第33話 発表会場へ

 ドラゴンライダーの話になったので、グロリーアのドラゴンについての説明が始まった。それを聞きながら、都の中を歩いていく。白い土とオレンジ色の瓦の屋根。全部同じように見えて、木の装飾が異なっている。住人の拘りと暖かみを思わせるものだ。


「ドラゴンの元となった古代竜は翼を持たないと言われていてね。大地と海の最初の覇者だとも言われている。ドラゴン達が強力な理由はルーツ自体がってのが通説だね」


 宙の落とし箱にあった恐竜の絵を思い浮かぶ。多分違うが、想像した方が分かりやすいのでやっていることだ。


「炎を吹くのは最初からですの?」


 カエウダーラの質問にグロリーアが悩み始めた。これはひょっとしてあれだろうか。説がしょっちゅう変わる奴なのではないだろうか。


「どうなんだろうね。この能力はあったとか、研究者いつも口論してるからなぁー……。どっちが正しいかなんて分からないよ」


 ビンゴ! 当たった!


「研究者で思い出したんすけど。何の発表をするつもりなんすか」


 ソーニャが思い出したように質問した。魔法学とはいえ、幅が広いものだ。細かいところまでは知らない。


「植物の研究だよ。と言っても、助手として手伝っただけで、ガッツリ発表する役じゃないんだけどね」

「それって種類のこと? 開発? 或いは植物の能力に関する事?」


 科学分野全体を最も知っているのはソーニャだ。魔法という未知数の分野だろうと、応用して考えられるのだろう。私だとそこまで連想出来ない。色々と土台が足りないからだ。


「本当に鋭いね。君は。今回は植物の能力に関するものさ。どのような術を使えば、成長するのか。その条件とか色々と。発表するときは数字とかグラフとかもあるけど、専ら魔法で使われる文字ばっかだで多分分かりづらいかも」

「まじっすか。質問って問題ないっすかね」


 知的好奇心は多分私達の中でダントツだ。そして知識の吸収も。


「魔力がない私だと怪しまれるっすよね。どんなに穏やかで差別が少ない国でも魔術師の世界っすもんね。静かに聞いておくっす」


 見た目はエルフと同じ。しかし住む世界が違うため、魔力を持たないソーニャが正々堂々と質問するとなると、魔術師の世界では白い目で見られる。いや。それだけならまだいい。きちんと根拠のある批判も彼女にとって、まだマシというか真っ当だろう。問題は人権侵害の類だ。果たしてこの世界に人権保護という言葉があるのかどうかが分からない。行動は慎重にしておくべきと考えての発言だろう。


「到着だ。後ろから守ってくれると助かるよ」


 グロリーアはそう言いながら、足を止めた。アルムス王国の魔法学校は大きかった。運動競技が可能なぐらいの広さの校庭といくつもの教室がある建物だった。だがサウリジアは国土が小さい。都も小さい。それが理由なのか、小さいように思える。見た目も周りの建物と差はない。木の看板でやっと学校だと分かるぐらいの違いしかない。


「こういう所はいくつもの学校を作っている所が多いのですよ。護衛殿」


 茶色の両手開きの扉が動く。人柄が良さそうな白髪の男が中から現れた。しれっと心を読んでいるような発言をしていた。少し心臓に悪いので止めて欲しい。


「ようこそ。グロリーア・フォーチュン殿。協力者として参加していただき感謝いたします。盟友のフルル殿が待っておられます。どうぞ」


 というわけで学校の中に入る。どちらかというと、この規模は習い事の教室レベルだと思うが、流石に口に出さない。国によってやり方が異なるという話があるからだ。学校をいくつもという発言も国の事情が絡んでいるのかもしれない。一つ階段を上がって、付近の部屋

に入る。小さい。めっちゃ小さい。五人ぐらいしか生徒が入らないだろう。まさかここで発表をすると……流石にしないだろう。


 教室の小ささに関してはここまでだ。視点を切り替えていこう。フルルという人がここにいるはずだが、どこにいるのだろう。人がいた。隅っこにいた。背もたれのない折り畳みの椅子に座り、静かに本を読んでいる黄土色の髪のニンゲンの女性。緑色のドレスには白い装飾が施され、どこかの農村のご令嬢にいそうな感じだ。顔までは分からない。


「フルル殿。グロリーア・フォーチュン殿をお連れしました」


 白髪の男の声でフルルと呼ばれた女性は顔を上げる。


「グロリーア、久しぶりですぅ。まあまあ。女性三人も引き連れてですか」


 頬を赤くし、楽しそうに笑う。揶揄っているとすぐに理解した。


「護衛ですよ。フルルさん」


 グロリーアの声が震えている。抑えようとしているが、恥ずかしいと言う表情も隠しきれていない。


「あらあら。いつもは精霊に任せているから必要ないことでしょうに」


 おっと。それはどういうことなのだろうか。


「ふふっ。この人は確かに古代を研究しております。しかし元の専門は精霊魔法なんですよね」


 穏やかに笑いながら教えてくれたが、また分からない言葉が出てきた。


「精霊魔法は目に見えない存在を媒介して発動させるものと言えばいいんでしょうか。実際に見てもらった方が手っ取り早いのですが、打ち合わせ等もありますし、後程ということで」


 確かに発表時間までにやらないといけないことが多いだろう。しかしこれは半殺しに近いものなのではないか。知りたいのに知る事が出来ないとか、あまりにも辛すぎる。

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