私は真実の愛を見つけてしまいました。こうなったら幸せになるしかありませんね

マンムート

第1話 好物を食べてる時に、婚約破棄しないでください。

「はへ?」


 私はかなり間抜けな顔をしていたと思います。


「なんだその顔は! 真面目に聞けッ!」


 私の婚約者であるフリードリヒ侯爵令息は激怒しました。

 整った美形ですけど、真っ赤になって怒ると結構サル顔ですね。


 ですが私にも言い分があります。

 好物の蒸し鶏を食べてる最中に話しかけて来る方が悪いのです。


 フリードリヒは、白いマントをバサリとひるがえし、鮮やかな紅の裏地を見せつけると、バッと私を指さします。

 きっとキメポーズのつもりなんでしょうね。


 ダサ。


「マルグリット・マグデルグよ! 高貴で尊い血筋であるサクセン侯爵の後継者であるオレ様、フリードリヒ・サクセンは、成り上がりの卑しいマグデルグの女でしかないお前との婚約を断固破棄するッ!」


 私は、味わう間もなく好物を飲み込んで、


「はぁ」


 と気の抜けた声で答えながら『このひとは、ここまでマヌケだったんだ』と呆れ果てておりました。


 婚約破棄? しかも自分からですか?

 貴方の実家であるサクセン侯爵家は、侯爵は侯爵でも貧乏侯爵ですよ。

 歴史があろうが十五代前だかに王家から別れただろうが、貧乏な現実は変わりませんよ。

 しかも十五代も前だったら、王家の血筋なんかどこへ消えたかわからん濃度ですよ。庶子の方が継いだことも何度かあったはずで。そのうちのひとりは血が繋がっているかさえ怪しげだったと思うのですけど。


 そもそも血筋だの高貴さだので統治ができるわけじゃないですし。


 サクセン侯爵の領地は広大で、しかも地味豊かで資源もありますがめちゃくちゃです。投資をしないからインフラは無きに等しく、周辺の領地から一世紀くらい取り残されてます。我が王国内で最貧困地区です。

 なのに名家の誇りとかで見栄を張り続けて破産寸前。

 そこで税金を致死レベルまで上げたらただでさえ貧しい住民が逃げてしまって、貧乏街道をまっしぐらなんですよね。

 確か、人口密度も王国で一番ぶっちきぎれで低いはずです。

 それなのに、貴方や貴方の父上母上がツケで遊んだり宝石買ったりドレス買ったりしてられるのは、うちが出してやってるからなんですが(と言っても証文はバッチリとってて、うちからの借金なんですけどね)。

 貴方が次から次へとつまみ食いしてる中身空っぽの令嬢達も、うちという金づるがあるから寄ってくるんですけど。


 財布と縁を切っちゃっていいんですか?


 しかも公衆の面前、さらにはこの夜会は我がマグデルグ伯爵家が主催で、我が屋敷で絶賛開催中、周囲にいる方々は我が家の係累や取引先や関係者ばかり、貴方の味方は誰もいませんよ。

 見守ってる皆様の、冷え冷えとした目がわかりませんのね。

 こんな羞恥プレイじみた場所で、婚約破棄騒動なんか起こしたら、間違いなくそちら有責で婚約破棄ですけど! 



 サクセン侯爵家の御当主夫妻は、無能は無能なりにその辺は辛うじて理解しているようでしたから、フリードリヒが血迷ったんでしょうね。

 というか、御当主夫妻が来ないのをいいことに、こんなことをしでかしたんでしょうけどね。


 はぁぁ……まぁなるようになるでしょう。


 目の前で喚いている婚約者にとっては最悪の結末にね。

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