第25話 太陽が登る山②

 あられの山の直上で、私と魔王パナンコッタの戦いが始まった。

 とは言っても、私はちょっと前まで普通の女子高生だったわけで、戦い方なんか知らないのだ。


 魔王が振り回すハンマーが、空中を叩いて巨大な星を生み出す。

 これが私に向けて迫ってくるのを、「うひゃーっ!」って言いながら避けるばっかり。


「アメンボがんばってー!!」


『スイスイー!』


 アメンボマシーンが、必死になって避ける避ける。


「ひえーっ! 今の位置じゃなかったら、僕はこれで五回は落下してましたね!」


「ねっ、胸元に入ってて良かったでしょー」


「ですね! 最初はモラル的に年頃の女性の胸元に入っているのはどうなんだろうと思っていましたが!」


「そんな事考えてたの!?」


『お前たち! なんだか余裕だねえ!?』


 あっ、魔王が私たちのやり取りを聞いて怒った!

 真剣勝負っぽいことの合間に、だべってたらカチンとくるよねー。


『そおら! 雲よ! 焼き菓子になりな! 変われ変われーっ!!』


 魔王がハンマーを振り回すと、周りを漂っていた雲が、どんどんビスケットになっていく。

 ビスケットは重いから、当然落ちてくる。


「うわーっ! 危ない危ない!」


『スイスイ!』


 必死に避けるアメンボマシーン。

 だけど、無限に雲をビスケットに変えられたら、いつか避けられなくなってしまう。

 これはどうしたら……。


「あ、吸い込めばいいんだ」


 私自身の力を忘れてた。


「逃げなくていいよ、アメンボ! 私がぜーんぶ吸い込むから!」


『スイ!』


「うおー! 魔王をやっちまいましょうナリさん!!」


 トムもやる気になったので、言動が物騒になった。

 私は、落下してくるビスケット雲めがけて……。


 キュイイイイイイインッ!!


『なにっ!? 周りの雲とビスケットが全部吸い込まれた!?』


◯お腹の中

 ビスケット×たくさん

 雲×たくさん

 まばゆい銀の光


◯レシピ

 ビスケットガン


「錬成、ビスケットガン!」


 私のお腹がピカッと光り、両手の中に大きな銃が飛び出してきた。

 いわゆるおもちゃの銃、トイガンで、雲をガスみたいに使って、先端からビスケットを発射するみたいだ!


「それ、反撃ーっ!!」


 アメンボマシーンで飛び回りながら、私はビスケットガンを魔王めがけて連射する。

 私はソフトボールをちょっとやってたから、狙いをつけて物をぶっ放すのはそこそこ得意!


『ウグワーッ!? 痛い痛い!』


 ビスケットをペチペチぶつけられ、魔王が悲鳴を上げた。

 でも所詮はビスケット。

 ダメージはなさそうねー。


『ええい、ちまちま、ちょこまかと!! これでどうだい! えいえいえいっ!!』


 今度は魔王、辺りの雲をハンマーで叩きまくる。

 すると、雲がみんな星になってしまった。


 五芒星を丸くしたような、ファンシーな星ね。

 これを魔王が、私めがけて撃ち出してくるのだ。


 さっきの星攻撃よりも勢いが凄い!


「ひゃーっ!」


「ナリさん、吸い込んで吸い込んで!」


「星吸い込めるの!? や、やってみる!」


 キュイイイイイイインッ!!


 思いっきり吸い込んでやったら、なんと星がお腹の中に収まったじゃないか。


◯お腹の中

 インパクトスター

 まばゆい銀の光


◯レシピ

 シルバースター


 よく分からないものになりそう。

 だけど、やってみるしかない。


「錬成!」


 お腹から飛び出しますのは、銀色に輝く星!

 それは誕生するなり、ものすごい勢いで魔王めがけて突っ込んでいった。


『な、なにこれ!? ウグワーッ!?』


 銀の星は魔王に炸裂。

 そうしたら、ポポポーン!と音を立てて破裂した。


 魔王が遠くに吹き飛ばされていく。


「これは……勝った……? いや、ふっ飛ばしただけかあ」


「いえいえ! 魔王を退けたんです! 凄いことですよこれは! やっぱりナリさんは世界を救う人だったんですねえ!」


 トムがうんうんと、頭なのか腕なのか分からない部分を折り曲げて頷いた。

 そうなのかな?

 そうかも……?


 ちょっと調子に乗る私なのだった。


 どうにか魔王を追い払い、私はあられの山の上に降り立った。

 あちこちに、魔王が生み出した星が落っこちている。

 つついてみたら、星型のクッキーであることがわかった。


 そして、クッキーの周りから、だんだん、あられが小型のビスケットやクッキーに変わっていくところなのだ。

 これって、周辺を侵食していくの……!?

 ヤバいヤバい。


 私は慌てて、クッキーを吸引して回った。

 吸引しては、シルバースターにしてその辺りに設置する。


 このシルバースターが何なのかはよく分からない。

 ただ、衝撃を与えると破裂することだけは確か。


 あまり触らないようにしないとね……。


「そういうのって後々触っちゃったりするんですよね」


「やめるんだトム」


 フラグって言うんだぞ。


『スイスーイ』


 アメンボマシーンは、ざらざら崩れてくるあられの中は移動しづらいみたいだ。

 彼は麓で待機してもらい、いざとなったら迎えに来てもらうことにしよう。


 私はトムとともに、山登りを開始した。


 高さで言うと、100mくらいあるからそこそこだ。

 これを足場の悪いあられの中、登っていく……。


「なんとかならないかな」


「それはもう、ナリさんの出番でしょう!」


「ずっと私の出番じゃない!? まあ仕方ないけど。さて、足場の悪い山を登るためのもの……。何があるかな……」


 魔王が戻ってこないうちに、決着を付けないと。

 私は頭を働かせ始めるのだった。


 =================

魔王はびっくりしただけで、まだダメージはほとんどありませんぞ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る