第13話 お嬢様と晩御飯を食べに行く事になりました

 教室を出て昇降口に向かっていると、グラウンドから野球部なりサッカー部なりの体育会系の声が校舎内まで響き渡ってくる。

 ウチの学校は別段強い部活動はないのだが、そこはやはり運動部という事で強弱は関係なく声出しというのは基本なのであろう。


 階段を降りている時、踊り場はガラス張りになっているので、そこからグラウンドを覗く事が出来るのだが、野球のユニフォームを着た連中がバッティング練習してたり、サッカーのユニフォーム来た連中がシュート練習してたりとメイン所の練習をしていたのでおのずと声が大きくなるのだろう。


 ――青春だなぁ。


 部活に捧げる青春! って言うのも悪くない気がしたが、俺は中学の頃からバイクが欲しかったので高校に入ったら絶対にバイトをするという一択だったから部活動という選択肢はなかったな。

 もし、バイクに興味を持たなかったらバイトもしてないだろうし、何か部活動にでも入っていたかもしれないな。

 もしそうだったら何部に入っていたかな? 


 野球部――ホームラン打ってダイヤモンド1周する瞬間とかたまらなく気持ちよさそうだな。ピッチャーとかもストレートでガンガン攻めて三振に取るのも……。あー……変化球でグネグネ曲げて三振も気持ち良さそう。


 サッカー部――センタリングからのボレーシュートとか決めたら爽快感やばそうだ。逆にウラ使ってアシストとか決めるのもテンション上がりそうだよな。いや、キーパーでスーパーセーブするのとか観客沸きそうで気持ちいいかも。


 バスケ部――絶対出来ないけどダンクシュートとかしてみたい。レイアップですらゴールに入れられないけど。あ! ブザービートとかならワンチャンある――いや……無理だろ。普通に。でもブザービートとか決めて逆転勝ちとかしたらスーパースターだよな。それにバスケ部ならサユキと一緒に練習とか出来たな――って! シスコンか!


 まぁ何より運動部はマネージャーがいるからね。女子マネージャーが練習のサポートしてくれたり、練習中にタオル渡してくれたり、スポーツドリンク作ってくれたりとかめっちゃ憧れるよな。

 試合の時は「頑張って」の一言でボルテージMAXになるよね。そんで「この試合、お前の為に勝ってくるよ」とか言ってみてぇ。

 いや、逆に試合に負けて悔し泣きしている所をマネージャーに汗とかそんなの気にせずギュッと抱きしめられて「お疲れ様。ちゃんと見てたよ。頑張ったね」とか言われるのも大いにアリだな。アリよりのアリ過ぎるな。そんなんされたら絶対惚れてまうやろ。


 マネージャーとの恋愛――たまりませんなぁ。


 でも、運動部のそんな瞬間なんて一握りの人間しか味わえないし、俺みたいな普通の人間は基礎練と雑用で3年間終わりそうだな。基礎練と雑用の奴にマネージャーは優しくしてれくないだろうね。

 そういうのを味わえるのは、努力して努力して努力した奴だけが味わえる華の味――みたいな。

 

 ――とまぁ妄想もほどほどに、そんな訳でグラウンドからの声がこちらまで届いてくるのだが、逆に校舎内は放課後という事もあり静かである。

 文化系の部活動連中は部活棟と呼ばれる校舎が別途あるのでそこで部活動に励んでいるのであろう。


 そうか……。文化部で過ごす青春もあるか。


 文化部といえば――吹奏楽部!

 いやー! 最近見たアニメで吹奏楽部を題材にしたのがあったけど、吹奏楽部ってめちゃくちゃ熱いんだね。

 皆の全国への思いとかね! 

 吹奏楽部にもレギュラー決めみたいなもんがあって、全員出れないんだ……ってビックリしたな。

 選抜されなかった人は悔しいだろうに……。でもちゃんと裏方の仕事こなして選抜メンバーの為に動いてさ、そのサポートの思いを胸に選抜メンバーが頑張るとかめっちゃ泣けたわ。

 先輩と後輩の関係性とかリアルに描かれてて、でも、それを乗り超えての大会とかね、熱すぎた。

 それぞれのパートに分かれてパートリーダーとか決めてさ。それらを全て統一するのが部長でって――吹奏楽部の部長ってめっちゃ大変じゃん! って思ったわ。

 それに吹奏楽部の人達って運動部より基礎練キツくない? なんだったら運動部より走り込みしてるよ? 野球部のピッチャーより走り込んでるよ? ほぼ運動部じゃんってなったわ。

 あと金にも種類あるとか初耳だったな。金は金でもダメ金なんてあるんだなぁって思った。

 金だから良いじゃんってあんまり熱くないタイプの子が言うけど、見た目も中身もアヤノみたいな子が実はめっちゃ熱くて志が高くて悔し泣きしてさ、それに感化されてその子も熱くなっていくみたいな! 


 ――パッとアヤノを見る。


「なに?」

「あ、いえ。何も」


 熱い性格のアヤノは少し想像しにくいね。


 ――って、文化部は他にも色々あるし、面白い部活もあると思うけど、最近そのアニメ見て超感動したから文化部といえば吹奏楽部ってなってしまった――。




 ――という訳で、文化部は部活棟なので今、俺達が歩いている普通の教室が並ぶ校舎内は俺とアヤノの足音だけが廊下に響いていた。


 「――何か食べたい物ある?」


 部活の事を考えながら歩いていると昇降口まで辿り着く。


 上履きからいつもの靴に履き替えたところアヤノに質問する。恐らくは「なんでも良い」と言ってくると思うが――。


「なんでも良い」


 ビンゴであった。


「うーん……。どうすっかなぁ……」


 昨日作ってやった明太子パスタを完食してくれた事から庶民の食べ物もちゃんと食べてくれると言う事が分かったので、お嬢様だから、というのは考えなくても良さそうだ。

 だが、結局は昨日と同じ、なんでも良い、なので何を食べるかは考えなければならない。


 それに――。


 ポケットからスマホを取り出すとまだ16時30分である。

 俺から誘っておいてなんだが、今から晩御飯には早過ぎるか――。


 ――そうだ。今日は俺が作る訳じゃないから、ショッピングモールのレストラン街へ行って、何を食べたいか決めれば良いか。

 ショッピングモールには食べ物屋が沢山あるし、フードコートもあるから決めやすいだろ。

 それにご飯時まではショッピングモールで適当に時間潰せるし――。


 ――っていやいや、待て待て。昨日もショッピングモール行ったのに今日も同じ場所? 流石にセンスなくない?


「リョータロー? 行かないの?」


 俺が腕組んで唸っていると覗き込む様に聞いてくる。


「なんだ? そんなに早くバイクに乗りたいのか?」

「ち、違う。そうじゃない」


 ちょっといじりが早過ぎるから睨まれるかな? っと思ったけど少しだけ照れた様な声を出したので良かった。


「――あ! そうか。今日バイクなんだ。そうだそうだ」


 ポンっと手を叩いた。


「なに?」

「いや、晩御飯なんだけど遠くても良い?」

「構わない。何処でも何でも良い」

「OK。それじゃあアソコにしよう」


 自分の中で計画が決まったので歩みを始めると、アヤノは俺に続いて昇降口を出て行った。




♦︎




 学校からバイクで40分走らせて、最近CMで見て知ったオープンしたばかりのイロンタウンへやって来た。

 いやー強いねイロンタウン。もうそこら辺イロンタウンばっかりだよ。

 イロイロあるもんねイロンタウン。大好きだよイロンタウン。

 しかも田舎のイロンタウンは土地余ってるからくっそデカいよね。まさしく今来たイロンタウンがそれなんだけどね。


 新しくオープンしたばかりなのでバイク置き場は勿論、駐車場も駐輪場も綺麗で、外装も看板の汚れなんて微塵も見えない。

 ただ、最新のイロンタウンなので周りが田んぼの田舎町にはちょっと似合わない、都会にありそうな外観が少しだけ浮いている気がした。


 アヤノに「今日もショッピングモールなんだ?」って目をされるかなー……。どうかなー。なんて思ったが、特に何も言われず。

 い、一応昨日とは全然違う場所だし、セーフなのかな?


 正面玄関から入ると、内装もオシャレに仕上がっており、ここの周りに田んぼがあるのを忘れる程にショッピングモールしていた。


 正面玄関を進みエスカレーター前に大きな全体図と店内情報が書かれた案内があったので、俺達はそこで立ち止まる。


 今日の目的はレストラン街なので、レストランのフロアを探す。それをすぐに見つける事が出来た。どうやら4Fにあるみたいだ。


 レストラン街の店内情報も全体図の隣に長方形の看板があったので目を通す。


 やっぱり同じイロンでも店舗によって違うな。


 ここは最新のイロンなので、最近流行の食べ物屋から大手飲食チェーンなどがあるみたいだ。


 その中で「おっ」と声を漏らす店を発見した。


 串カツ食べ放題の店。

 ショッピングモールやイロンにある特段珍しくもないチェーン店だが、俺の家の付近のショッピングモールやイロンにはないので自分としたら少しだけレアである。

 値段は1人1600円位だったかな? 2人で3200円と考えると、ブラジャー代と本代を1万円から引いた分の金額位になるから、金銭的にもベストかも。

 ただ、中学生の頃行った時に女子会や家族連れなんかを店で見かけたけど、お嬢様と串カツって合わないよな。

 串カツのイメージは大阪の下町のおっさんが昼間っからビール片手に食ってるイメージだもんな。あと2度付け禁止って言葉と。


「なぁアヤノ?」

「なに?」

「串カツでも良い?」


 しかし、久方ぶりに行きたいのでアヤノに許可を得よう。


「構わない」

「お、それじゃあここにしよう」

「でも」

「でも?」


 あ、やっぱり嫌なのかな?


「食べた事ない」

「ですよねー」


 予想通りではある。

 串カツ食ってるイメージないもんな。この子。


「串カツって何? 豚?」

「豚以外の肉もあるし、この店は魚介や野菜とかバリエーション豊富だぞ? あとデザートもあるし」


 説明すると「そこで良い」と頷きながら言ってくれる。


「それじゃあここで決まりだな」

「リョータロー」

「ん?」

「もう行くの?」

「ああー……」


 スマホを見るとまだ17時27分と晩御飯には早い時間であった。


「まだ腹減ってないよな?」

「うん」


 そりゃ昼にパン4個も食べりゃまだ減ってないわな。


「どうする? 時間潰しにちょっと見てまわるか?」

「そうする」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る