第24話 お嬢様の声が励みになります
体育祭といえば学校行事の中でもトップクラスに人気といえるだろう。
しかしながら、他の学校でもそうかもしれないが、ウチの学校の体育祭は大分3年生贔屓されている気がする。
プログラムを見れば一目瞭然。ほぼ3年が主体のプログラムとなっている。
なんだろ、メジャーデビューを果たしたアイドルグループが3年で、それを盛り上げるバックダンサーが1、2年って感じかな……。
あー3年優遇されてるなぁ。なんて誰しもが思う事だろうし、この事に文句を言う奴もいれば、仕方ないという奴もいる事だろうね。
俺としては後者である。
3年の大目玉行事は体育祭と文化祭しかない。まぁ聞けば細かい行事があるにはあるが、この2つだけと言っても過言ではないだろう。
進学や就職活動を考慮して3年になったら学校行事が減るので、その分内容の濃い体育祭と文化祭になるみたいだな。
俺達下級生は3年よりも学校行事があるのだから、最後の体育祭くらい華やかに飾らせてやれば良いさ。
簡易テントの下で用意されたパイプ椅子に座って3年のクラス対抗綱引きトーナメントを見ながらそんな事を思う。
あと3年クラス対抗種目はリレーとダンスを見せられるらしい。ホント3年贔屓だな。笑えるくらいに。1、2年はクラス対抗1つだけだぜ。仕方ないとは思いつつも3年の先輩方も胸焼けしない? しないか、そっち側は楽しいだろうからな。ま、最高の思い出作ってくれや。
しかし、まぁ見てる側も結構盛り上がるから体育祭って不思議だよな。
「南方くん!」
不快な声が聞こえてきたので聞こえないフリをしていると構わずに話を続けてくる。
「次の騎馬戦! 絶対に勝とう!」
借り物競走を譲ってやってから、やたらとフレンドリーに接して来やがる。そんなに嬉しかったのか……。
「あいあい。がんばろーねー」
適当にあしらうように言うと「やれやれ」と言いながら俺の肩に手を置いて言ってくる。
「テンション低いなぁ。あれかい? 体育祭なんて別に興味ない感を出しているのかい? 子供だねぇ。君も少しは大人になって素直に楽しみたまえよ」
「おい。井山。肩に手を置くな。不快だ。消えろ」
「ははは! 君と僕の仲じゃないか。そんな事は言わずにさ」
にかっ!
――なんでこいつキャラ変わってんの? 爽やかだなぁ。体育祭だから? 体育祭だから変わったの? めっちゃうざいんだけど。
「僕は君の為に騎馬となって縦横無尽に走り回るよ。いや、バイク乗りの君は僕の事は騎馬と思わずバイクと思ってくれたまえ! ブンブン!」
うっぜー! シンプルにコイツ殴って良いかな……。
「ところで話は変わるけど、僕もバイクの免き――」
「おい。夏希がこっちに手を振ってるぞ」
「え!?」
適当な事を言って夏希が座っている方を指差す。
すると俺が彼女の名前を呼んだ声が届いたのか、本当に手を振ってくれた。
コチラも振り返しながら、あーすまない夏希ー。多分コイツお前の所行くわー。任せたー。と謝罪しておく。
「ご、ごめん! 南方くん。ぼ、僕は海島さんと借り物競走について打ち合わせがあるから!」
そう言って井山はまじに夏希の方へ向かって行った。
借り物競走の打ち合わせってなんだよ。あれ男女別の個人競技だぞ……。打ち合わせる意味なんかないだろうに。単純に夏希と話したいだけだろうな。
「南方くん」
先程とはうってかわって、耳に心地良い女子が俺をくん付けで呼ぶ声が聞こえる。まさに雲泥の差とはこの事である。
見るとクラスのアイドル水野 七瀬が俺の所へやって来た。
「隣良い?」
俺の空いている隣の席を指差す。
「どぞ」
「ありがとう」
そう言って水野が座るとフワリと良い香りがして来た。
「南方くんって海島さんと仲良いよね?」
「ん?」
反射的に夏希の方を見る。そこには井山の相手を嫌な顔1つしないでしてくれている夏希の姿があった。
「まぁ。仲良いな」
「好きなの?」
なんですぐに恋愛に絡めようとするのかね。この子は。
「趣味が合うだけだよ」
「ふぅん。趣味って?」
「夏希はちょっと趣向が違うけど、まぁバイクかな」
「あ、そういえばバイト先にもカッコいいバイクで来てるもんね」
彼女の言葉に俺のボルテージが少し上がった。
「俺のバイクカッコいい?」
「詳しくはないけど、見た目カッコいいと思うよ?」
そう言うとパンと手を叩いてしまう。
乗っているバイクを褒められるのは物凄く嬉しい。
「だろー! いやー! 分かってるわ水野。やっぱ結局はフルカウルなんだよ! 他にも色々とあるよ。ネイキッドとかアメリカンとか。オフロードも良いなーって思うし、どれも欲しいって思うんだけど! やっぱ結局フルカウルなんよねー!」
「へ、へぇー。あははー」
あ……。つい夏希に喋る様な内容を話してしまった。
若干引き気味である。
「バイクって2人乗り出来るの?」
おっと、予想外にも引かれたと思ったのに話題続行である。
「出来るよ」
「えー。じゃあ今度バイクで一緒にバイト行きましょ。先輩」
「だっ。だから先輩呼びは――」
『涼太郎ー! 騎馬戦の準備ー!』
テント外からイケメンの声がしたので振り向くと男子連中がテント外に集まっていた。
井山もいつの間にかそちらに合流していた。
「――っと、出番だわ」
俺が立ち上がると水野は天使の微笑みを俺に送ってくれた。
「頑張ってね。先輩」
また先輩呼びをしてからかってきたが、俺は素直に返す。
「いっちょ頑張ってきますわ」
そう言いながらテント外の男子連中の輪に混ざろうとテントを出ようとした時だった。
左腕の半袖体操の袖を掴まれる。
後ろを振り向くとそこにはアヤノの姿があった。
「ん? どした?」
「なんでもない」
コケそうになった。
「なんでもないなら止めるなよ」
「ウソ」
「へ?」
「なんでない事はない。前から少し気になる事がある」
「ほぅ。なになに?」
尋ねると間を置いて聞いてくる。
「『先輩』って何?」
「せんぱ……。あー、水野のやつか。聞こえてたのか?」
「前の男女混合リレーを決める時からリョータローの事をそう呼んでいた」
「あはは。水野の奴俺の働いてるコンビニバイトに新しくきたんだよ。で、まぁ一応俺の方が先輩だからさ。からかってきてんだよ」
「……そう」
何処か納得してなさそうな雰囲気を出している。
「後ろ乗せるの?」
「後ろ……?」
アヤノの言葉が分からずに質問を質問で返してしまう。
「バイクの」
「あ、あー。その話ね。あんなの冗談に決まってるだろ」
「冗談じゃなかったら乗せるの?」
「いや、それはどうだろ……」
そんな冗談話を真剣に考えていなかったからなんとも答えにくい。
「あれ? もしかしてあそこはアヤノの物って言いたい感じ?」
「や! ち、ちがっ」
お。珍しく取り乱した。
「あはは。可愛い反応だな。ま、アヤノが素直に言えば専用にしてやるよ。アッハッハ!」
「別に……」
「そうかい。ほんじゃ俺出番だし行ってくるわー」
そう言いながら手をヒラヒラとさせて目的地に行こうとする。
「頑張って」
小さな声であったが確かに聞こえた。
「ん?」
「頑張って。騎馬戦。応援してる」
そのアヤノの言葉は先程の水野の言葉よりも何倍も励みになった。
「見とけよ。頭のハチマキ全部取ってきてやるよ」
俺のボルテージはアヤノの言葉で確実に上がっていた。
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