第26話 改めて思い出す

 流れとしてはこのような形だ。狩りが終わったら夕方だった。時間があるから、夜ごはんをのんびりといただく。テントで寝る。おはようと互いに挨拶をしている時に、尾が長い濃い緑色の鳥が手紙を置き、そのまま待機していた。


 よく分からない。何故。そう思いながら、封筒を見てみる。全く読めない字なので、カエウダーラがグロリーアに丸投げをするように渡す。読んだ彼は笑っているが、嫌そうなオーラが丸出しである。


「うわーセイラッハからだ。嬉しーなー」


 ここまで露骨に棒読みをする輩は滅多にいない。誰だと思いながら、私は燻製した肉を炒めて、朝食の用意をしていく。そういうこともあり、カエウダーラが聞く。


「セイラッハとは誰のことですの?」

「ああ。ここの重鎮の一人さ」

 

 グロリーアとタファはかなり地位が高かったはずだ。恐らく彼らに用があって、手紙を出したのだろう。


「ということはあなた達に」

「いや」


 違った。


「このまま読むよ。神々の眷属のお二方、滅びの獣一体目を討伐してくれて感謝いたす。礼をしたいので、宴会を行いたい」


 ドシンプルだった。しかし何故、世界を滅ぼしかねない獣一体目を狩ったことを知っているのだろうか。それが疑問である。誰もが思っていることなのか、視線はグロリーアに集まっている。


「あのね。じっと見つめられても困るんだけど。上の方も把握してるからだよ。仕事をする時にはどうしても報告がいるしね。うん」


 やや早口だったが、本当のことだろう。辻褄が合う。


「それでドレスコードとかどうするつもりですの? そこまで想定してなかったから、大したもの持ってないですわよ?」


 カエウダーラの言葉を聞き、ハッとする。ただ依頼をこなしに来た私達は国家主催のようなものに相応しいものを持って来ていない。


「特に記してないよ。大丈夫だよ。ここ結構緩いとこだし」


 本当に大丈夫だろうか。そう思いながら、セイラッハとやらが主催する宴会に参加することになった。時間は夜。撤去作業をして、グロリーアの瞬間移動で会場に到着。ど真ん中に大きい焚火。周辺で食事を楽しむスタイルのようだ。


「ようこそ。神々の眷属の子孫よ。お待ちしておりました」


 シャツと汚れても良いズボンという普段と変わらない恰好で来たが、上半身裸の受付の男がスルーしている辺り、本当に大丈夫みたいだ。


「これをどうぞ」


 茶髪に南国のピンク色の花を挿している、踊り子っぽい女性から受け取る。串刺しされたお肉。たっぷりとタレを使った焼肉の類だろう。甘じょっぱい。その中にスパイスの香ばしいもの。暑いところ特有のものだ。大体こういうものは美味しい。


「あなた達が滅びの獣を狩ったお二方ですね」


 焼けた肌色の細身の男。恐らくニンゲン。鮮やかな色のゆったりとした民族衣装っぽい恰好で近づいてきた。お辞儀をするしかない。食べている途中なので無言だが。


「おっと。食事中すみません」


 「こちらの方が悪いんだけど」と思いながら、お肉を丸呑みだ。


「いえ。こちらこそすみません。えーっと」


 比較的歳を取っている。皺が出ている。髪の毛も少し白い。私より年上なのは明らかだ。男は穏やかに対応してくれる。


「おっと。申し遅れました。私、王に仕えるセイラッハと申します」


 滞在しているここの重鎮。そして主催者だった。慌てて名乗らなければいけない。


「ウォルファと申します。この度はお招きいただき、ありがとうございます」

「ははっ。これぐらいはやっておかないと、示しがつきませんから」


 彼の立場がどういったものかは理解していない。私達のターゲットの獣を詳しく知っているわけでもない。しかし反応を見て、どれだけヤバイものかを改めて知った。


「そういえば……この歌声は誰でしょうか」


 楽器の演奏の中に透き通るような高い歌声のことだろう。セイラッハは傾げたまま、焚火近くに視線を向ける。カエウダーラが目を閉じて歌っている。知ってた。


「ああ。それ……カエウダーラですね」


 アプカル族は歌が上手い。そして癒しの効果があるのか、音楽療法の道に歩むケースが多い。


「ああ。彼女が」

「ええ。何故か歌ってますね」


 知らない間に誰かとやり取りをして、歌っていると理解している。しかし自由に行動し過ぎではと思うところもある。頭が痛い。


「はっはっは。いいじゃないですか。宴には花が必要だ。盛り上がるにはとても最適じゃないですか。それじゃこれで失礼」


 彼は忙しい身だ。どこかで仕事をするつもりなのだろうと予想する。


「お。やっぱ今回も踊るんだ。踊るんだ?」


 ウキウキな若い男の声でそうではないことが判明した。踊りが大好きな人だった。


「ああ。なんせ祝福してもいいぐらいの出来事が起きましたから!」


 屈託のない笑顔。大戦争末期から活躍していた世代の狩人はこうやって感謝されることが多かったのだろうか。いや。そうではない。淡々とこなしていたから忘れていた。密猟者の捕縛の仕事が多かったから忘れていた。冒険者ギルドを入ってから思う。危険度の高い合成獣の討伐で人々の生活を守るという狩人の本来の仕事を改めて思い出した。

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