第45話 エルフちゃんと卒業式と春休み

 そう何回も卒業式に参加しないだろうということでうちの学校では全校生徒が卒業式に参加することになっている。

 卒業する三年生と二年生だけというところもあると思う。


「卒業ですぅ、寂しいですぅ」


 どこで接点があるのかよく知らないがララちゃんも大変残念に思っているようで、最近ときおり寂しそうな表情を見せる。


「お姉さまたちにはよくしていただきましたですぅ」


 男ばかりの親衛隊みたいな男子諸君もいたけど、女の子ばかりのララちゃんをめでる会みたいなのがあるらしく先輩たちとも少しだけ交流があったらしい。

 俺だってトイレにも行くし一緒に行動していないこともある。

 なるほどよく知らなかっただけで、そういうつながりがあるようだった。


 卒業式で先輩たちを送り出した。


「うぇえええ、うわあああんん」


 ララちゃんが号泣していた。

 こういう式をやったことがないので耐性もなにもないらしい。

 三年のお姉さんたちにいい子いい子されてなんとかなだめてもらった。


 俺たちも高校を卒業すると進学するか就職するかというほぼ二択になる。

 大学だけでなく専門学校などに行く人も多い。

 あとたった二年で自分の進路を決めないといけないのだ。

 何に向いているとか全然よく分からない。

 異世界に行くような仕事なんてないに決まっている。

 唯一の接点は親父関係だけで、あれは国家機密なので一般人には開放していない。

 進路相談に馬鹿正直に「異世界に行きたいデス」とか書けるわけもない。


 父親の転移門が無事開通して行き来が可能になればというのが前提であるし、そもそも何ができるかも未知数だ。

 国家間の利益の吸い取り方次第では一生非公開のまま終わる可能性もある。

 流石に異世界の人との橋渡しをするコーディネーターになりたいとかいえるような状況じゃないだろう。

 どっちかというとララちゃんの秘書とかでお茶を濁すのも手だ。

 それならララちゃん関連の仕事をしているんだろうな、で腹を探られなくて済む。


「やった。新しいセーラー服」


 妹は埼台東高校の真新しいセーラー服に袖を通してご満悦だった。

 憧れだったのだろう。

 いつもララお姉ちゃんはいいな、という顔で見ていたのも知っている。

 それから他にも必要な物リストというのがあるので、それを見て購入していった。

 一歩、また一歩と東高校のメンバーになったような気がしてはしゃいでいる。

 前ははしゃぐのだって難しかったことを思えば、お兄ちゃんも泣いてしまいそうだ。


「今年度も終わりです。一年間ありがとうございました」


 灯里あかりちゃん先生が一年を締めくくる。


「この一年二組の担任をできて本当によかったです。はじめての担任だったしララちゃんもいたけれど、大きな問題も起こさないで一年間やってこれました。こんなにうれしいことはないです」


 これには俺たちもララちゃんもまた泣いてしまいそうだ。


「「「灯里ちゃん先生」」」

「その灯里ちゃん先生って言われるのも終わりなんですね」

「「「「先生」」」」

「びええええええんん」


 泣き出したのは灯里ちゃん先生の方だった。

 確かにララちゃんのいるクラスでそのかじ取りは影では相当大変だったのだろうと思う。

 政府の外務省からの注文とかも捌いていたのだろうと想像する。

 うちはほとんど何も言われたことはないが、たまに父親から電話が掛かってくるから、それで済ませていたのだろう。


「これ、この前スキーに行ってきたお土産です」


 なぜか泣きながらホワイトチョコのクッキーを配り始める灯里ちゃん先生。

 まったくこの先生も結構マイペースなところがある。


 なんやかんや一年間、結構楽しくやってきた。

 もしできるなら、無理だと思うけど同じメンバーで二年持ち上がりだったらよかったな、と思った。

 毎年一組から五組まではクラス替えがある。


 先生が泣き出したハプニングはあったものの、終業式を終えた。

 クラス内では打ち上げと称してカラオケに行くらしい。


「俺たちも行くか、カラオケ」

「ああ。いつものメンバーでいいか」

「いいよ」


 アキラに確認を。ララちゃんとハルカを押さえておく。

 それから学校を出たところで妹を掴まえる。


「カラオケいくぞ」

「はーい」


 あらかじめこうだと思って暇な妹は呼び出しておいたのだ。


 ララちゃんハルカ、エリカと揃うとかなり歌がうまい。

 俺とアキラは負け気味だがなんとかアニソン対抗とかをして過ごす。


「シュワシュワがあるですぅ」


 そうそうララちゃんのお気に入り。シュワシュワ。

 クリスマスのシャンメリーもシュワシュワなのでララちゃんにとってシュワシュワは一種のお祝い事のものとなっていた。


「コーンポタージュとコンソメスープも美味しいですぅ」


 ついにコンポタージュを見つけてしまったか。

 もうシーズンは終わりだけど、あれにはまると家でカップスープとかも欲しくなるかもしれない。

 今は味噌汁とかが中心だった。

 前回来たときはララちゃんとハルカのデュエットを聞いたけど、今日はララちゃんとエリカだ。

 エリカとカラオケなんて小さいときしかやったことがないからなんだか新鮮だ。

 ララちゃんは以前にも歌っていたアニソンが好きなのか今回もそれだった。


「愛してる~」

「愛してる~」

「天の彼方まで~」

「ずっとずっと~」

「「永遠に~~」」


 おおぉぉハルカはあまりアニソンメインじゃないのでエリカのほうが知っているらしくて上手だった。

 こうして俺たちは春休みに突入した。


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