第54話 別れの宴会の招待

 別れの挨拶をしようというわけで、私達はテレッサ村でぶらぶらと散策をする。最初は武器屋だ。メンテナンスで何度も訪れた場所であり、お世話になっているためだ。


「お」


 その途中で見覚えのある女性冒険者と遭遇する。鎧を纏わず、巨大な斧を持って戦うキャサリンだ。互いに仕事でテレッサ村から離れている事の方が多かったため、久しぶりの会話である。キャサリンも気付いたのか、近づいてくる。


「久しぶりだなお前ら! 仕事はどうだ?」


 バシバシと叩かれて背中が痛い。どうにか耐えながら、彼女に伝えていく。


「最近グロリーアからの依頼を達成したとこだよ」


 静かになった。叩く気配がなくなった。何事かと思い、見上げると彼女は少し寂しそうな表情をしていた。


「そうか。もう会えなくなっちまうのか」


 てっきり暫く会えないと言うものだと思っていた。いや。キャサリンは察しの良い人だ。神獣族とアプカル族である時点で何となくでも分かっていたのだろう。


「そうなると宴会をしたいところだが……どうするか」


 テレッサ村の住民は出会いと別れの時に大騒ぎをする風習がある。唐突でもやろうとする。銀髪のメイド姿の少女が突如現れる。ロゼッタちゃんだ。


「そう来ると思いまして、お坊ちゃんに許可を貰いました」


 ……いくら何でも早すぎるのでは。


「既に招待をしております。ご案内をいたしますので」


 と言われてしまったので、素直に付いて行くしかない。その途中で困惑気味のキャサリンに確認だ。


「ねえ。宴会知らなかったの?」

「……ペイリャル家が主催するなんてさっき知った。仕事で遠いとこにいたからな。移動でくっちまって、どうにか今朝着いたって感じさ」


 知ってそうなキャサリンが驚いている理由はそこからだったかと納得した。


「危なかった。少しでもズレてたら、挨拶も出来なかったかもしれない」


 キャサリンはそう言って笑っているが、こちらとしては申し訳ない気持ちでいっぱいだ。仕事で来たとはいえ、親しい人に別れすら言えないなんてやりたくないものだ。


「間に合わない場合は直接お呼びします!」


 ロゼッタが元気よく言ったが、どうやってやるのそれという突っ込みが出てくる。色々グダるので、口に出さない。きっと半分冗談で言ったのだろう。


「出来そうで怖いんだよねぇ」

「ええ。あの子ならやりそうですわ」

 

 キャサリンとカエウダーラの台詞でロゼッタが本気で言った可能性がありそうだと感じるようになった。その後はキャサリンの仕事が話題になった。違法を犯した魔術師が召喚した魔獣を討伐したのだとか。


「大丈夫。あんたたちがやった魔獣よりか可愛いものさ」


 と豪快に笑いながら教えてくれた。説明をすっ飛ばしているため、どこがという疑問ばかりが出てくる。


「ごくごく普通のものさ」


 ベテランのキャサリンがそう言うのなら間違いないだろう。キャサリンの視線はロゼッタに移る。


「で。ロゼッタ。誰を招待した?」

「ギルドの方々と武器屋の主様ですね。それとソーニャ様の小さいお友達も」


 小さいお友達。小さい。心の中で繰り返し、意味を考えてみる。ロゼッタはどういう意図で使ったのだろうか。


「そのー……注目されると困るんすけど」


 おっと。無意識にロゼッタではなく、ソーニャを見ていたみたいだ。カエウダーラも似たようなことをしているからこそ、出た発言なのだろう。恥ずかしいのか、頬が赤くなっている。


「いやごめん。つい。で。その小さいお友達ってどういう意味?」

「そのままの意味ですよ? 可愛らしいお子様と遊んでおりました」


 意外だ。ソーニャが遊ぶだなんて。そう思いながら、記憶の中を探っていく。工具片手での作業。分厚い本を見たり、論文を見たりする様子。仕事の話し合い。パブでの談話。旅行先での散策。子供と遊んだことを見たことなんてなかったなと今更気付いた。


「ずっと引き籠って作業してると集中切れるっすからね。たまに村で息抜きをしてたってわけっす」

「なるほど」


 ロゼッタの足が止まる。久しぶりのペイリャル家の御屋敷に到着したのだとすぐに分かった。宴会というと少々不安だが、これが最後だ。世話になった人々がいるところに行こう。そう意気込んで中に入った。

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