第5章 キャンパスツアー

 

 月明かりに導かれ、立明大学りつめいだいがくのキャンパスへと足を急がせる。まもなく予約した六時半の時刻が迫ってくる。


 夜空を見上げると、ビルの谷間から星が流れるように顔を覗かせている。都会でも天の川は見えるのだろうか。郷愁などふける暇はないのに懐かしい景色を思いだす。


 新幹線でやって来るが、東京駅からここまで一時間もかかっている。なにぶん不馴れな都会の街だ。山手線の車窓からスカイツリーが見えただけでも奇跡となる。

 大阪の阿倍野ハルカスには行ったが東京の高層ビル群の迫力にはびっくりしどおしだ。流石に摩天楼と呼ばれる理由が分かった。もう少し早い列車に乗ればゆっくりと見れるのにがっかりである。


 でも、夢と希望をしっかりと抱いている。


 クリスマス期間中、受験生に限ってグループとなりキャンパスツアーを体験できるという。もしかしたら、大学構内の案内人は美しい女子学生かも知れないと密かに期待を寄せている。

 立明大学は女性が多く、しかも有数なほど美人が多いと聞く。胸をときめかせて、クリスマスイブの星空のもとで見学可能な最終グループを予約していた。


 大学案内の表紙で見た正門が目に入る。ライトアップされた二本のヒマラヤ杉が近づいてくる。一見、クリスマスを祝う男女のカップルみたいな可愛い樹木だ。ツタが絡まる赤煉瓦校舎には丸い時計台が見えてきた。なんとか間に合ったらしい。


 冬枯れで葉の落ちたツルが時計台の廻りを囲んでおり、季節の移ろいを感じられる。贅沢極まりないが、本当は青々とする煉瓦校舎を見たかった。待ち合わせ場所となる守衛室を探してゆく。



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