第4話 買い物

 この世界に来て次の日。再び村に来た。服屋で買い物をすることから始まる。白いシャツ。くるぶしまで見えないズボン。シンプルな物を買っておいた。グロリーアが作ってくれた翻訳の機械は普通に動いていた。ビックリである。スムーズに出来たのでひと安心である。


「切ってもよろしくて?」

「はい?」


 ちらりと見たら、カエウダーラは女性店員にスリット入れるよう頼んでいた。店の人。ごめん。本当にごめん。そして要望に応えてくれてありがとう。あの様子からしたら、ちょっとした頼まれごとぐらいは問題ないぐらいのものだったのだろう。


「それじゃ。グロリーア、案内頼むよ」


 服の買い物が終わったので、武器屋に向かう。グロリーアの案内に付いて行く。改めて村を見ているわけだが、山の田舎と言った感じだ。高層ビルがひとつも見当たらず、木で出来た家と畑ばかりである。


「王都に行くともうちょっと人が多いんだけどね。ま。どっちにしろ。君たちが想像するものとは違うかな」


 武器の絵が描かれている看板。武器屋だろう。グロリーアは中に入っていく。壁に大剣、斧、ナイフなど刃物があった。木箱に矢がぎっしりとある。文字が違っている辺り、何かが違うのだろう。


「やあ。久しぶりだね」

「お。グロリーアではないか。珍しいな。こんなとこに来るなんてよ」


 エプロンを着た大柄な男が主のようだ。エルフェンに近いが、耳先が尖っていない。ニンゲンというものだろうか。顔見知りなのか、親しい雰囲気を出している。


「ああ。彼女達に紹介しておこうかと思ってね」

「ほお。色んな意味で珍しい組み合わせだな」

「ちょ!?」


 どうやらグロリーアはどこでも弄られてしまうみたいだ。


「それどういう意味だい!?」

「お前さんがここに来ること自体レアなんだがまあ」


 武器屋の主が私達を見る。


「美女二人連れていくなんてもっとねえだろ」


 異性と共に来ることの方がもっと珍しいらしい。グロリーアが懸命に反論しているが、


「あのねえ。僕だってそういう時あるよ!」

「どうだがねえ」


 あまり効果がないみたいだ。さて。見ている分面白いのだが、用があってここに来たのだ。止めさせておくべきだろう。


「あの。申し訳ないんだけど、これ手入れとか出来る?」


 だいぶ強引になっている気がしなくもないが、こちらとしては早く仕事をこなして、外の国に行けるようにしたいのだ。仕方ない。


「どれどれ」


 刃物なら問題ないだろうという見解があるので、解体するときに使う折り畳みナイフを出してみた。主はナイフを観察する。


「見たことがない形だな。用途は」

「獣の解体用」


 金属のように固い革でも切ることが出来る。どう判断するのだろうか。鑑定用ルーペのようなものでも見ながら、主は答えを言ってくれる。


「ふむ。強度としては相当だな。それに切れ味もだ。正直今のところは手入れする必要はないだろうよ。少し防御系の付与を与えるぐらいでいい」

「防御系の付与」

「おう。やり方が分からんなら教えるが……ちょっと待て」


 武器屋の主が何かに気付いたようだ。何故か私だけではなく、カエウダーラの方も見ている。


「その耳はなんだ。てか。なんで魔力ないんだ」


 私達にとって魔法や魔力は空想上のものでしかない。だがここの住人である主にとって身近なものだ。戸惑うのも無理はない。武器屋の主は恐る恐るグロリーアに尋ねる。


「お前今度は何したんだよ!?」

「まあちょっと色々と答えられないけど……種族は教えてあげる。どうせバレるから。数百年前にいなくなった種族の子孫だよ」


 余計に困惑している気がしなくもない。


「数百年前にいなくなっただ?」

「そうだ。神獣族とアプカル族さ」

「それおとぎ話じゃなかったのか?」

「書物でも記述があるよ。どう見つけたのかは僕にも分からないけど、実在はしている」

「そ……そうか」


 武器屋の主が受け止められているようには見えない。持つ情報で殴られた感じしかない。


「彼女達は元から魔力を持たない。だから魔法を使う事が出来ないんだ」

「とりあえず教えられないってのは理解したよ。定期的にこっちに来いよ。付与したものは1年持たないからな」



 武器屋の主が困ったように頭をかきながら言った。


「あ。そうだ。ウォルファ、あれを出してくれないか」


 グロリーアが思い出したように指示を出したので、私はショルダーバッグから組み立て式(他の奴らは分解式と言っているが)の茶色の狙撃銃ウルル13のパーツを出す。最新式のものなのでちょっとした動作で勝手に組んでくれる。


「なんだこれ!?」


 自動で組み立てる銃を見かける機会がないと思う。他の人が驚くはずだ。


「こんな武器見たことねえよ」


 違った。銃自体ないのかもしれない。


「初めて見る?」

「似たようなのだとマスケットだと思うんだが……構造が違うだろうな。予備はあるか」

「うん」


 古い時代の銃の名称が出てきた。魔法があると武器の発達が異なってくるのだろう。そう思いながら、私は予備の狙撃銃を出す。同じウルルシリーズだが、軍用として使われるウルル・ド・45である。ウルル13と比べ、少し重いが、特殊な銃弾も問題なく使える代物である。


「うーん。技術が段違いだな。下手な改良したら壊れる可能性があるか。気を付けて管理しとけ。すまんが、今の俺じゃ何も出来ん」

「分かった」


 世界が違えば、技術も異なる。何でも取り扱えることが理想的だが、仕方ないことだ。


「その代わりと言ってなんだが、魔法銃はどうだ」


 代わりになりそうなものを提案してくれた。名前からして魔力が必要な感じがあるのだが。


「魔法だったら無理なんじゃ」

「いや。魔弾と専用の銃さえあれば使えるから問題ないものだ」


 物色中だったカエウダーラがようやく話に入って来る。


「あの。試し撃ちしてもよろしいかしら?」


 話に出ていたマスケットに近い銃を抱えながらである。かなり目が輝いていらっしゃる。


「外で出来るところがある。矢印に従えば、的とかあるから使いな」

「ありがとうございます」


 カエウダーラはどこかに行った。そして撃つ音数発が耳に届く。


「ひょっとしてカエウダーラが持ってったのは」

「ああ。魔法銃だ」


 静かになったと思ったら、カエウダーラが満足そうに戻ってきていた。


「これ良いですわね。買いますわ。また来た時にあったらですけど」


 自分の武器は自分の金で買いたいみたいだ。グロリーアがいるから、普通に買って貰えるはずだが果たして。


「必要経費だろ。僕が払っとくよ」


 予想通り買ってもらえる。武器屋の主が目をぱちぱちとしている。普段から奢るようなタイプではないのか。


「意外だな。あんたがそんなこと言うなんてよ」

「ある意味仕事の責任者でもあるからね。これぐらいは」

「なるほどな」


 軽く理由を聞いただけで主は納得していた。優秀だが社畜性質持ちなのは知り合いも分かっていたようだ。


「あ。それじゃ私も付与とやらを」

「おうおう。ちっと待て」


 ここで一気に用事を済ませておこうということで、武器屋の主が出来る範囲で武器のメンテナンスをしてもらえた。金は全部グロリーアということもあってか、足りないなんてことがなかった。本当にありがたい。

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