③機神と運命の不在証明 -種族最後の希望が全員俺に依存している人外娘-

オドマン★コマ / ルシエド

プロット

◎プロットテンプレ


◯参考作品

 ブレイクブレイド


◯世界観

 宇宙からの侵略者『ヴェノム』が西暦2678年に襲来し、人類が滅びてから100年ほどが経過した後の地球が舞台。

 地上で繁栄しているのは竜型のドラグ系ドレイク・ヴェノム、植物型のプラント系ツリー・ヴェノム、クラゲ型のフィッシ系ジェリー・ヴェノムなどが中心。


 ヴェノムは侵略先の星の生命体を全て捕食し、その遺伝形質を取り込み、それをそのまま己と子孫に反映したり、組み合わせ・組み換えを繰り返してから反映したりすることで生存に最適な形質を模索する。

 そのため、現在の地球に存在するヴェノムは何らかの形で地球の生物の再現、あるいは混合、ともすればいずれかの形質を昇華させた姿をしている。


 鳥型ヴェノムは皆生存のために人の手の平より小さい個体のみが存在するようになり、爬虫類から回帰した恐竜ヴェノムやドラゴンヴェノムが跋扈し、珊瑚と遺伝融合した巨象ヴェノムはアフリカで多くのヴェノムを背中の珊瑚森に住まわせる移動型市街地となっている。

 5mを超える白血球ヴェノムが群れで砂漠のメタルラクダヴェノムを捕食し、スギ樹ヴェノムは動物の体内で発芽して肉を食って森林に育つ花粉をばら撒き、四本の足で山を駆け狩りをするサメヴェノムはそんな花粉による『花粉症』に悩まされ、100mを超えるアゲハチョウヴェノムが草原でライオンヴェノムの脳を吸っている。


 西暦2678年の人類が作った近未来街や基地の残骸、人類健在の頃から残ったままの山や谷に、富士山より巨大なスズメバチの巣、エベレストを数倍に拡張した竜の産場、紫のナメクジが吐き出した粘液だけで出来ている地中海とそこに住まう魚介類、マグマにまで届いた蟻の巣を乗っ取った炎の鳥の棲み家などが跋扈する。


 主人公は平成の日本でトラックに跳ねられ、気付けばこの世界で最も弱く虐げられているヒューマ系ヴェノムの村にいた。

 主人公は滅亡の危機に瀕していたヒューマ系ヴェノムや、他の滅亡秒読みヴェノム達の力を束ね、彼らを手慰みに滅ぼそうとするドラグ系サーペント・ヴェノムの一団と戦おうとする。


◯主要キャラクター

■笛吹ロミオ

 ・主人公

 ・口癖は『口』がつく慣用句全般。「開いた口が塞がらないよ」「口を慎め」「皆に口を揃えて言わせるのが僕の仕事だから」等

 ・柔らかい茶髪のショートヘア、常に柔らかい微笑みの利発そうな美形

 ・作中の女の子達からは正直で優しく理性的な、冗談を好む人に見える

 ・読者からは地の文の情報のせいで少しばかり胡散臭く見える

 ・純粋な善意に純粋な悪性、決して揺らがない仲間意識をコンセプトに


「はは、開いた口が塞がらないよ。こんなに上手くいくとはね」

「一生バレない嘘なんて珍しくもない。特に確かめる機会がないものは」

「ほら、口を揃えて賛同してくれた。行った通りだったろう?」


■スミレ

・ヒロインA

・ヒューマ系『アメーバ・ヴェノム』の液体少女

・青く透き通った液体と気泡で人間を模す。単細胞と水分の集合体

・生誕から2年、肉体は20歳程度の成人女性状の液体、14歳人間相当の精神

・喋るのが下手で、のんびりとした話し方をするが、調和を好み喧嘩を止める気性

・主人公を最初に助けた少女だが、以後の日常では主人公に助けられっぱなしで、目をかけてくれて一切責めない主人公に可愛らしい初恋と執着を抱く

・純朴、純粋、素直、天然、仲良し、気弱、口下手をコンセプトに


「あ、あの、その……ちょっとだけ思ったことがあるんですけど……」

「お兄さん、お水ありがとうございます……たしゅかりましたぁ……」

「私達は弱いので、力を合わせて生きていかないといけません。それは、私達は手を取り合って生きていくために生まれて来たのと同じことだと思うんです。それってとっても素敵なことだと思いませんか?」


■タンジー

・ヒロインB

・ヒューマ系『ヨークシャテリア・ヴェノム』の獣少女

・茶と黒の毛並みが印象的で、主人公から見ると毛に覆われた大柄で豊満な美女。肉体は成人女性くらいに見えるが、現在12歳で子供っぽい。複乳

・身長は2mを超えバストも90cmを超える圧巻の肉体であり、ヨークシャテリア・ヴェノムの中では大柄だが、獣系ヴェノムは平均10mであるため、相対的に小粒

・一族の多くがパラサイト系ヴェノムの寄生虫によって体内から食い殺されるのを見てきたため、一族で格別に体が大きい自分が皆を守ろうとしている

・考えるのが苦手で難しい話が分からない。そのくせ難しい話をする彼女より頭の良い他者を『自分より頭が悪い』とごく自然に思って殴って黙らせるため、、頭の良い者の話を聞かなくなるという悪癖がある

・主人公が言葉巧みに説得し、戦術を与えた結果これまで倒せなかった敵も倒せたため、主人公を『世界でただ一人自分より頭の良い人』と慕い、独占欲が芽生える

・単純、馬鹿、従順、猪突猛進、暴力的、好戦的をコンセプトに


「死ね。膂力も無い男に価値はない」

「くたばれ外敵。この村は、スミレは、父さんは、あたしが守る」

「あっはっは、軍師どのー! いやいや今は何を考えてるんすか? あたしにもちょっと教えて下さいよー! いやぁあたしじゃ言われても分かんないと思いますけどね!? 次の戦いもお願いしまっすねー! あ、肩お揉みしましょうか!? 明日は美味い肉持ってくるんで楽しみにしといてください! ……力が強いだけで、皆を守ると言ってるくせに何も守れなかったあたしに皆を守らせてくれて、ありがとうございますっす、ほんとに」


■ネモフィラ

・ヒロインC

・ヒューマ系『ビー・ヴェノム』の、10cmほどの妖精に見える蜜蜂少女。複眼

・体は小さいがもう30年ほど生きていて、皆に事あるごとにアドバイスをする

・ビー・ヴェノムは村において最も数が多く、蜂蜜の蒐集や家屋の建築、木の実の蒐集に広範囲のパトロールなど、果たしている役目が最も多い

・この種は自己発電するオリエントスズメバチという種をベースにしているため、かなり強力な電気攻撃を使うことができる

・ネモフィラはビー・ヴェノムの七人の指導者の一人であり、賢く偉い

・しかし同族に話の合う異性がおらず、キャリアを詰みすぎたせいで見合う格の相手もおらず、同年代は皆結婚した後で、少し焦ってきている。子を産めない女王蜂

・賢人、知識豊富、権力者、行き遅れ、飛行能力、初心OL美女をコンセプトに


「筋の通った話ができるなら聞く耳はあるわ。そのよく回る口で語ってみなさい」

「なっ……い、意地悪なことは言わないで頂戴……」

「他の皆は貴方がずっと居てくれると思ってるけど、わたしはそうは思わない。皆は貴方が救世主だと言ってるけど、わたしはそうは思わない。貴方だってこんな世界で生きていきたいとは思わないでしょう? 貴方は帰る方法を探すべきだし、わたしはそれに全力を尽くすべきだと思ってる。それが貴方に命を救われた一人として、果たすべき責任だと思うから」


■カランコエ

 タンジーの父。タンジーが生まれる前はヨークシャテリア・ヴェノム歴代最大最強と謳われた男だったが、皆を守るためかつての撤退戦で片足を失っている。ヨークシャテリア・ヴェノムの一族の族長。


■アゲラタム

 オーチャード・ヴェノム。生きた移動する果樹園。喋らず、理性もなく、動くこともないが、意思はあって弱小種族に同情しているらしい。フェロモンによる情報伝達で一つの森が一つの意思を持つ果樹園。群生にして一人。かつて地球に存在した穀物・野菜・果樹をそのまま実らせて、皆の食料を賄う。


■ルピナス

 ホースオストリッチ・ヴェノム。ダチョウと馬、そして甲殻虫の混成体。人間程度の知性を持ちながら『積極的に他の生物の家畜になる』という性質を持った種族の一体で、とことん他者にとって都合の良い存在で居ることで生存を達成する。格別に身体能力が弱い主人公の乗り物役。


■ダチュラ

 グラスキャラップ・ヴェノム。ホタテの色と硬度を持つ海藻の陸生ヴェノム。口と耳がないので音によるコミュニケーションが取れず、主人公とは会話ができない。それぞれが個別の意識を持つ村の仲間ではあるが、個体識別名に意味を見ない文化圏の存在であり、周りからは識別のために『ダチュラ1』などの名で呼ばれる。未来世界では『周辺環境を自分に適したものに変化させる』『特殊な呼吸を行う』『周囲に毒を散布することで敵と獲物を弱らせる』などのヴェノムが存在するため、周囲の大気を浄化し酸素を産生するダチュラの周囲でしか人間は生きられない。ダチュラの生息域を失うことは主人公のロミオにとって死を意味する。



◯物語構成


■第一章

 平成の日本でトラックに跳ねられて意識を失う主人公・ロミオ。この時はトラックに跳ねられるまでの流れは不明。目覚めるとそこは未来の世界。まともな植物も大気も残っていない中、死に至るまでのほんの数分に希望を探すも、数mある巨大な肉食ゾウリムシや数万匹で群がる指先ほどの多頭チーターなどに追い詰められる。逃げ切ったものの窒息死を迎えそうになったところで、スライム娘のようなスミレ、獣人のようなタンジーに助けられる。


■第二章

 村で目覚めるロミオ。様々なヴェノムと出会い、ヴェノムというものを知る。そしてこの村のヴェノム達は他の地域では虐げられていて、意思疎通ができる弱小ヴェノムで混成の群れを成し、ここまで逃げてきたということも知る。子供らしく泣くスミレに「俺達の運命は生まれた時から決まっていたんだ」と叱る大人に言いようのない苛立ちを感じたロミオは、この村のヴェノムに協力することを決める。村の有力者を言葉巧みに騙し、戦う者をその気にさせ、話に聞いた侵略者ドラグ系サーペント・ヴェノムの先鋒を、二度の戦いに渡って中国戦史定番の嵌め方で一方的に倒すことに成功する。


■第三章

 ヴェノム達の高度な知性と拙さすら感じる騙されやすさに疑問を覚えたロミオは、「鉄の迷路」とヴェノムらが呼ぶ場所に突入する。先の戦いを経て、スミレ、タンジー、ネモフィラの信頼を得たロミオは、彼女らの力を借りて半壊した人類の近未来軍事基地───鉄の迷路を進んでいく。特にロミオの指示で作戦を成功させ、人生初の成功体験を得たスミレの傾倒・依存は相当なものだった。

 ロミオは師匠の「人間は歴史を重ね、嘘と詐欺を次々発明し、それを周知することで引っかからなくなり、その警戒をすり抜ける嘘と詐欺をまた発明し、それを繰り返すことで歴史を重ねていく」という言葉を思い出していた。戦争も、詐欺師も、人間関係も同じ。『騙しの発明』の繰り返しこそが、『騙されない』を作る。歴史が浅い種は戦争で騙され、詐欺師に騙されるものである。ロミオはヴェノムが最近発生した種であるという推測の証拠を求めて来ていた。

 冒険が彼と彼女らの絆を深めていく。


■第四章

 発見される紙媒体の記録。それは人類最後の日記の一つだった。ヴェノムとは地球外生命体であり、人類を滅ぼす侵略者であった。ヴェノムは地球の生物達を取り込んで変異を繰り返し、その進化に対応しきれなかった人類は各地のシェルターに逃げ込んだものの、やがて全てが殺し尽くされたのだという。今は鉄の迷路と呼ばれるこのシェルターも、サーペント・ヴェノムという生物との攻防の果てに敗北と全滅を迎えたことが書き残されていた。

 近未来人類の兵器が一方的に蹂躙されていく戦闘記録によって、甘く見ていたサーペント・ヴェノムの凄まじい戦闘力を見せつけられ、ここまで『勝てそう』という空気で進んで来ていた彼女らの落胆は目を覆うものがあった。

 ロミオは継続して資料を確認し、ヴェノムらが歴史の浅い新種、すなわち文化継承の薄さゆえに嘘や詐欺の知識蓄積がなく、簡単に騙される生物であることの確信を手に入れていた。


 更に、あの村が『意思疎通ができるヴェノムが集まった村』であることの意味と、人間が一人も居ないあの村でロミオの言葉が通じていることの意味を理解する。

 ヴェノムは取り込んだ生物を吸収・模倣・組換をして大なり小なり再現する。つまり日本人を吸収したヴェノムとその子孫は、何らかの形で日本人を再現するということである。スミレ達が部分的に人間の美少女に近いのは、かつて食われた日本人の美少女が居たから。彼女らの意思疎通のフォーマットが日本語なのは、かつて食われた日本人が居たから。この村のヴェノム達は、アメーバも、獣人も、蜂も、貝も、果樹園も、海藻も、全て日本人の残滓の末裔と言える存在なのだった。

 彼女らは取り込んだ日本人の残滓で感覚的に日本語を読んでいるだけで、理論的にそれを読んでいるわけではないので、英語の文章は読めていなかった。


■第五章

 サーペント・ヴェノムの襲来が迫る。サーペント・ヴェノムは自らの遺伝子凝縮体を宇宙に放出・拡散する『終焉発芽』まで秒読みという段階に入っていた。その前により多くの遺伝子を捕食で獲得し、変異し、より多様性のある多くの種を宇宙に打ち上げようとしているのである。


 先遣隊によって村は襲撃され、村民は植物の種族なども含めて鉄の迷路に逃げ込んだため死者は出なかったものの、村は1/3が燃え尽きてしまう。本隊が来れば残りも焼き尽くされ、村のヴェノム達は草の根分けての捜索活動によって一体残らず食い尽くされてしまうだろう。生き残りの間に絶望が広がる。

 ロミオはサーペント・ヴェノムの先遣隊が「生まれた時から強者に食われて終わるべき運命というものも存在するのだよ」「諦めて終わるが良い」と言い捨てて消えていったことに、言いようのない不快感を覚えていた。


■第六章

 主人公の過去回想。主人公は親の借金のせいで強制的に詐欺師グループの『ハブ』にされた存在だった。ハブは半グレや詐欺師グループが使う存在で、深夜にコンビニ前にたむろする十代の不良少年達や、ツイッターで募集をかけた金に困っている若者達、その他受け子などで集められた若い層に対する交渉役などに使われる、ある程度上からの信用が高い『若者を騙す若者』の役割の人間であった。

 つまり、対若者特化の交渉役で詐欺師に近い存在であり、そのための技能を仕込まれた存在であった。


 親を自殺に追い込んだ人間達に手を貸さなければならない日々に鬱屈しつつも、若者を犯罪に巻き込む日々。平凡な幸せに退屈している子供を薬の売人にして、家出少女をソープに回し、明日に希望がない少年を半グレの鉄砲玉に斡旋していった。

 ある日、ロミオはソープに紹介する予定の、一人の少女と出会う。

 少女の名前は菫(すみれ)と言った。

 菫はロミオと同じく、親の借金を背負わされ、ヤクザに合法的に返済の意思を確定させられ、体を売って金を稼ぐことを強要されていた少女だったが、不思議とその笑顔に陰りはなく、また他者への優しさも失っていない少女だった。

 境遇が似ていたからか、ロミオと菫は不思議と話が合った。弾む話。共感に次ぐ共感。初めての理解者との出会い。自然とはにかみ、笑い合う。

 その過程で、ロミオは生まれてから一度もケーキを食べたことがないという話をする。冬のストーブも、夏に飲むスポーツドリンクも、誕生日プレゼントも、『普通』の何もかもをロミオは知らなかった。

 菫は財布に残っていた最後の小銭で、小さなケーキを買ってロミオに送る。「私達の出会いを祝して」と。

 ロミオは泣いた。生まれて初めての贈り物に、生まれて初めて涙した。どんな金持ちの偉大な贈り物より、菫のケーキは輝いて見えていた。これから絶望の底に落ちることが分かっていてなお、最後に残ったなけなしの財産全てを、今日出会ったばかりのロミオにケーキを食べさせるために使う、その心にロミオは輝きを見た。


 その日、ロミオは誰かの食い物にされるだけの人生を辞めた。未来世界で、ロミオと出会って誰かの食い物にされるだけの人生を辞めたヴェノムらと同じように。

 ロミオは抵抗を始めた。嵌められた少年少女の親に連絡し、警察に流せるだけの内部情報を流した。身寄りのない子供に組織の金を握らせ、遠くに逃した。ヤケになって人生を捨てた十代の皆を、その話術で説得していった。菫を救うため、菫のような子達を救うため、自分のような子供をもう二度と作らないため、奔走した。「生まれた時から決まっていた運命などない」と叫ぶために。しかしそんな無理が長続きするわけもなく、組織に差し向けられたトラックに跳ね飛ばされ、今に至る。


 時は現在に戻る。ロミオは言葉巧みに村のヴェノム達を勇気付け、煽り、嘘を混ぜ込んだハッタリで勝ち目があるように思わせる。サーペント・ヴェノム相手にこれから生き残る道を見つけるために。ロミオに全幅の信頼を置くスミレは、フニャフニャした体に不相応の硬い意思で動き出し、勝利の希望を探し始める。その姿に引きずられるようにして、他の皆も動き始める。

 「生まれた時から決まっていた運命なんてないって、証明したいんです」

 「……運命の不在証明、か」


■第七章

 諦めないスミレが鉄の迷路の奥の奥、固体の肉体を持っている生物では入ることもできない密閉空間があるのを発見する。

 経年劣化と地盤沈下でヒビが入っていたそこに液体の体を活かして入り込むと、そこには未完成でコードさえも剥き出しな、機械の巨人が存在した。

 カランコエら獣人が掘り、ルピナスら鳥獣が土砂を運搬し、皆で力を合わせてあっという間にそこへの経路を確保する。

 ヴェノムらに読めない英語をロミオが解読した結果、『時を越えて送られた人類最後の希望』という名が付けられていることが分かった。西暦の最終盤、最後の人類がヴェノムを駆逐するために製造したものの、人類の滅亡までに間に合わなかった一品……ロミオはそう結論付ける。


 他の誰が乗っても機体は反応しなかったが、ロミオが乗った時だけ機体は反応し、モニターには光と文字列が浮かび上がる。しかし、ひと目見て分かるようにこの機体は未完成であり、動くことすらままならないものだった。サーペントと戦うことなどできるはずもない。

 一瞬見えた希望が潰えたことに、皆落胆を隠せない。しかし皆が守ってきた村の子供の何気ない言葉がきっかけになり、機械の巨人は思わぬ形で完成を見た。


 人間の脳の性能と反射神経ではヴェノムと戦えない。ゆえにこの機体は遺伝子調整がなされた超人が乗せられる予定であった。しかし超人の製造は間に合わず、人類は全滅した。で、あるならば。超人の代わりに獣人を乗せればいい。タンジーが機体の運動制御を担う補助コクピットに搭乗した。


 この機体は既存兵器を超える反射と駆動を前提として設計され、そのために最新式の油圧駆動システムを搭載されていた。しかしシステムに見合う特殊オイルの開発が間に合わず人類は全滅した。で、あるならば。オイルの代わりにアメーバのスライム娘を流し込めばいい。スミレが油圧システムに流れ込み、コクピットからの指示を受けて動くことで、機体は問題なく稼働した。、


 最後に、この機体は100年以上前のものと推測されるのに電源が生きているが、戦闘行動を取るならば桁違いの電力が必要となる。そのためには専用の施設での充電を継続して行わなければならないが、もはやそんな施設は残っていない。つまり電気が無い。で、あるならば。発電能力を持つネモフィラと彼女に従う同族の蜂達が機体内部に入り、機体を動かす電気を常時供給すればいい。


 皆が力を合わせ、特殊な黒い泥土を焼成した軽く頑丈な鎧を機体に装着し、機体は弱者を守る騎士の如き姿で完成を迎えた。

 そして、機体を動かす唯一の資格を持つロミオが乗れば、機体は動き出す。

 運命などというものはないと、世界に証明するために。

 弱者が力を合わせれば、どんな未来にも辿り着けると証明するために。

 機体の名は『ヴェノムセイヴァー』。皆で話して、そう決めた。


 規格外としか言いようがない壮絶な無双の果て、ヴェノムセイヴァーはサーペント・ヴェノムを一体残らず撃退し、弱者の最後の砦を守りきった。

 逃げ出したサーペント・ヴェノム達から噂を聞き、やがてこの地は希望の地であると言われるようになり、弱者が逃げ込む、そして強者が狙う土地となっていく。


■第八章

 戦いが終わり、祝勝祭が始まる。生き残った村の皆々と交流するロミオ。特にヒロイン三人の依存と信頼は凄まじいものがあった。こんなにも終わっている世界だが、人間なんて一人も生き残っていない世界だが、まあ上手くやっていけるんじゃないか……と、ロミオが思ったその時。

 村の子供達が、最初にロミオが倒れていた場所で拾ったと言って、大きめのリュックサックをロミオに手渡す。

 リュックサックの中にはいくつかの道具と、手紙が入っていた。


『笛吹ロミオ様。突然このような無理難題を貴方に託すこと、なんとお詫びしていいか分かりません。しかし、貴方しか頼れないのです。我々は時間改変に対する修正要員として、貴方が最も相応しい能力を持っていると、そう結論付けました。あの時代にあの場所で、あのトラックに轢かれて死ぬはずだった貴方に、未来を託します』


『リュックサックの中に、貴方が今居る世界でも呼吸等が可能になる生命維持装置と当面の食料、それといくつかのツールが入っています。詳細は脇のポケットに入ってる小冊子を確認してください』


『本来、人類は西暦3000まで絶滅の危機を迎える可能性はありませんでした。しかし我々の時代、西暦4675年に過去への干渉が行われてしまったのです。犯人は、人類は絶滅して星を解放すべきであると主張する、母星至上主義過激派。彼は自らが製造した究極の生物兵器を宇宙生物に偽装し、過去の地球に送り込んだのです。その生物こそが貴方がこれから出会う生命体、ヴェノムと呼ばれる存在です』


『ヴェノムは西暦2678年の地球を破壊し尽くし、時間軸の連続性を破断しました。我々の時代は時間改変の影響を抑えていますが、それでも主観時間で何十年とは保たない試算になります。既にこちらの世界は大規模な破壊の渦中にあります。我々の時代から直接時間改変に赴けないのはそのためです。ロミオ様の生きた時代の側から、過去の側から改変を行うしかありませんでした』


『ロミオ様。できる限り急ぎ、その時代で全てのヴェノムを駆除してください。そのための機体を同時に送り込みました。出現場所にブレがあるかもしれませんが、複数機を送り込むため、確率的にロミオ様が歩いて行ける範囲に一機は出現する計算になります。急ぎ送ったため、一部の機体は未完成ですが、VRVT一番機から十二番機はヴェノムでない人間が触れれば、どんな形でも貴方の力になってくれるはずです』


『因果は、運搬が可能です。貴方がいずれかの機体でヴェノムを全滅に至らせることができれば、ヴェノムを全滅させたという因果を機体が保持し、過去に転移し、ヴェノム出現と同時にヴェノムを全滅させることができます。そうして歴史は修正され、人類の全滅は無かったことになるでしょう。それをもって完了とします』


『任務完遂の暁には、我々の持てる全てをもって、ロミオ様のどんな願いでも叶え続ける所存です。もちろん、世界や人類が滅びず、歴史の連続性が失われない範囲に限られますが。ですが私は、世界を救っていただいたお方にはそれ相応の報酬があって然るべきだと思っています。全力を尽くしたいと思っています』


『どうか、お願いします』


『たった一人の悪意で滅びを迎える愚かな我々を、何の罪もなく滅びる人々を、叶うなら私の大切な人を、お救いください』


 ロミオがヴェノムセイヴァーのコクピット内部を確認する。操縦桿の手前のレリーフにしっかりと、『VRVT-12』というコードが、刻印されていた。

 世界の命運はロミオに委ねられた。選べる未来は一つだけ。人類の全滅か、ヴェノムの全滅か。ロミオが滅びなかった方が、皆死ぬ。

 誰も見ていないコクピットの中で、ロミオは一人呻き、嘔吐えずいた。

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