1次会 まずは自己紹介

「どうも初めまして、僕は黒小路くろこうじといいます。この推し活部の部長やってます!」


 ‌推し活部の部室。

 扉を開けるとそこには、先程熱い演説をしていた部長が立っていた。


 ‌丸々と太ったお腹。顔の肉もタプタプ。

 ‌眼鏡が顔に埋まってる。

 それはそれは、‌Theオタクでした。


「あれ……。入部希望者は一人か……。思ったよりも来てくれないな……」


 ‌部長は肩を落とした。

 ‌奥に座ってスマホをいじっていた少女がこちらに気づいたようで、立ち上がって入口まで来て一緒に出迎えてくれた。


「お前と顧問が気持ち悪い演説してるからだろ。もっと華やかにやらないと女子も来ないんだよ!」


 ‌小柄で一見可愛らしく見える少女が、勢いよく部長のお尻を蹴っ飛ばした。



「グハッ!! ‌霧島きりしまあかね氏、蹴るのはやめてくだされ。新入生の前でござるよ……」


「しゃべり方もキモイんだよ。おとなしく座ってろ!」


 可愛い顔して毒舌が凄い……。‌

 霧島茜と呼ばれた少女は150cmに満たないくらいの小さな背丈。

 そこから可愛らしい声で毒舌を発していた。

 キリッとしたツリ目がとても可愛い。


「……そんなこと言われたって、僕が部長で君は副部長で、ぐちぐちぐち……」


 ‌おずおずと部長は席に戻って行った。

 ‌お尻は特に痛がる様子も無く、あまりダメージは無かったらしい。

 どうやら‌蹴られ慣れているようであった。



「私が副部長の霧島茜だ。あんなキモイ部活紹介で集まってくれてありがとう」


「……どうも初めまして。僕は藤木ふじき浩二こうじといいます。推し活というものに興味が湧きまして、見学だけでもと……」


 怖いけど美少女な‌茜さんとの会話に緊張しながら、しどろもどろに答える。



「君、一見まともそうに見えるね。こんな部活来てよかったの?」


 ‌優しいとも、罵ってるとも取れる口調で茜さんが聞いてきた。


「……あの、僕も酒姫が好きです。コソコソと隠れないで、好きなものを堂々と好きという部長の姿がカッコいいなと思って……」


「なるほど! 君も酒姫のことが好きなんだね! どんなところが好きなんだい?」


 ‌席に戻った部長が勢いよく食いつき、話に割り込んできた。

 ‌興味津々な顔をこちらに向けてくる。


「……あの、僕は酒姫の歌が好きで、それでこんな歌を歌って欲しいなぁとか考えたり、こんな歌詞だったらもっといいのになぁとかを考えたり……」


 ‌僕の言葉に、‌部長は同意したらしく、うんうんとうなずいている。


「うん! なるほど! やっぱり‌酒姫の歌・・・・が好きになるきっかけですな!」



 茜さんは顔にハテナが着いていたが、何か納得したような顔でこちらを見てきた。


「あれか! ‌推してるアイドルの曲を勝手に妄想して作ったり、作詞したりするんだな? ‌君は見かけによらず痛い子だな!」


「わーー! ‌茜氏ー! ‌入部希望者になんてパンチを浴びせてるんだよ。罵り慣れてない子にはキツいよ!」


 部長は心配したような顔をこちらへ向けてきた。



「……大丈夫です。昔に言われ慣れました……」


 茜さんは特に気にする様子も無く、部屋の奥にあった棚から入部届を持ってきて、僕に渡した。


「君の入部を認めたいと思います。後でこの紙に名前書いておいてね。じゃあ、あらためて痛い子君・・・・、お名前と、この部活でやりたいことを宣言して下さい!」



「……入部理由……」


 あらためて言うとなると、緊張で顔がこわばった。

 

「……あの、ええと、僕は、この部活なら自分がやりたかったことが出来ると思ってやってきました……」


 ――小さい頃、友達に馬鹿にされて以来、人前でしゃべることが無くなった夢――。



「僕は、いつか酒姫をプロデュースする人になりたいです! そのために酒姫のことをもっと知りたい! だからこの部活で酒姫のことをもっと知れるように頑張りたいと思います! 僕は藤木ふじき浩二こうじです!」


 ……久しぶりに大きな声を出してしまった。


 いきなり大声を出した僕を見て、部長と茜さんはきょとんとした顔をした。


 一瞬の間があり二人で目を見合わせていた。その後、二人は目を見合わせながらニヤニヤとしだしたかと思うと、こちらの方を向いてきた。


「いいじゃん藤木・・、お前みたいな熱い奴を待ってたよ!」


 ニヤニヤした茜さんが僕を小突いてきた。


「藤木君、君は本当に酒姫が好きな良い奴だ。僕たちと一緒に酒姫を盛り上げよう!」


 部長のうなずきが速さを増し、この後しばらく止まらなかった。

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