第31話 静かな南国の浜辺で

 二体の討伐報告後、私達は南国のリゾートに遊びに来ていた。元々はカエウダーラの提案だったので、良い所を見つけたなと思ったが、そういえば元々は滅びの獣がいたところだった。


「やっぱこういうところって開発されないもんなんだね。めっちゃ静か」


 滅びの獣がいた所は危険区域扱いとなり、研究者など関係者以外立ち入り禁止となっているらしい。それが原因なのかどうかは不明だが、開発しているような雰囲気を出していない。


「まあね。どういう影響があるのか不透明ってところがあったから、数百年も前からずっとこんな感じさ。条約を結んでいるというのも大きいけど」


 グロリーアが教えてくれた。条約というところに引っ掛かる。


「条約だけだと弱くなくて?」


 ほら。カエウダーラが追及してきた。


「そこは否定しない。別のところに理由があると踏んでいてね。君たちが想像するような技術者の存在が消失してしまったことがかなりキツい。復興の年数がかかるだけじゃない。魔法というものが使えなくなって、生活のレベルが一気に下がったんだ。無事だった住人でさえ、死ぬリスクも普通にあった。要するに暫く他所を開発している余裕がなかったんだよ」


 確かにそうかもしれない。大事な土台がなくなることで使えなくなる。よく聞く話だ。中継地点が潰れて、数日キツイ生活をする羽目になるニュースを何度も見ている。


「それと冒険者全盛期時代に遺跡から資料がいくつか出てきたことも大きいよ。てか。何でバカンスの時にこういう話をしてるんだろうね」


 ほとんどグロリーアがきっかけを作ったようなものだと思う。


「もうちょっと楽しもうよ!?」


 それもそうだなと思い、セッティングを始める。キャンプ用の椅子と机を砂浜の上に置く。石二つでぶつけて、火を起こし、鍋を吊るす台を組み立てていく。


「とりあえずその固形調味料、貰っとくよ。期限あともうちょっとなんでしょ」


 ソーニャが持ち込んでいる固形調味料は香辛料の乾燥物(+α)を混ぜて固めたものだ。出発する前にちらりと見たので覚えている。


「よく覚えてたっすね。ほい」


 適当に投げてきた派手なパッケージの紙の箱を受け取る。カエウダーラがセッティングしてくれた折り畳み式の調理台まで移動。材料の根菜系(多分)を包丁で切っていく。その間にカエウダーラが鶏肉を切っていく。


「油と鍋の用意、出来たっすよ。野菜から」


 ソーニャの寄越せという手の合図を見て、切り終えた根菜達を鍋の中に入れていく。あとは肉を炒め、水を入れて煮込み、固形調味料を投入しておけば完成だ。ガチ勢なら香辛料の厳選からやるらしいが、難易度がやたらと高いのでやった事がない。


「良い匂いだ。ところで何で普段、僕ばかり任せるんだい? 野外だと普通に料理出来てるよね」


 おっとグロリーアから痛い所を突いてきた。一体目討伐の時、普通に食事の用意をしていたのだった。


「必要だからやるってだけでしてよ。より適任がいるのなら、その人に任せた方がよくって?」


 流石はお嬢様、カエウダーラだ。正々堂々と答えられる辺り、滅茶苦茶強い。


「まあ美味しく作れる奴に任せるのが道理か」


 グロリーアがあっさりと納得してしまっている。それでいいのか。


「カリーだろこれ。あ。そういう名称じゃないのか。ごめん」


 覗き込むタファが言った通り、この料理の名称は異なっている。というかそもそも煮込みに関しては決まった名前がない。しかし丁度いい。これから香辛料系の煮込みを「カリー」と呼ぼう。


「それじゃあ。器に入れていただくっすよ」


 野菜の甘味と香辛料の辛さが混ざり合って美味しい。やっていること自体、野外活動と大した差はないだろう。のんびりと、自然豊かで綺麗なところで食べることに価値がある。私はそう思うのだ。

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