第4話 ピリリとした会場

講堂に入って行くと水色のふわふわした髪をした女の子が、キョロキョロとしていた。

席が分からないのかなと思って声をかけてみる。


「君、どうしたの? 」

「え?あ!」


振り向こうとして、バランスを崩して、よろける。咄嗟に腕を伸ばして背中を支えた。


「あ、ありがとうございます。慣れない靴ってだめね。」


少し恥ずかしそうに笑う。可愛い。

確かにヒールが高い靴を履いている。


「俺はマーカス・プリメレモン。マーカスと呼んで。」

「わ、私はフローラ・パフィンと申します。フローラって呼んでね。」


パフィン子爵領は、王国の西に位置する、果物が特産の地域だ。

王都からは結構距離がある。入学の為、先週初めて王都に来たのだという。


先ほどまで親族用の席に居る家族と一緒にいて、一人生徒席に移動しようとして迷っていたらしい。

生徒用の席は、前の方だと聞いていたので、一緒に行くことにした。

講堂の前方の方に行くと、一部のエリアが区切られていて、エリアを囲むように騎士達が立っていた。


壁際にも、騎士が等間隔で並んでいる。

少しピリリとした空気だ。


「うわぁ。何だか騎士様が一杯ね。」


フローラがほーっと感心したように言って、ふんわりと笑う。

あまり緊張感を感じていないような笑顔にほっこりする。


「今年は王族の方がご入学されるそうですからね。」


ジョセフィンが、警備が厳重担っている区域を眺めて、そう言った。まだ席は空席だ。


「知っているわ。トリー殿下でしょう?王弟殿下のご子息の。」


トリー殿下は、王弟であるシファル殿下の第二子だ。

王都に到着してから街中を歩くと、あちこちでトリー殿下の話を聞いた。ご入学準備に、文房具をご購入されたお店だとか、乗馬服をご注文されたお店だとか、

鞄、靴、ハンカチ、色々な店がトリー殿下御用達と書いた看板を出していた。とても人気があるようだ。


「入学したら同学年に王族の方がいらっしゃるということね。やっぱり特進科に進まれるのでしょうね。」

「そうだろうね。」


特進科は、王族や高位貴族が通う為のクラスだ。

その他に、魔導科、騎士科、淑女科、普通科がある。


「マーカスとジョセフインは、どのクラスに入るか決めているの? 私は淑女科に入る予定なの。」

「まだ。説明会で話を聞いてから決めようかと思ってるんだ。」


数ヶ月前に王都に行っていた父と兄が、面倒事を避けたいなら、特進科は避けた方がいいかもしれないと言っていた。

母方の伯爵家の家名を名乗っているのもそうなんだけど、どうも何か面倒事を察知していたみたいだった。

髪も染め、眼鏡も掛けて行けというので、とりあえずその通りにしてみたけど、なんだろうな。


王族がクラスにいて、その人に近づく高位貴族で派閥ができたりとかだろうか。まあ、そういうのはあるんだろうな。

貴族子息のお茶会とか出た事がなかったから、同年代の貴族の知り合いもほぼいないし、感覚的によくわからないけど、

門に並んだ馬車の行列とかが普通なら、きっと面倒なんだろうと思う。


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