第8話 エルフちゃんとレトルトカレー

 入院している妹エリカの洗濯物も回収したし、なにより病気が治るかもしれない。

 俺とララちゃんは病院から出る。


「あ、そうだ。ついでだからホイコーズ寄っていこう」

「ホイコーズ?」

「うん、雑貨屋さん。食料品とかもあるんだ。カレーが売ってる」

「やった、カレーですね!」

「うん。ただし今はレトルトね。家で作るのは妹が帰ってきてからにしようかと」

「もちろんいいですよ。早く退院できるといいですね」

「うん」


 こうして病院の近くにある総合デパートに入っているホイコーズに寄った。


 うん。オリジナルブランドの雑貨がところせましと並んでいる。

 商品はぼぼすべてがオリジナル商品だ。

 そしてレトルトカレーコーナーが充実している。

 カラーペンも何十色とかあったりしてこだわりが強い。


「カレーありましたよ」

「おう」


 そこには二十種類以上のレトルトカレーが並んでいた。

 基本のチキンカレー、ビーフカレー、ポークカレー。

 これらは売れ筋なのか大量にある。量多めでかつ値段も安い。

 甘めのチキンクリームカレー、エビクリームカレー、シーフードカレー。

 他にもエビホタテカレー、本格ホットチリビーフカレー、本格ホットチリチキンカレー。

 肉魚が入っていないベジタリンでも食べられる野菜カレー、カボチャカレー。

 ジビエシリーズなんかもある。クマ肉カレー、シカ肉カレー、キョン肉カレー、イノシシ肉カレー。


「どれがいいか迷っちゃいますぅ」

「うん。だよね」


 ララちゃんは困ったという表情をしながらくねくねと体を揺らす。

 ちょっとミュージックフラワーみたいだ。

 そうすると胸もぼいんぼいんと上下左右に揺れている。

 少し周りの視線がさすがに気になる。


「おいあれ」

「ばるんばるんだな」

「すごい」


 声もチョロチョロ聞こえた。


「えへへ、注目されちゃいました……」

「あはは」


 俺はどう返事をしていいか分からず、乾いた笑いで誤魔化した。


「辛いの大丈夫?」

「え、はいっ。あのトウガラシはエルフの森にもあって」

「そうなのか」

「ええ、狂信的な支持者が激辛料理店とかやってるんです」

「なるほど?」

「私はそこまで得意ではないですけど、ちょっと辛いくらいが好きです」

「そうか」

「はいっ」


 最初だし無難にビーフカレーにするか。

 あとチキンクリームカレーも買ってみよう。


「この二つでいい?」

「はいっ、ああ、あの、エビホタテカレーも買っていいですか?」

「お、おお。いいよ」

「ありがとうございます」


 うれしそうにぴょんぴょん跳ねてから頭をがばっと下げる。

 その動きが結構激しくてやっぱりぽいんぽいん、ばるんばるんかな、揺れる。

 あのですな、あれって痛くないのかな。

 何も言わないところを見ると大丈夫そうではあるけれど結構引っ張られるよね。

 ブラが仕事をしているのかもしれない。うん。


「他に欲しいものは? なんでもいいよ、無駄遣いしなければ」

「そうですかぁ、じゃあこのモモシャンプーを」

「ふむ」


 最近流行りのいい匂いがするシャンプーだ。

 女の子の匂いに似ているとかでおっさんにも人気らしい。


 ララちゃんは最初からスマホを所持していて、普通に使っている。

 だから流行とかも思ったよりは詳しいみたい。

 エルフ現代に生きる、って感じで本来のイメージからかけ離れているが、かなり順応しているご様子だ。


「えへへ、いい匂いしたらうれしいでしょ?」

「まあそうだけど」

「どうですか? 今はどんな匂いします? 女の子ってどんな匂いですかぁ?」

「うぅ……」


 俺に抱きついておっぱいを押し付けてぐいぐい迫ってくる。

 めちゃくちゃ柔らかい。

 プリンとかゼリーなんてものよりよほど柔らかいのだ。

 ぐにゃぐにゃしてるのに反発力というのか独特のハリもある。


 ただでさえ金髪碧眼のエルフ耳なので、めっちゃ目立ってる。

 チャラい髪を染めてるカップルがいちゃついているように見えるかもしれない。

 でもララちゃんは日本人離れしてる顔だから進んでる外国人に見えるか。


 柔らかくて温かいおっぱいを感じながら俺はあわあわする。

 どんな匂いだろうか、うんと、そうだな何だろうほのかに甘いような優しい匂い。

 モモだろうかミルクだろうか、ママの味というのだろうか、なんかそういう甘味がありそうな匂いだ。

 とっても落ち着く匂い。

 それから微かにする汗の匂い。これも別におっさんおばさんの汗のいわゆる加齢臭がまったくなく逆になんだか青春を感じさせる匂いだ。


「くぅ」


 俺はララちゃんのアタックに顔を赤くしていた。

 俺が恥ずかしがっても誰もよろこばないとは思うが、しかたがない。


「うぃうぃ、えへへぇ」

「ララちゃん、ギブ、ギブ。俺の負けでいいです」

「なんだか分からないけど勝っちゃいましたっ、ぶいぶい」


 ララちゃんの完勝だ。

 童貞の俺にはララちゃんのらぶらぶ光線がまぶしすぎる。


 さて家に帰ろう。あ、その前に本屋で新刊のラノベを買っていこう。


「本屋寄っていっていいか?」

「いいですよ。どんな本買うんですか?」

「ファンタジーとかラブコメ」

「ファンタジーっ、おぉおお」


 まあ今となっては目の前のララちゃんが一番身近で最大のファンタジーだ。

 本屋のラノベというか新文芸コーナーを見る。


「王都の裏道で拾った金髪幼女が実は王女だった件か、ふむ」


 異世界の国。転生した俺はふらふら王都で初心者冒険者をしていた。

 裏道を歩いていたところ、うずくまっている金髪幼女がいた。

 心配になり幼女に声を掛けたところ帰る家がないという。

 俺が拾って連れて歩くことになったが、なんと彼女実は隣国の第三王女その人だった。

 俺と幼女のエルフの金髪碧眼王女との異世界冒険譚。


「それ買うんですか?」

「ああ、うん。とりあえず」

「あっれこの王女様エルフですね。私と一緒っ、家がないのも一緒ですぅ」

「そういえばそうだな」

「エルフ好きなんですか? エルフ!!」

「エルフ好きだよ。猫耳も好きだけど、やっぱりエルフかな好きなのは」

「やったっああああ、ケート君に好きって言ってもらえましたっ」

「そういう意味ではないけど……」

「そうですか、しょぼん」

「いやいや、もちろん好きだよ」

「えへへへへへへ」


 テレテレのララちゃんを引っ張ってバスで家まで帰るのだった。


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