第47話 大罪人のアルマ

 ザッサが一つの粘土板を机の上に置いた。動物を模したと感じさせる文字の羅列。縦から読むのか、横から読むのか、どちらかは分からないが、何かのメモであることは確かだろう。よくないものを浮かんでしまい、私はザッサに問う。


「これ……何て書いてあるわけ」


 ザッサはすぐに答えてくれる。そうしないと話が進まらないからだろう。


「現代の言葉で訳すとこんな感じかなぁ。告げる。一定の魔力量がない場合、カグゥ地区に強制移住させる。または強制労働をさせる」


 完全に上が差別を推奨するようなものだ。カエウダーラがしかめ面になっている辺り、彼女はすぐに理解したに違いない。


「要するに隔離政策ですわね。しかも大規模に動いたきっかけとなると……まともな食事と寝床がない癖に、重労働をさせていた可能性があり得るでしょう。下手したら死ぬぐらいには」


 冗談だろと信じられない気持ちで思ったことを発言してみる。


「でも労働力減ったら、上の方がデメリットじゃない? 古代の経済がどんな感じかさっぱりだけど、そう簡単にズタボロにするとは思えない」


 カエウダーラが優しい瞳で私を見つめ、何故か頭を撫で始めた。真っ当な意見を出したはずだと個人的に思っているので、この行為については解せないことだ。


「拗ねないでくださいまし」


 何故拗ねるという解釈になった。


「拗ねてないよ。解せないってだけ」

「まあまあ話をお聞きなさい。あなたのその考えは現代的な経済から生まれたものに等しいですわよ」


 時代が異なれば、考えも変わる。カエウダーラはそう伝えたいみたいだ。それは私でも分かる。


「差別的な発想があったからねぇ。魔力量が多ければ多いほど価値が上がる。強い者が結べば、強い子が生まれる。そういった考えが主流だったからね」


 うげとソーニャが嫌そうな顔になる。


「うっわ。当時から優生思想っすか」

「らしいですわね。行き着くところは大差ないということだと」

「まあ歴史とか環境とか違ってもそうなるっすよね」


 カエウダーラとコソコソ話である。ザッサがこのまま続けていいのか分からず、口が止まっている。ここで助け船を出す必要がある。


「気にしないでいいから」


 聞いたザッサは続きを言う。


「そうさせてもらうよぉ。ついでに殺処分も考えてた。というか秘密裏にやってたが正確だね。主に子供と女性と老人を対象としてね。うん。それが真っ当だよ」


 いつの間にか私は顔に不快だと出していたみたいだ。カエウダーラもソーニャも似たような反応だ。


「昔はただ強い人が統治するだけでよかった。でも便利になっていくほど、そうじゃなくなってくる。弱い人も生きられるようになるからね。偉い人は受け入れられなかったんだと思う。しかも過激な政策となるとね」


 時代はさっぱりだ。それでも誰かが声をあげることぐらいは。そう思っていたが、私達の星の歴史も大体罰せられている。ここでも似たようなことが起きていたのだろう。


「もし反対だと言ったらどうなったわけ」


 この質問にどう答えるか。


「罰する。死に至るぐらいのね」


 予想通りだった。

 

「だからか誰も抵抗することがなかった。それが彼にとって動くきっかけとなった。それでも彼の弟子はそうさせまいと上の者に伝えようとしていたよ」


 グロリーアがザッサに続いて発言していく。


「教会が定義していた七つの欲望をメッセージとしてね。当時は表現の自由なんてものはなかった。けど魔導書に制限がなかった。それを知っていた弟子たちは魔導書を通じて書いていた……というわけさ」

「それでも効果がなく、彼は実行してしまった。気持ちは分からなくもありませんが、それは大罪でしてよ。ストッパーがいて、ここまで来ると……話し合いは期待できそうになさそうですわ」


 ため息を吐いたカエウダーラは拳と拳をくっつける。肉体言語で語るしかない。そう言いたいのだと分かる。お嬢様らしくない発想だが、果たしてそれでいいのだろうか。突っ込みはともかく、相棒として一応言っておくべきだろう。


「獣は物理で狩るとして。会うか分からないけど、主犯とは話すことから始めるからね。分かってると思うけど」


 予想していたのか、カエウダーラに慌てている素振りはない。ウインクが出来るほどの余裕がある。


「分かってますわよ。これはあくまでも最終手段でしてよ」


 ザッサとグロリーアが呆れているような、笑っているような、色々と混ざった笑みをしていた。

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