第4話

「おやおや、今日は随分と大勢で。」


大勢って、3人だけどね。

神父さんが優しく出迎えてくれた。


「かぼちゃのお裾分けに来ました。」


「それは、それは。孤児院の方へ運んでくれるかの?」


「はい。サントンお願いね。」


「任せてください。」



「神父さん、下拵えはどうしましょう?」


「ふむ、近隣からも手伝いに来てくれてる者がおるでな。しかし、まあカボチャは固いからのう。」


「荷車を引いてるサントンは料理人なので、お手伝い出来ますよ。」


「なんともありがたい。今夜は美味しいカボチャが食べれそうだわい。」


「神父さんは、孤児院にお住まいなんですか?」

「そうじゃよ。」


こういうところまで田舎と同じか。

でもきっと、大聖堂の方は違うんだろうなあ。



「それじゃあ、私も孤児院の方を手伝って来ますね。」


私は、リリアーヌを引き連れて孤児院へと向かった。


そこで見たものはっ!!!

若い女性と仲良く下拵えをしているサントンの姿だった。


「お嬢様、早く下拵えを致しましょう。」


せかすリリアーヌ。


えっ?もしかして?


「もしかしてリリアーヌ、サントンの事が?」


「はい?私があの虫けらを?」


む、虫けらって・・・。



「邪魔しちゃ悪そうだし。」


「目の前でイチャつかれるのは、殺意が芽生えます。」


あっ、居たわ、こういう友人。

全然、好みの男性ではないのだが、目の前で仲良くされるのはムカつくという。

アレだわ。

リア充死ねって奴ね。


サントンを庇うわけではないのだが。


「仲良く下拵えしてるだけで、イチャついてはないんじゃない?」


「虫けらのデレっとした顔がイラつきます。」


・・・。

サントン・・・、虫けら確定なのね><


「もしかしたら、あの女性は人妻かもしれないでしょ?」


「それは、何とも香ばしいですね。」


ひとの不幸は蜜の味ってのは、よく言うものね。

でもこれって、ドラマのタイトル名なのよね。

いつのまに格言っぽくなったのかしら?


まあいいや。


「それじゃあ、お手伝いしましょうか?」


「もう少し、二人きりにさせてあげたら如何でしょう?」


リリアーヌ、あんたって奴は・・・。



帰り道のサントンは、意気揚々としており、ちょっとウザかった。

リリアーヌが聞こえないような舌打ちをしたのは言うまでもない。


「お嬢様、いつでも教会へ付き合いますので、気軽に声をかけてくださいね。」


ああ、はいはい。





翌朝、まだ薄暗く、起きるにはまだ早い時間に目が覚めた。


・・・。


目が合った。

何を言ってるかよくわからないかもしれないから、もう一度言おう。

目が合った。


男女の睦ごとで朝チュンを迎え、愛する人と目が合うならまだわかる。

だが、私は、まだ10歳だし、普段から一人で寝てる。


なのに、目を開けた途端、目が合うって、もはやホラー。


心臓が止まるかと思った。


こう思う時点で止まることはないんだけども。


「おはようございますお嬢様、まだ起床時間には早いと思いますので、今しばらくお休みください。」


休めるかーっ!

もう、ばっちり目覚めたわっ!


何なのこの人、マジで怖いんだけど。

えっ?


「な、何をしてるのリリアーヌ?」


「お嬢様が起きるのをお待ちしております。」


「心臓に悪いので止めて欲しいんだけど。」


「心臓に悪いですか?」


「ええ。」


「そうですか。だが断るっ!」


か、返されたっ!だが断るを返されたっ!


「明日から、リリアーヌが来るまで、ちゃんと寝てるから、頼むから止めてください。」


心底止めて欲しいので、最後は敬語になった。


「そうまで言われては仕方ありませんね。」


私は、ほっと一息ついた。


「まだお時間は早いようですが、如何致しますか?」


「紅茶をお願い。」


「畏まりました。」


バッチリ目が冴えきってるので、今更、寝れんっ!


私の一日のスケジュールは意外と忙しい。週3で家庭教師が屋敷を訪れるので、週の3日は、自由がない。

元々、義弟の為の家庭教師だったのだが、義弟とは同じ年なので、一緒に習ってる。

他の4日についても、なんやかんやで一日が埋まってる。埋まってない時間は、フラフラと出歩いてしまうので、何かしらで埋められてしまう。


うーん、窮屈だ。


悪役令嬢の元祖とも言われるアレに習って謙虚堅実な塾に通うか?

って無いからっ!そんなものこの世界には・・・。


私が屋敷にいる時は、お母様とのお茶会が15時から、開催される。

単なる3時のおやつなのだが、お茶会と呼ぶらしい。


「アウエリア、何か困ったことはない?あなたはうちの子なのだから、遠慮せずに何でも言っていいのよ。」


「では、貴族学院に行きたくないです。」


「それは駄目よ。」


「・・・。」


何でもって言ったのに!


「貴族学院へ行くのは貴族の義務よ。」


「王族は行かれない方も居ますよね?」


「あら、王族は王族よ。貴族ではないわ。」


「公爵家のものも行かれない事があるとか。」


「ごめんなさい。うちは侯爵家なの。」


くっ、どうあっても貴族学院は回避できそうないらしい。

てか、前世の時から思ってたのだけど、公爵と侯爵って言い方同じなのに、なんで会話が成り立つの?

同じ呼び方でややこしいわっ!


「それ以外の事なら何でも言ってちょうだい。」


「特にありません。」


「あら、すねちゃったかしら?貴族の義務だけは、私にはどうしようもないの。ごめんなさいね。」


ノブレス・オブリージュ。

前世の時は、ちょっと憧れたりもしたもんだけど。


め、面倒くせえ。

嫌だよノブレス君、お前は強制力の回し者かっ!


「ちなみにアウエリアは社交界に出る気はないのよね?」


「全くありません。全力で拒否します。」


実父を告発したような私が、そんなものに出た日には、標的以外のなにものでもないだろう。


「社交は令嬢の嗜みなのだけど、さすがに義務ではないから。」


ノブレス君が出るなら、私は、孤児院へ家出する。


「12歳のお披露目はどうするの?」


困ったことに、貴族にはお披露目なんてものが存在する。


「いつの間にか終わったことにしましょう。」


うん、それが一番。


「駄目に決まってるでしょ?」


「私は晒し者にはなりたくありません。」


「・・・。」


「・・・。」


無言で見つめ合う私と義母。


「では、アーマード伯爵一家だけ、お呼びしましょう。」


アーマード伯爵は、義父の弟で、領地を引き継いだ方だ。


「家出しても?」


「あら?リリアーヌから逃げられるとでも?」


私は、後ろに控えているリリアーヌを見た。

何やら不気味な微笑みを浮かべている。


こんな感じで無事お茶会は終了した。

どこが無事なんだ・・・。


「リリアーヌ、こう毎日、日程が詰まっていたら息が詰まります。」


「確かに、いくら貴族の令嬢といえども、今のスケジュールは酷ですね。」


「わかってくれるのね。」


「はい。」


「家を出ようと思うの。」


「なるほど、家出ですね。」


「いえ、出家よ。」


「出家?」


「家を出て孤児院に入ることよ。」


本当は仏門に入ることなんだけど、この世界に仏門はないので、どりあえず孤児院に置き換えた。


「本気で?」


「ええ。」


「なら仕方ありません。とりあえずお嬢様を縛り上げてから奥様に報告します。」


「見逃してくれないの?」


「はい。」


ぐぬぬぬ。


「折衷案があります。」


「とりあえず聞こうかしら?」


「私が奥様に報告して、スケジュールをもっと緩やかにしてもらうというのは、如何でしょう?」


「リリアーヌがお母様を説得してくれるの?」


「はい、私がきょ・・・説得いたします。」


えっ?きょ、脅迫って言いそうだった?

まさかね・・・、私の勘違いよね?


「なので、出家はしないでください。」


「わかったわ。とりあえずリリアーヌに任せます。」


それから直ぐに、私のスケジュールが見直されることになった。

って、リリアーヌ、どんな脅迫したのっ!?

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