第20話 異世界のガンスミス

 ガンスミスがいるところに戻る。ドアノブを回して開けると、グロリーアと金髪の温厚そうな青年がいた。青年は色々と汚れたエプロンを付けているため、恐らく彼こそガンスミスなのだろう。


「お。丁度帰って来た。紹介するよ。彼はジョニー君。ガンスミスの中でも腕が立つ」

「ジョニーです。色々とご迷惑をおかけしました」


 ジョニーが握手を求めながら謝ってきた。たまに仕事が大量に来るときもあるので、私達は気にしていない。


「いえ。お忙しい中応じてくださってありがとうございます」


 早速、鞄から銃を取り出す。ジョニーは目を輝かせながら、狙撃銃などを見ていく。


「おー。見たことのないものばかりだ! 手紙で読んだ時はマジかよと思ってたけど! あ。解体してもいい?」

「元に戻せるならいいですけど」


 興奮気味に次々と見ていく。初めて見た型だというのに、普通にバラしている。パーツは受付の机に丁寧に置く。


「テレッサ村の鍛冶師のおじさんだとかなりきついってのも納得がいく。しかも俺達ガンスミスの仕事でもかなり難易度が高いものだ。下手な職人だと断るかな」


 見たものを組み立てて、元に戻していく。本当に初めて見たとは思えない動作だ。早すぎる。


「現状はどうなんだい? 君の腕で改造とかは」


 グロリーアの質問を聞いたジョニーが横に振った。


「いや。改造できるような、かつ適合したものはこの世にない。これに関してはお手上げだよ。けどまあ銃弾の製造は理論上出来る」


 銃弾は工場で製造する認識がある。この発言は少し意外だった。


「とはいえ経費でごっそり持ってかれるし、試し撃ちとかするから時間がかかる。魔法弾なんて特にそうだ。相性の良し悪しがあるからね。ただしこれは最初から銃弾を作る場合の話だ。二人とも銃弾を持っている?」

「持ってるけど」


 私達は銃弾を出す。軽くて丈夫な箱から一つずつ。弾丸径の大きさ別に分けていく。


「大体こんな感じですわね」

「なるほどね。少し試しに使ってもいいかな。奥で試してもいいかな。色々とやっておきたい」


 そんなわけで私達は奥にある試し撃ち場で色々とやることになった。最初はジョニーがひたすら感覚を確かめるため、持ち込んだ銃で撃っていく。根本的に技術の基礎が変わらないのか、狙いがとても良かった。


「感覚はそこまで差がないか。けどこれ小さい割に反動が激しい気がするけど」


 ジョニーは困ったように笑い、カエウダーラが使う拳銃スカディスノウ12を持つ。手のひらサイズとは思えない火力を出す反面、反動がやたらと激しいと言われている代物で有名。使い手は大体両手で持つ者だが、


「それ……カエウダーラ、片手で撃ちますよ」


 カエウダーラは普通に片手でやっている。ジョニーがマジと信じられない顔をしているが、本当のことなのだ。


「弾丸径として合うのはこれでいいんだよね。ちょっと付与させてもらうよ」

「構いませんわよ」


 軽く付与するだけなのか、時間はそこまでかからない。数秒で終わる。


「撃ってみて」


 カエウダーラは装填して、いつものように片手で持ち、狙いを定めて撃つ。エルフェンなど、対人戦を想定した銃弾のはずだ。そのはずだが……当たった部分が凍っている。


「簡単な付与だけで魔法弾になり得る。そういうことですのね」

「そうだ。欠点としてはそんなに効果が維持されないってことだね。長くて一ヶ月だ。ま。グロリーアなら技量あるし、任せておけばいいと思うよ」


 器用なことまでやってのける人だと感心しながら、私とカエウダーラはグロリーアを見る。無言で銃弾を渡す。


「ねえ。なんで何も言わないまま渡すんだい。え。これやれってこと?」

「そうですわ」


 声が重なった。「わ」のみカエウダーラの声だが。


「これ試すチャンスでありません?」

「だね」


 試し撃ちが出来る環境下、尚且つガンスミスがいるところでもある。ならば取るべき行動はただ一つ。


「魔法銃の改造って出来る? 私達いくつか持ってるんだけど。というか受ける余裕ある?」

「大丈夫だよ。納期間近のものはなくなったから」


 一気に依頼を片付けていたのか、納期が近いものはないらしい。心の中でガッツポーズである。


「それじゃ私達の魔法銃の改造を頼みますわ。その間、ここで試し撃ちしてもよろしくて?」

「ああ。どんどん使ってくれ。魔法銃を」


 魔法銃という名のマスケット二丁をジョニーに渡す。


「頑丈になるよう改造しておくよ。それと魔法弾も追加しておくよ」


 受け取った彼は作業場に行った。さて。色々と術師のグロリーアから聞かねばいけない。主に魔法学校のことで。


「グロリーア、私達魔法学校に行ったんだけど」

「なんで!?」


 軽く伝えただけでこの驚きの反応である。面白い。


「ぷらぷらしてたら、そこに通ってる子と会ってね。カエウダーラの提案で行って、許可貰って、校長先生と模擬戦をして、ちょっと授業見て、こっちに戻ったって感じかな」


 勢いで簡単に報告してみた。さあて。グロリーアはどう出る?


「校長先生と模擬戦をした?」


 そこで反応するのが意外である。


「うん。したけど、それがどうかしたの」


 何故かここでグロリーアがへなへなと脱力した。


「絶対に会わせちゃいけないと思ってたのに……遅かった。そもそも王都だから可能性あったんだった。僕の馬鹿!」


 戦闘狂同士を会わせたくなかっただけだった。


「やっぱ校長先生、そういうとこあったんだ」

「まあね。よく騎士団長とやり合ってたって話もあるぐらいだし、僕も学生時代はしょっちゅう絡まれてたよ。三年で卒業出来たから良かったけど」


 力のない笑みをした。一年の授業を受けてみると、予想外に難しい。それを難易度が上がりながら、進んで行くとなると留年とかあってもおかしくない。改めて信じられないものだ。


「え。何その顔」


 誰だって信じられないという顔になるだろう。カエウダーラも顔に出ているのは余程だと思う。


「聞いてはいたけど、いくら何でも短すぎ」

「確かに歴代でも短く卒業したさ。けどね。術師として、功績を積み上げられるとも限らないんだよ。留年しても称号を獲得した奴だっているわけだし」

「そういうもん?」

「そういうものさ。これを使って撃ってみてくれ」


 こうして私達は喋りながら、付与された弾を使って、試し撃ちをした。流石に数に限りがあるので数発程度だが。その途中、グロリーアは短すぎて学生特有の思い出を築くことが出来なかったのは地味に辛いと愚痴っていた。いつものヘタレを思わせる笑顔の中に後悔が入り混じっている。見ていて心が苦しくなるものだった。

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