気がするが、記憶にない。 

 こうして、俺と女神トワの旅が始まった。


 

 疲れて休もうとしていた事などすっかり忘れ、現在、馬車でグレイス王国に向かっている最中だ。

 やはりトワの記憶は深刻的に欠けているようで、かなり当たり前な事なども含め色々と質問が飛んできた。 

 中でも魔法の話の時は、その宝石のような目をキラキラさせながら迫ってきて――

 

 ――綺麗だ……結婚したい……あーっ違う違う。

 

 トワの一挙手一投足に煩悩が肥大化するが、何とかそれを振り払い、基本四属性の初級呪文を教える。



 しかし、彼女は基本四属性に適性が無いようで魔法は発現しなかった。光と闇も同様に、適性が無いらしい。

 

 ――可哀想に。あんなに魔法を使いたがっていたのに。


「アランさん。そのカーブした道の532メートル先に、ブラックウルフが一匹います」 

 

 ――え?

 500メートル以上離れてる場所にウルフだって!?……いや、見えないし、それにカーブは……

 そんなのどうやって見つけた?

 

「走って接近してきてます!」


 とにかく、ここはトワを信じてみよう。

 彼女の作戦に従い、道の角で待機。

 合図と共に飛び出し、ただ目の前に剣を振り下ろすと、ブラックウルフの首がとんだ。

 

 ――本当にいた……見えないはずの位置の敵に気づき、剣を振り下ろすタイミングまで指示が完璧だった。 

 彼女は、500メートルも先の空間まで把握していたのか。そんなの、まるで――

「今のはもしかして、空間魔法かい?」

 

 村の大人たちから伝え聞いたに過ぎない。しかも、そのどれもが眉唾物ばかり。ただ、先程の現象は俺の常識の範疇に収まらない。

 のだが、使った本人のトワもよく分かっていないようで、疑問系で返ってきたが恐らくそうだろう。

 神話の時代の文献にしか残っていない空間魔法が使えるのだ。貴族になれるよと勧めてみた。

 

 だが、その答えは驚くべきものだった。 

 普通なら大喜びするはずのところ、彼女は貴族にはなりたくない、と。 

 さらにこのことは秘密にして、と言ってきたのだ。(言ってない)

 

 ――これは俺も漢を決めるしかないな。


 俺は彼女からのに答えるべく、「俺も君と一緒にいたい」と素直に気持ちを伝えた。(伝えられていない) 

 その後、ブラックウルフの毛皮を剥ぐ件と、残った肉の処理方法で一悶着あったのだが、本当に隠す気あるのだろうか?

 

 ――空間魔法と時間魔法を操る美少女か……本当に女神なのではないか?

 

 うんうんと唸りながら考えるが、本人にも分かっていないのに、アランに分かるはずもなかった……


 ――――――――――

別キャラ視点を書いてみました。

その章に何話か、こういった小話を挟むこともあります。

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