第40話 エーテル宇宙を草色に染めて②

 キュイイイイイインッ!!と吸い込むデーモンやインプ。

 出てきた端から私のお腹の中だ。


「あっ、ナリが何か吸い込んだ!」


「なんだあれは!」


 そう言えば、地元の人たちには本邦初公開だった。

 びっくりしてるだろうけれど、残念ながら説明している時間はないよ!


◯お腹の中

 デーモン×たくさん

 インプ×たくさん

 エーテル


◯レシピ

 オールレンジ・インプ・デーモンミサイル


「よっし!! 錬成!! いっけー!!」


『し、しまっ……!』


 魔王が慌てた。

 猛スピードで逃げようとする。

 だけど、もう間に合わない。


 私のお腹がピカッと光って生まれたのは、今まで見たこともないほど大量の、真っ黒なミサイルの数々。

 それが次々発射され、魔王めがけて殺到する。


 爆発が起こった。

 あちこちで、ミサイルが爆発する。


 まあまあ暗いエーテル宇宙が、パッと照らし出される。


「こりゃあ花火みたいだな!」


 草野球チームが盛り上がり、「たまやー!」とか叫び始めた。

 うーん、異世界の宇宙で魔王と対峙してるっていうのに、とっても呑気だ。


 だけど、それくらいでいいのかもしれない。

 悲壮感たっぷりになったところで、魔王に勝てるわけじゃないもんね。


「ってことで、じゃあアメンボ、行ってみよう! 魔王を追いかけて!」


『スイスイ!』


「ミサイルに次々当てられて、魔王は満身創痍ですよ! ナリさんがこれまでちまちま与えてきたダメージも蓄積してます! 今ならいけますよ!!」


「よーっし!! 決めちゃおう!」


 私が放ったミサイルと並走するように、魔王を追う。

 蛇行しながら飛んでいた魔王が、チョウチンアンコウボディの真上で私を睨んだ。


『あんたーっ!! あんたさえいなければ、あたしはーっ!! あたしがせっかく作り上げた世界を、バラバラにして吸い込んでもとに戻して!! まるであたしを邪魔するために生まれてきたみたいなやつが!!』


「偶然でしょ! っていうか、あんたが無茶苦茶やったから、世界の方でそれを直そうって私を呼んだんじゃないの? だったら自業自得じゃない!」


『こんのっ!! クソ女ーっ!!』


「だぁれがクソ女だーっ!!」


 魔王が突進してくる。

 こうなれば意地の戦いだ。


 私もアメンボを突進させた。

 だけど、まともにぶつかったらこっちが吹き飛んじゃう。


「ギリギリで避けて!」


『スイスイ!』


 アメンボは、魔王の突撃をすんでのところで回避した。

 すると、私たちがいたところに魔王が襲いかかり、そこで派手な星が飛び散った。


 マンガ的表現みたいな、黄色くて大きな星だ。

 まるで実体があるようにも見える……。


「あ、つまりこれで決めろってことか! 吸引!」


「ナリさんの判断が恐ろしく早い! 野生の勘ですね!」


 野生とか言うな!

 トムめ、後で訂正させるからねーっ。


 キュイイイイイイイインッ!


◯お腹の中

 衝撃の星

 エーテル


◯レシピ

 ビッグ・カウンタースター


「錬成! ぶっとべーっ!!」


 私のお腹が輝いた。

 それはもう、まばゆいくらいに輝いた。


 ちょっと遠くにいる両親とか草野球チームとか、友人たちが「うわーっ!!」と目を覆うくらい眩しい。

 それも当然。


 私のお腹から錬成されてきたのは、キラキラと煌く巨大な星だったのだ。


「これは……。今まで吸い込んできたものが、ちょっとずつナリさんの中に蓄積されていたのかも知れません! それが今一つになって、ついに星を作り出す程になった! これはまるで」


「御託は後!! 行け! ビッグ・カウンタースター!!」


 私は輝く星のお尻を蹴飛ばした。


「なんて射出方法! 雑では?」


「うるさあい」


 ゆっくりと動き出したカウンタースターは、徐々にその速度を増す。

 魔王は引きつった顔でこれを見つめていた。


 もう、逃げることも忘れているみたいだ。

 やがて、光り輝く星は魔王を飲み込み……『ウグワーッ!? あ、あたしがこんなところでーっ!? うそうそうそうそ、認めない! 絶対認めないぃぃぃぃぃっ!!』

 往生際の悪い断末魔を響かせながら、消え去ってしまったのだった。


 そして……。

 普段なら、すぐに消えてしまうようなカウンタースターがいつまでも残っている。


 ピカピカ輝いて、まるで小さな太陽みたいだ。

 私は生み出したものだから直視できるようだけど、草野球チームはそうじゃないみたい。


「こ……これは、ナリが太陽を生み出したのか! つまり俺たちは太陽のおじいちゃんとおばあちゃんかあ」


「あらまあ、素敵ね!」


 両親のハートが強い。

 そんな一行の後ろに、穴が開く。

 穴の向こうに見えるのは魔力の渦だ。


 この渦、どうやら東京とカリフォルニアとエーテル宇宙を直接繋げているらしい。

 宝船は魔力の渦に放り出され、一旦東京に戻った。

 それに草野球チームが乗り込み、カリフォルニアを飛び越えてエーテル宇宙まで来てしまったらしい。


 いくら何でも、勢いが良すぎる。

 全く躊躇しなかったでしょ、この人たち。


「おお……! アルケイディアに太陽が……!!」


 なんかトムが感動している。


「実は、アルケイディアは母なる星を失っていたんです。だから宇宙を彷徨い、エネルギーを節約しながら飛んでいました。そんなアルケイディアには未来がないと、乗っていた人間たちは皆、この世界を捨て、外へ飛び立っていったのです。そして誰一人として帰っては来なかった……」


 トムの姿が変わっていく。

 頭身が高くなって、ケミストリになった。


『だけど、この太陽があればやっていける。アルケイディアはこの太陽を係留し、新しい母なる星を目指して旅をしよう。ありがとう、ナリさん。世界は救われた。僕らが暮らす、小さな世界は確かに救われたんだ』


「壮大な話になっちゃったなあ……。でも、悪い気分はしないな。こっちこそ、色々あったけど復活させてくれてありがとう!」


 アメンボの上で、ケミストリと握手した。

 なんとなく、このままここで別れの予感。


「じゃあ私、宝船に乗って戻るね」


『はい。ありがとうございました』


『スイスイ』


 アメンボもこっちに残るんだ。

 めちゃくちゃに大活躍してくれたもんな。

 ゆっくり休んでほしい。


『しばらくは、アルケイディアを立て直そうと思う。そうしたら……まあ穴が空いたので、この穴も係留して行ってここから会いに来るよ』


「あ、割りと自由に来れちゃうんだ? 感傷とかなんにもないな!」


『スイスイ』


「アメンボはいつでも来なね!」


『僕との扱いの差が』


「そこはケミストリを対等な相手だと思ってるからなんだけどな」


『伝わってこないが?』


「察しを良くしたほうがいいんじゃない?」


『雑なナリさんが察しとは一体』


「雑言うなあ」


 わいわい騒いでいたら、宝船が近づいてくる。

 みんな私たちを見て、笑ったり喜んだり。


 こうして、私の冒険は幕を下ろしたのだ。


 =================

本編完!

後日談などをやって終わりに向かって参りますぞ

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