第7話 神話級のアイテム

【sideファガン】



「いよいよね。ねえファガン、できれば敵の武器を奪って渡して欲しいの。私も冒険者の端くれだから、可能な限り戦闘には参加するわ」


「よし、分かったぜ。相手の盗賊は命を奪わない方が良いか?」


「難しいところね。でも、情報を聞き出す必要があるから何人か、できれば一人は捕らえて欲しい。でも無理はしないで」


「分かった。そんな奴らが相手ならどんな隠し球があるか分からないだろうし、気を付けるよ」


 俺は気を引き締めた。


 正直、つい先ほどまで盗賊の相手くらいは楽勝だと思っていた。


 だが天神族が下部組織に力を与える事ができるという話を聞いて油断できる相手ではなさそうだと悟る。


 

 身近にいるのだ。その天神族と同じように、自身に連なる者に力を分け与える事ができる存在が。


 正確に言うなら俺のよく知るそれは、天神族のそれを遙かに凌駕する"超々々々々々々々々上位互換"とでも言うべきものだ。


 だがそれと同じ力を有する者が、世界中の人間に影響を与えているとするならば、決して甘く見ていい能力ではないはずだ。


「よし、行くぞッ。シルビア、獣車の前に回り込んでくれ」

『わんっ!』


 シルビアの身体が大きく跳躍し、奴隷を積み込んだ獣車を飛び越える。


『グァアアアアアアアッ!!』


『ギャワワワッ』


 獣車を引いている大型のラプトルが恐怖で慄き足を止める。


「うおっ!? ど、どうしたっ!?」


「な、なんだあれはっ!」

「ボスッ、前ッ、前ッ!」


 盗賊達は急激に動きを止めるラプトル達から振り落とされていた。


「どうっ、どうどうっ……っ!」


 だが、厳つい鎧を着用した大型のラプトルに乗る男だけは振り落とされずに鎮める。


 あれがボスだな。言い面構えしてやがる。


「貴様ッ、何者だ」


「ファガン、あの鎧の大男が隊長格よ」

「ああ。闘気をビンビン感じる。雑魚じゃねぇな。イヴ、これを渡しておく」


 俺はバンクルから再びアイテムを取り出した。



 それは俺が身につけているのと似たデザインのバンクル型アイテム。


 それをイヴの二の腕に近づけると、そのサイズが変形してピッタリと填まり込んだ。


「こ、これって」


「"アーマーバンクル"っていってな。簡単に言うと付けているだけで身軽さはそのままに、ゴツイ鎧と同じ防御力を得ることができる。裸足に薄布一枚じゃ心許ないだろ」


「ありがとう、心強いわ」

「一応耐久限界はあるから気を付けてくれ」

「越えるとどうなるの?」

「只の腕輪になって防御力がゼロになる。限界が近いと感覚で分かるから無茶はするなよ」

「うん、分かったわ」


「だがそんなに心配するな。ドラゴンにタコ殴りされても三日三晩耐えられるだけの耐久力がある」

「そ、それは頼もしいわっ。それにしてもめちゃくちゃな防御力ね……」


 とイヴの口元はヒクついた。まあ気持ちは分かる。



「それから、武器ならこいつを使うと良い」


 バンクルから再びアイテムを取り出した。


 二の腕に付けるバンクルとは違い、それはいわゆる手首に嵌めるブレスレットのようなアクセサリーだった。


 黄金に輝くそれは、俺の手を離れて浮き上がり、自動的にイヴの手首に填まり込む。


「こ、これって……」


「"ブレイブリングウェポン"っていうんだ。意志の力に呼応して武器の形になる優れものだ」


 それを聞いたイヴの口元が更にヒクヒクと蠢く。


「あまりにもデタラメという言葉の領域を越えすぎているわよこれ……少し怖いくらいだけど、あなたを信じるわ」


(これまたとんでもないアイテムね……神話レベルよ)


 そんなつぶやきが聞こえる。


「シルビア、イヴを援護してやってくれ」

『ウォンッ!』


「よろしくね、シルビアちゃん」

『あうっ!』


「てめぇは何者だ」


 大男の隊長格の問いかけに応えることなく、俺は即座に動き出した。


「先手必勝ッ!」


「むっ!?」


 隊長格の男は視界の端に動く影に驚愕に目を見開いていた。


「ぐぁっ」

「がっ!?」

「うぁあっ!」


 俺は高速で突進し、周りの雑魚を蹴散らす。


「むっ、むぅうっ!? 馬鹿野郎ッ! 動きに惑わされるなッ、迎え撃てッ!」


 怒号の指示を受けて盗賊達の目つきが変わる。


 一斉に武器を構え、しかし目の前で繰り広げられている光景に身体が震えていた。


 無理もない。不意打ちで倒された盗賊達は既に五人に上り、半数が一瞬のうちに倒されたのだ。


 

「き、貴様は……」


「イヴッ、半分は任せたぞっ」


「っ!!」


 俺の叫びと同時にイブの手首にハマったブレスレットが輝きを放つ。


 イヴの手には一振りのショートソードが握られておりその手にピッタリと馴染んだ。


「そうかっ。敵をわざわざ残してくれたのね」


 俺はあえてシルビアに追いつかせた時点で不意打ちをしなかった。


 ラプトルがパニックを起こし獣車が横転して村人達が怪我をするのを防ぐ為というのもある。


 だがそれだけではない。


 俺の意思は伝わってくれたようで、アーマーバンクルをひと撫でしイヴの顔付きが変わった。


「村の人達の仇ッ! 覚悟しろ盗賊共ッ!!」


 裂帛の気合いと共にショートソードを正眼に構え、盗賊達を迎え撃つ。


 その時、イヴの頭上にほんの僅か、角のような突起が生え始めている事を、俺を含めた誰もが気が付いていなかった。

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